2017.07.21
根管治療で症状が改善しない症例に対し、歯根端切除術、意図的再植術を行った治療例
こんにちは、なえぼ駅前歯科の大村です。
本日は前回のブログでお伝えしましたように、通常の根管治療では改善が難しい症例に対し、
① 歯根端切除術
② 意図的再植術
③ 歯根端切除術→意図的再植術
を行い、抜歯を回避できた治療例をご覧いただきたいと思います。
その前に、平成17年、親戚の歯科医院で保存治療は困難、また抜歯も大きな嚢胞を有するため口腔外科でと
告げられたAさんのお話をさせていただきます。
Aさんのご友人(当院の患者さん)が、「あそこに行けば何とかしてくれるかもしれない」とご紹介してくださったとのこと。
問題になっている歯は上の前歯でしたが、来院時には大きく表裏の歯ぐきが腫れており、表側のみならず裏側においても
完全に骨の裏打ちがなく波動を触れていました。

初診時
大きな嚢胞でしたので、さすがにこのケースは通常の根管治療では治らず歯根端切除術になると考えていました。
しかしながら根管治療開始4ヵ月後には排膿も止まり、根管充填(根充)9ヶ月後まで経過観察しましたが、症状は再発
することなくレントゲン所見でも改善してきましたので、結局外科処置をせずに歯を残すことができました
(ちなみにCR充填の修正、研磨はこの後行っています
)。

根充(根管治療終了)9ヶ月後
3年後、旦那様が当院に全顎治療を希望して来院されました。奥様のご様子を伺ったところ調子は良いとのことでした
ので、その後も経過は良好であったようです(きれいに改善した状態をレントゲンで確認したかったこともあり、メインテ
ナンス来院を促したのですが、調子は良いので結局来院されませんでした
)。
さて話は本題に戻りますが、①歯根端切除術の最初の症例は平成13年、当院に来院された0さんのケースで、
当院の患者さんであった娘さんのご紹介で来院されました。
全顎のレントゲン写真を撮らせていただいたところ、右上犬歯に歯根の1/2以上を含んだ嚢胞を認めました。

根管治療開始4ヵ月後には排膿が止まり根充しましたが、根充1ヵ月後に再度歯ぐきが腫れたため歯根端切除術を
行いました。当時、嚢胞内の歯根はすべて切除というのが口腔外科の金科玉条となっており(今でも?)、このケースは
すべて切除してしまうとこの歯自体が保存不可能となり、更には上顎をブリッジで対応することができなくなります。
平成元年~3年、「歯界展望」という歯科雑誌に長期連載された歯科小手術(三井記念病院歯科口腔外科 寶田 博
先生著)の「根尖切除術」を熟読し、「根尖部の処置は歯根の変色や切断面の所見をよく観察する」という記述を頼りに、
根尖部を2mmだけ切断し、8ヵ月後に無事上顎の大きなブリッジを装着することができました。


現在は例外なくスーパーボンドで逆根充を行っていますが、当時はケースバイケース(切断のみ(自分で根管治療
を行っているケース)、照射型アイオノマーセメントで逆根充、スーパーボンドで逆根充)であったように思います
(スーパーボンドはまだクイックモノマー液が出ていない頃で、更に完全に硬化するまでの10分間はずっと血液が
付かないようにしなければならないと当時は考えていましたが、その後の研究でずっと保持し続ける必要はない
ことがわかりました)。
今でも口腔外科や他院での歯根端切除術において切断しかせず(逆根充がされていない)、根尖病変が治り切らない
再発例を見かけますが、なぜ旧泰然とした治療が変わっていかないのか非常に疑問に感じています。
続いて①歯根端切除術の2例目は、平成14年、他院で1年根管治療を行っているが一向に良くならないとのことで、
当院の患者さんのご紹介で来院されました。
来院時、下顎前歯数歯にまたがる大きな嚢胞を認めました。2ヶ月ほど根管治療を行いましたが、根管内からの排膿は
全く止まらず歯根端切除術に移行しました。

初診時
実際に外科処置を行ってみると、術前のレントゲン像よりはるかに大きな骨吸収を認め(レントゲン写真の更に下方まで
病変は広がっている)、徹底掻爬している最中、下歯槽神経の分枝である太い切歯枝が嚢胞内に出てきました
。

歯根端切除、術中根充後
向かって左側の根管内にはリーマー破折を認めましたが、根管治療時、バイパスにて根尖に穿通させることができ
すでに根充していましたので、その右側の2歯において歯根端切除と術中根充を行いました。
8ヵ月後に来院された際、撮らせていただいたレントゲンです。

リーマー破折歯の根尖部にまだ骨吸収像が残っていますが、歯根端切除術を行った歯において嚢胞は概ねきれいに改善
しており、患者さんにもご紹介してくださった方にも大変喜んでいただけました
。
次の症例は平成11年に私が全顎治療を行い、平成27年、実に16年ぶりに当院に来院されたWさんのケースで、
その間1歯のトラブルもなくずっと調子は良かったとのことでした。このケースは①の歯根端切除術ではなく、最初から
②の意図的再植術で対応しました。
久し振りに全顎レントゲン写真を撮らせていただいたところ、左上奥に根尖病変と頬側の歯ぐきには瘻孔(排膿路)を
認めました。

向かって左端の歯の根尖部(赤矢印)に歯根破折を疑い、歯根端切除術では改善しないと考えました。
術中の根尖部です。

予想していた通り、根尖部に破折を認めたため根尖部を切断し、破折線の感染部分を除去してスーパーボンドにて
逆根充を行いました。こういうケースの場合、接着性、生体親和性、耐久性にすぐれたスーパーボンドに勝る材料は
ありません。
意図的再植9ヵ月後の現在のレントゲン写真において、改善している(黒い感染部分が骨に置き換わっている)のが
わかるかと思います。ちなみに1本右側の大臼歯においては歯根端切除術(近心頬側根、青矢印)を行っています。
瘻孔は消失し、冠も装着され良好に経過しています。

こうやって過去の自分の治療を振り返りますと、彎曲している上顎大臼歯近心頬側根の感染根管治療は簡単ではないと
いうことをあらためて感じます。更には、1日に例えば20名以上の患者さんをこなさないと成り立っていかない、日本の
歯科保険診療において、根管治療には本当に一言では言えない難しい問題があります。
次は③歯根端切除術→意図的再植術のケースで、昨年当院の患者さんのご紹介で来院されました。
初診時、右上の前歯(矢印)の根尖に根尖病変と頬側歯肉には瘻孔を認めましたので根管治療を行いましたが、瘻孔は
消失しないため歯根端切除術を行いました。術後すみやかに瘻孔が消失したため、オペから2ヶ月経過後、ブリッジ作製
に取り掛かったところ歯肉の瘻孔が再発しました。

このケースは根尖から上向する骨吸収像を認めるものの、
①初診時のレントゲン所見において、もともと根尖部はそれ程大きく根管拡大されてはいなかったこと
②前歯部は根尖部での破折は少ないこと(多いのは根尖部に咬合力のかかる臼歯部)
③深い歯周ポケットもなく、術中も歯根破折は見つけられなかったこと
④オペ後すみやかに瘻孔は消失したこと
から、根尖部での破折をあまり疑っていなかったため、経過観察期間も十分ではありませんでした 。
意図的再植術中、根尖部での破折線及び壊死セメント質部分をスーパーボンドで充填した状態です。


現在意図的再植後6ヶ月が経過しておりますがその後再発はなく、再植直後と4ヵ月後のレントゲン写真を比較しても
病巣は改善してきており、引き続きブリッジは仮付けのまま経過観察を行う予定です。
最後の症例は最近意図的再植術を行った症例で(矢印)、先程のSさんと同様、根尖部での破折が原因で改善しな
かったケースです。

当院では長期経過の中で歯を失う一番の原因であった歯根破折に対して、9年前から歯根破折を極力防止するため、
症例を選んでこのケースのようなスーパーボンドを用いたi-TFCファイバーコアによる根築1回法、フェルールを確保する
ための歯冠長延長術、また歯根破折を起こしてしまった歯に対しては破折歯接着保存治療を行い、できるだけ歯根破折
で歯を抜かずに済む治療を心がけています。
開業して20年、これまでの多くの患者さんの治療経過を踏まえ、今自分の臨床において積極的に取り組んでいる治療が
10年後、20年後の患者さんの口腔健康にしっかり貢献できることを願って止みません。

本日は前回のブログでお伝えしましたように、通常の根管治療では改善が難しい症例に対し、
① 歯根端切除術
② 意図的再植術
③ 歯根端切除術→意図的再植術
を行い、抜歯を回避できた治療例をご覧いただきたいと思います。
その前に、平成17年、親戚の歯科医院で保存治療は困難、また抜歯も大きな嚢胞を有するため口腔外科でと
告げられたAさんのお話をさせていただきます。
Aさんのご友人(当院の患者さん)が、「あそこに行けば何とかしてくれるかもしれない」とご紹介してくださったとのこと。
問題になっている歯は上の前歯でしたが、来院時には大きく表裏の歯ぐきが腫れており、表側のみならず裏側においても
完全に骨の裏打ちがなく波動を触れていました。

初診時
大きな嚢胞でしたので、さすがにこのケースは通常の根管治療では治らず歯根端切除術になると考えていました。
しかしながら根管治療開始4ヵ月後には排膿も止まり、根管充填(根充)9ヶ月後まで経過観察しましたが、症状は再発
することなくレントゲン所見でも改善してきましたので、結局外科処置をせずに歯を残すことができました
(ちなみにCR充填の修正、研磨はこの後行っています


根充(根管治療終了)9ヶ月後
3年後、旦那様が当院に全顎治療を希望して来院されました。奥様のご様子を伺ったところ調子は良いとのことでした
ので、その後も経過は良好であったようです(きれいに改善した状態をレントゲンで確認したかったこともあり、メインテ
ナンス来院を促したのですが、調子は良いので結局来院されませんでした

さて話は本題に戻りますが、①歯根端切除術の最初の症例は平成13年、当院に来院された0さんのケースで、
当院の患者さんであった娘さんのご紹介で来院されました。
全顎のレントゲン写真を撮らせていただいたところ、右上犬歯に歯根の1/2以上を含んだ嚢胞を認めました。

根管治療開始4ヵ月後には排膿が止まり根充しましたが、根充1ヵ月後に再度歯ぐきが腫れたため歯根端切除術を
行いました。当時、嚢胞内の歯根はすべて切除というのが口腔外科の金科玉条となっており(今でも?)、このケースは
すべて切除してしまうとこの歯自体が保存不可能となり、更には上顎をブリッジで対応することができなくなります。
平成元年~3年、「歯界展望」という歯科雑誌に長期連載された歯科小手術(三井記念病院歯科口腔外科 寶田 博
先生著)の「根尖切除術」を熟読し、「根尖部の処置は歯根の変色や切断面の所見をよく観察する」という記述を頼りに、
根尖部を2mmだけ切断し、8ヵ月後に無事上顎の大きなブリッジを装着することができました。


現在は例外なくスーパーボンドで逆根充を行っていますが、当時はケースバイケース(切断のみ(自分で根管治療
を行っているケース)、照射型アイオノマーセメントで逆根充、スーパーボンドで逆根充)であったように思います
(スーパーボンドはまだクイックモノマー液が出ていない頃で、更に完全に硬化するまでの10分間はずっと血液が
付かないようにしなければならないと当時は考えていましたが、その後の研究でずっと保持し続ける必要はない
ことがわかりました)。
今でも口腔外科や他院での歯根端切除術において切断しかせず(逆根充がされていない)、根尖病変が治り切らない
再発例を見かけますが、なぜ旧泰然とした治療が変わっていかないのか非常に疑問に感じています。
続いて①歯根端切除術の2例目は、平成14年、他院で1年根管治療を行っているが一向に良くならないとのことで、
当院の患者さんのご紹介で来院されました。
来院時、下顎前歯数歯にまたがる大きな嚢胞を認めました。2ヶ月ほど根管治療を行いましたが、根管内からの排膿は
全く止まらず歯根端切除術に移行しました。

初診時
実際に外科処置を行ってみると、術前のレントゲン像よりはるかに大きな骨吸収を認め(レントゲン写真の更に下方まで
病変は広がっている)、徹底掻爬している最中、下歯槽神経の分枝である太い切歯枝が嚢胞内に出てきました


歯根端切除、術中根充後
向かって左側の根管内にはリーマー破折を認めましたが、根管治療時、バイパスにて根尖に穿通させることができ
すでに根充していましたので、その右側の2歯において歯根端切除と術中根充を行いました。
8ヵ月後に来院された際、撮らせていただいたレントゲンです。

リーマー破折歯の根尖部にまだ骨吸収像が残っていますが、歯根端切除術を行った歯において嚢胞は概ねきれいに改善
しており、患者さんにもご紹介してくださった方にも大変喜んでいただけました

次の症例は平成11年に私が全顎治療を行い、平成27年、実に16年ぶりに当院に来院されたWさんのケースで、
その間1歯のトラブルもなくずっと調子は良かったとのことでした。このケースは①の歯根端切除術ではなく、最初から
②の意図的再植術で対応しました。
久し振りに全顎レントゲン写真を撮らせていただいたところ、左上奥に根尖病変と頬側の歯ぐきには瘻孔(排膿路)を
認めました。

向かって左端の歯の根尖部(赤矢印)に歯根破折を疑い、歯根端切除術では改善しないと考えました。
術中の根尖部です。

予想していた通り、根尖部に破折を認めたため根尖部を切断し、破折線の感染部分を除去してスーパーボンドにて
逆根充を行いました。こういうケースの場合、接着性、生体親和性、耐久性にすぐれたスーパーボンドに勝る材料は
ありません。
意図的再植9ヵ月後の現在のレントゲン写真において、改善している(黒い感染部分が骨に置き換わっている)のが
わかるかと思います。ちなみに1本右側の大臼歯においては歯根端切除術(近心頬側根、青矢印)を行っています。
瘻孔は消失し、冠も装着され良好に経過しています。

こうやって過去の自分の治療を振り返りますと、彎曲している上顎大臼歯近心頬側根の感染根管治療は簡単ではないと
いうことをあらためて感じます。更には、1日に例えば20名以上の患者さんをこなさないと成り立っていかない、日本の
歯科保険診療において、根管治療には本当に一言では言えない難しい問題があります。
次は③歯根端切除術→意図的再植術のケースで、昨年当院の患者さんのご紹介で来院されました。
初診時、右上の前歯(矢印)の根尖に根尖病変と頬側歯肉には瘻孔を認めましたので根管治療を行いましたが、瘻孔は
消失しないため歯根端切除術を行いました。術後すみやかに瘻孔が消失したため、オペから2ヶ月経過後、ブリッジ作製
に取り掛かったところ歯肉の瘻孔が再発しました。

このケースは根尖から上向する骨吸収像を認めるものの、
①初診時のレントゲン所見において、もともと根尖部はそれ程大きく根管拡大されてはいなかったこと
②前歯部は根尖部での破折は少ないこと(多いのは根尖部に咬合力のかかる臼歯部)
③深い歯周ポケットもなく、術中も歯根破折は見つけられなかったこと
④オペ後すみやかに瘻孔は消失したこと
から、根尖部での破折をあまり疑っていなかったため、経過観察期間も十分ではありませんでした 。
意図的再植術中、根尖部での破折線及び壊死セメント質部分をスーパーボンドで充填した状態です。


現在意図的再植後6ヶ月が経過しておりますがその後再発はなく、再植直後と4ヵ月後のレントゲン写真を比較しても
病巣は改善してきており、引き続きブリッジは仮付けのまま経過観察を行う予定です。
最後の症例は最近意図的再植術を行った症例で(矢印)、先程のSさんと同様、根尖部での破折が原因で改善しな
かったケースです。

当院では長期経過の中で歯を失う一番の原因であった歯根破折に対して、9年前から歯根破折を極力防止するため、
症例を選んでこのケースのようなスーパーボンドを用いたi-TFCファイバーコアによる根築1回法、フェルールを確保する
ための歯冠長延長術、また歯根破折を起こしてしまった歯に対しては破折歯接着保存治療を行い、できるだけ歯根破折
で歯を抜かずに済む治療を心がけています。
開業して20年、これまでの多くの患者さんの治療経過を踏まえ、今自分の臨床において積極的に取り組んでいる治療が
10年後、20年後の患者さんの口腔健康にしっかり貢献できることを願って止みません。

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この記事へのコメント
偶然このサイトに入りました。「予後の良い歯根端切除術、相談コーナー」HP筆者です。スーパーボンドを逆根管充填に使い良好な結果を残し経過XPを掲示されているのを見て嬉しく思い感謝しております。クイック液は私が歯根端切除術のために作ってもらったもので術式のスピードアップにつながっています。HPは歯を残したいと強い想いの先生方に役立ってもらえばという気持ちで書いています。成功率を高めるため:「壊死セメント質、感染セメント質」のチェックと対応が必要と助言させてください。最近ではマイクロMTAで再発例をスーパーボンドに取り換え成功させる経験をしています。
Posted by 笠崎安則 at 2017.11.29 11:50 | 編集
> はじめまして、なえぼ駅前歯科院長の大村です。今、なえぼほのぼのブログを見ていて笠崎先生からコメントをいただいていることに初めて気づきました。大変感激しております。先生の論文は「歯の長期保存の臨床」で初めて知り、大変興味を持って拝読させていただきました。先生が書かれている予後の良い歯根端切除術:相談コーナーも以前にすべて印刷させていただき、何度も読み返しております。また4METAが医科の骨接合にも応用されているとのこと、サンメディカルにお願いして帝京医学雑誌の論文も送っていただき読んでみました。「臨床は語る」と言いますが、先生の何千症例という症例数と90%以上の成功率を出されているからこそ語れる説得力、また詳細な考察がとてもすばらしく(ここまで詳しく書かれたものはこれまで見たことがありません)、口腔外科の通法やグローバルスタンダード(MTA)を決して鵜呑みにせず、歯を残したいという患者さんのためにという先生の姿勢にも大変共感しております。成功率を高めるための「壊死セメント質、感染セメント質」のチェックと対応、あらためて先生がお書きになられている内容を拝読させていただきます。この度はコメント大変ありがとうございました。今後ともよろしくお願いいたします。
Posted by Dr ポン太 at 2018.02.16 08:14 | 編集
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