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2016.11.14

意図的再植術により抜歯を回避したYさんのケース

 10月に降った雪もすっかり溶け、今日は日中10℃くらいまで気温も上がるとのこと、
気持ちの良い週明けを迎えましたが、皆様いかがお過ごしでしょうか、
なえぼ駅前歯科の大村です。
今週末の19日(土)にはいよいよ市民フォーラム「その歯、抜かないで」~割れた歯を救う
接着保存術~ が開催されます。

市民フォーラム告知(パンフレット)

これまでもこのブログで何度かお伝えしてきましたが、「割れた歯は抜歯」というのが
従来、歯科の常識とされてきました。しかしながら、我々PDM札幌のメンバーは、割れた歯も
救う手立てがある(破折歯接着保存治療)ということを一人でも多くの方に知っていただこうと、
2014年からこの市民フォーラムを始めました。

今回、11月の道新、読売においてもこの市民フォーラムは紹介されており、
更に東京の歯科医師からもぜひ聴講したいとのことで問い合わせがあり、
当日参加される予定です。この治療法を行える歯科医院は限られていますので、
ぜひこの機会にご自身の歯の万一の備えとして、あるいはご家族、ご友人が
歯が割れて困った時のために聴きに来ていただければと思います。

さて本日は、歯根に大きな根尖病変を有しているが、通常の根管治療では治せない
下顎大臼歯に矯正的挺出後、パワーエレベーター(インプラテックス社)を用いて
意図的再植術(一度抜歯を行い、口腔外で根の先の感染部を除去して元に戻す方法)
を行ったYさんのケースをご覧いただこうと思います。

Yさんは来院時、右下奥が噛むと痛いとのことでしたので、レントゲンで状態を確認させて
いただいたところ、右下奥(2本とも)に根尖病変を認めました(図1)

図1
                  図1

(矢印で示した黒い部分は感染により歯根周囲の骨が溶けてなくなっている状態)。
Yさんの話ではかなり以前に行った根管治療ということでしたが、根尖付近の根管内に
腐敗産物、感染歯質が取り残されていることが原因でこのように病変を生じていました。

一番奥の歯(親知らず)の遠心根(向かって左側の歯の左の根)は根の先まで開けて
何とかきれいにすることができましたが、近心根(右の根)は根管の途中がすでに閉鎖していて
全く先端部分に到達できず、一つ手前の歯に至っては2つの根とも途中で閉鎖しており、
先端の腐敗産物、感染歯質をきれいに取り除けず゚(゚´Д`゚)゚、最早根管治療で改善させることは
困難な状態でした。

こういう場合抜歯を避ける最終手段として、意図的再植術という外科処置での対応となりますが、
この歯は骨植が非常に良く、更に歯根も異常に長く(日本人の平均歯根長は11mm前後なのですが、
この歯は何と17mmもありました)、そのまま抜歯、再植を行うことは却って歯の寿命を縮めてしまうと
考えました。

そのため術前処置として、矯正的挺出(矯正力をかけて歯を引っ張っておくと、抜歯が容易になり、
抜歯による歯根膜へのダメージを少なくできる)を行い、術中は抜歯の際の、歯根膜の損傷による
将来的なトラブル(置換性吸収)をできるだけ避けることを主な目的として、エムドゲイン(再生材料)
の使用をご提案しました。

しかしながらYさんは保険給付内の保存治療で経過を見たいと希望されたため、ひとまずブリッジを
装着して治療を終了しました(図2)。

図2
                          図2

それからしばらくして歯ぐきが腫れたとのことで再び来院されました。
再度術前矯正を伴った意図的再植術をご提案したところ、今度は治療を希望されたため
処置を進めていきました(図3、矯正的挺出終了時、歯ぐきが腫れている)

図3
                 図3

抜歯、再植当日は、通常の再植用鉗子(再植、移植用の抜歯器具)に加えて、インプラテックス社で
取り扱っている「パワーエレベーター」という特殊な道具も用いて抜歯を行いました。
矯正力をかけたのでわずかに動揺もあったのですが、それでもなかなか抜歯されず 
歯根膜を傷つけないよう、何と30分以上もかかって、ようやく抜歯されました v(=^0^=)v

少々不謹慎なのですが、臨床経験30年の私でも抜けてきた瞬間は、まさによゐこ濱口の
「獲ったど~!」という心境で、

game_ph1.jpg

それくらい大物の大臼歯でした(^^;

根の先端部に付着してきた大きな嚢胞(赤丸で囲んだ部分)を除去、根尖の感染部分をカットし、
スーパーボンドという接着材で逆根充を行って、再び元に戻しました(図4)。

図4

                          図4

歯ぐきの腫れは処置後速やかに消失し、処置後4ヶ月と短い経過ながら、再初診時に比べると
明らかに骨が改善されてきているのがわかるかと思います(図5、図6)。

図5.
                図5

図6.
                                       図6

1本の歯を残すために全力を尽くし(最善と思う治療をご提案し)、結果を出す。
「保険診療だから」ということは決して失敗の言い訳にはならないと思いますので、
結果を出せる治療をご提案し、大切な1本の歯を守るため患者さんとよく話し合う
ということが大切であると私は考えています。
今回処置したYさんの右下奥が長くトラブルなく維持されていくことを願って止みません。

最後になりますが、前回のブログでも触れました日本歯科評論「臨床の行方」に掲載させて
いただいた「患者さんの望む歯科医療の実践」のまとめを一部抜粋し、本日の締めとさせて
いただきます。

「どういう治療をもって“患者さんのため”というかは議論が尽きないが、
患者さんの望むのは「歯を残す・守る」治療だということは、たしかである。
真のかかりつけ歯科医として「先生のおかげで歯が残っています」と患者さん
の信頼を得て、共に年齢を重ねていけたら幸せな歯科医師人生だと思う」

ダリア(感謝)




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