2018.10.03
神経を取っても痛みがなくならないと来院されたSさんの話(歯の破折、口腔内接着法)
10月に入り、朝夕は秋の訪れが感じられる季節となりましたが、皆様いかがお過ごしでしょうか、
なえぼ駅前歯科の大村です。
胆振東部地震からそろそろ1ヵ月になりますが、相変わらず余震が続いていますね。そしてそれに追い打ちをかける
ような台風。24号が過ぎ去ったかと思うと、週末には台風25号が沖縄に接近するとのこと。
7日(日)には札幌マラソンもあり、一昨日はジムで2時間以上ゆっくりと走りました(いや時々歩いていたかな、笑)。
無理せず1時間以上の有酸素運動がダイエット(前回のブログで糖尿病予備軍の仲間入りをしてしまったことを
ご報告したと思いますが
)には良いとのことですので、何とか週3回位継続して走れると良いのにな~と
思っているところです。診療終了後には、腹筋背筋用のシットアップベンチとダンベルで少しずつ筋トレも始めました。
長続きするかな~
、頑張りたいと思います。
今、「見て楽しい、歯的博物館」(わかば出版)という本を読んでいます。
この本は前半が江戸~明治時代の日本、そして後半は16~20世紀の西洋のそれぞれ歯科事情が多くの図入りで
詳しく著されています。
以前、日本歯科医師会雑誌で、江戸時代の入れ歯師の話や日本最古の入れ歯「仏姫(尼僧)の木の入れ歯」の話が
紹介されているのを興味を持って読んだことがあり、2015年にこの本が上梓されていることを知り今回購入しました。

左:江戸時代の既婚女性(お歯黒)の入れ歯 右:室町時代の日本最古の入れ歯
本日は西洋編から耳寄りな話を一つ。
皆さんはアメリカ合衆国初代大統領であるジョージワシントンが入れ歯であったことはご存知でしょうか?

左:ジョージワシントンの肖像画 右:ジョージワシントンの入れ歯
左は一ドル紙幣にもなっているワシントンの肖像画ですが、この肖像画は彼が64才の時に描かれたもので、
当時ワシントンはすでに上下総義歯でした。
そういう目でよく見てみますと、確かに入れ歯が口から飛び出さないよう口元を緊張させている様子が伺えますよね(笑)。
右はワシントンの晩年の入れ歯で、歯はカバの牙や象牙で作られており、金の延べ板を打ち出した床に3枚の金の留め金
で固定されていました。
また上下の床部分がスプリングで繋がっているのは、今とは違っていてとてもおもしろいですね。
なかなかおもしろい本ですので、このブログでもまたその内容をご紹介させていただきます。
さて、本日は痛みがあって1ヵ月前に神経を取る処置を行ったが、未だに噛むと痛みがあるとのことで来院された
Sさんのお話をさせていただきます。
初診時のレントゲンを診させていただいたところ、根管治療は行われているものの、おそらく打診痛、咬合痛が
消えないことから根充(最終的なお薬を詰める治療)に至っていないと推測、まずは通法通り根管治療を行って
いきました。

初診時の状態
治療開始から4回目、根管治療終了時(根充後)の状態です。

根管治療終了時(根充後)
この状態から3ヵ月経過を見ましたが、噛んだ時の痛みは相変わらず消失しませんでした。
あらためて根管内をよく観察したところ、手前から奥にかけて破折線(歯の亀裂)を認めました(写真矢印)。
また拡大鏡にて更によく見てみると、手前から奥のみならず、外側と内側の間(イスムス)にも破折線を認めました。

破折線の状態
当初は根管治療の問題で痛みを生じていると考えていたのですがそうではなかったようでした。
現状をお話しし、痛みの原因は歯の破折によるものである可能性が高いこと、また歯を保存し症状を改善させるためには
接着保存治療が必要であることを伝えたところSさんは治療を希望されました。
拡大鏡を見ながら破折線を時間をかけて丁寧に追求し、根管内から追う必要があると判断したところまでは
すべて追いました。破折用超音波チップで破折線を追った後の状態です。

破折線除去、口腔内接着前
ここからスーパーボンドを用いた破折線部の封鎖とi-TFCファイバーによるコア(土台)の作製を行っていきました。
口腔内接着法終了時のレントゲン写真です。

口腔内接着法終了時
下は治療終了2年6ヵ月後の現在の状態です。
Sさんは本日来院され、左下奥は調子が良いとのことでした
歯根周囲の状態も良好です。

2年6ヵ月後の現在の状態
破折歯の保存治療をよく勉強されていない先生が 「患者さんが望んだから無理に残す治療」であるとか、
「どうせ残しても長くは持たない」と主張されているのをたまに耳にしますが、私はそう思いません。
破折歯接着保存治療は世田谷区自由ヶ丘で開業されている眞坂信夫先生が1982年、歯根破折を起こした歯を
スーパーボンドで接着させたのが始まりで(この破折歯は患者さんが逝去されるまで18年間、口腔内でしっかり機能
しました)、私の母校である北海道大学歯学部歯周・歯内療法学教室(菅谷 勉先生)においても20年に渡り、
基礎的、臨床的研究を積み重ねた治療法なのです。
よく勉強し臨床を積み重ねないと語れない臨床実感というものがあります。
勿論、破折の状態により、処置を行っても歯周組織の回復が難しことが予測される場合は、保存治療自体をあきらめて
いただき、インプラント等の代替治療をご提案することもあります。
しかしながら「できるだけ歯を長く残す治療」と考えますと、こういう治療のオプションを持ちあわせておくことも
必要だと思います。
Sさんのこの歯も、このまま放置された状態が続くと破折は進行し、感染が広がると破折線周囲の骨に吸収が起こって、
歯ぐきが腫れるといよいよ抜歯せざるを得ない状態になると思います。
何より痛くて噛めないと言っておられたSさんに、今では調子よく噛めると言っていただけることが嬉しいですよね。
歯科医師冥利に尽きます
最後になりますが、次回の「なえぼほのぼのブログ」は、平成12年に当時63才で来院された I さんと平成10年に
当時33才で来院されたKさんの破折歯保存治療とその後の長期経過についてお話させていただきます。
1本の歯を残す、残せることで、その患者さんの口腔内、日常生活にも多大な貢献をもたらすことができるという
ケースです。ご期待ください

なえぼ駅前歯科の大村です。
胆振東部地震からそろそろ1ヵ月になりますが、相変わらず余震が続いていますね。そしてそれに追い打ちをかける
ような台風。24号が過ぎ去ったかと思うと、週末には台風25号が沖縄に接近するとのこと。
7日(日)には札幌マラソンもあり、一昨日はジムで2時間以上ゆっくりと走りました(いや時々歩いていたかな、笑)。
無理せず1時間以上の有酸素運動がダイエット(前回のブログで糖尿病予備軍の仲間入りをしてしまったことを
ご報告したと思いますが

思っているところです。診療終了後には、腹筋背筋用のシットアップベンチとダンベルで少しずつ筋トレも始めました。
長続きするかな~

今、「見て楽しい、歯的博物館」(わかば出版)という本を読んでいます。
この本は前半が江戸~明治時代の日本、そして後半は16~20世紀の西洋のそれぞれ歯科事情が多くの図入りで
詳しく著されています。
以前、日本歯科医師会雑誌で、江戸時代の入れ歯師の話や日本最古の入れ歯「仏姫(尼僧)の木の入れ歯」の話が
紹介されているのを興味を持って読んだことがあり、2015年にこの本が上梓されていることを知り今回購入しました。

左:江戸時代の既婚女性(お歯黒)の入れ歯 右:室町時代の日本最古の入れ歯
本日は西洋編から耳寄りな話を一つ。
皆さんはアメリカ合衆国初代大統領であるジョージワシントンが入れ歯であったことはご存知でしょうか?

左:ジョージワシントンの肖像画 右:ジョージワシントンの入れ歯
左は一ドル紙幣にもなっているワシントンの肖像画ですが、この肖像画は彼が64才の時に描かれたもので、
当時ワシントンはすでに上下総義歯でした。
そういう目でよく見てみますと、確かに入れ歯が口から飛び出さないよう口元を緊張させている様子が伺えますよね(笑)。
右はワシントンの晩年の入れ歯で、歯はカバの牙や象牙で作られており、金の延べ板を打ち出した床に3枚の金の留め金
で固定されていました。
また上下の床部分がスプリングで繋がっているのは、今とは違っていてとてもおもしろいですね。
なかなかおもしろい本ですので、このブログでもまたその内容をご紹介させていただきます。
さて、本日は痛みがあって1ヵ月前に神経を取る処置を行ったが、未だに噛むと痛みがあるとのことで来院された
Sさんのお話をさせていただきます。
初診時のレントゲンを診させていただいたところ、根管治療は行われているものの、おそらく打診痛、咬合痛が
消えないことから根充(最終的なお薬を詰める治療)に至っていないと推測、まずは通法通り根管治療を行って
いきました。

初診時の状態
治療開始から4回目、根管治療終了時(根充後)の状態です。

根管治療終了時(根充後)
この状態から3ヵ月経過を見ましたが、噛んだ時の痛みは相変わらず消失しませんでした。
あらためて根管内をよく観察したところ、手前から奥にかけて破折線(歯の亀裂)を認めました(写真矢印)。
また拡大鏡にて更によく見てみると、手前から奥のみならず、外側と内側の間(イスムス)にも破折線を認めました。

破折線の状態
当初は根管治療の問題で痛みを生じていると考えていたのですがそうではなかったようでした。
現状をお話しし、痛みの原因は歯の破折によるものである可能性が高いこと、また歯を保存し症状を改善させるためには
接着保存治療が必要であることを伝えたところSさんは治療を希望されました。
拡大鏡を見ながら破折線を時間をかけて丁寧に追求し、根管内から追う必要があると判断したところまでは
すべて追いました。破折用超音波チップで破折線を追った後の状態です。

破折線除去、口腔内接着前
ここからスーパーボンドを用いた破折線部の封鎖とi-TFCファイバーによるコア(土台)の作製を行っていきました。
口腔内接着法終了時のレントゲン写真です。

口腔内接着法終了時
下は治療終了2年6ヵ月後の現在の状態です。
Sさんは本日来院され、左下奥は調子が良いとのことでした

歯根周囲の状態も良好です。

2年6ヵ月後の現在の状態
破折歯の保存治療をよく勉強されていない先生が 「患者さんが望んだから無理に残す治療」であるとか、
「どうせ残しても長くは持たない」と主張されているのをたまに耳にしますが、私はそう思いません。
破折歯接着保存治療は世田谷区自由ヶ丘で開業されている眞坂信夫先生が1982年、歯根破折を起こした歯を
スーパーボンドで接着させたのが始まりで(この破折歯は患者さんが逝去されるまで18年間、口腔内でしっかり機能
しました)、私の母校である北海道大学歯学部歯周・歯内療法学教室(菅谷 勉先生)においても20年に渡り、
基礎的、臨床的研究を積み重ねた治療法なのです。
よく勉強し臨床を積み重ねないと語れない臨床実感というものがあります。
勿論、破折の状態により、処置を行っても歯周組織の回復が難しことが予測される場合は、保存治療自体をあきらめて
いただき、インプラント等の代替治療をご提案することもあります。
しかしながら「できるだけ歯を長く残す治療」と考えますと、こういう治療のオプションを持ちあわせておくことも
必要だと思います。
Sさんのこの歯も、このまま放置された状態が続くと破折は進行し、感染が広がると破折線周囲の骨に吸収が起こって、
歯ぐきが腫れるといよいよ抜歯せざるを得ない状態になると思います。
何より痛くて噛めないと言っておられたSさんに、今では調子よく噛めると言っていただけることが嬉しいですよね。
歯科医師冥利に尽きます

最後になりますが、次回の「なえぼほのぼのブログ」は、平成12年に当時63才で来院された I さんと平成10年に
当時33才で来院されたKさんの破折歯保存治療とその後の長期経過についてお話させていただきます。
1本の歯を残す、残せることで、その患者さんの口腔内、日常生活にも多大な貢献をもたらすことができるという
ケースです。ご期待ください


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