2019.03.31
7本のインプラントにより咬合の再構築を行ったKさんのケース(後編)
こんにちは、明日からいよいよ4月ですね。
本州では桜の開花が聞かれますが皆様いかがお過ごしでしょうか、なえぼ駅前歯科の大村です。
ここ札幌も10日程前までは、日中は10℃を越える暖かさでしたので、てっきりこのまま春になると思っていたのですが、
その後の思いがけないなごり雪のため寒さが少し逆戻りしてしまい、4月の新入学シーズンを迎えて路肩にはまだ雪が
見られます。昨年11月に苗穂駅が当院から250m程札幌駅寄りに移転したため、現在直結している旧駅はひっそりと
した佇まいを呈していますが、そろそろ取り壊しが始まる予定で、明日発表される新元号に歩調を合わせるかのように、
跡地を含め周辺の再開発が進んでいくものと思われます。
さて、本日は前回のブログからの続きで、「7本のインプラントにより咬合の再構築を行ったKさんのケース(後編)」をお話し
したいと思います。Kさんは2016年11月、右下の前歯がグラグラして痛いとのことで、当院の患者さんからのご紹介で
来院されました。
Kさんの初診時のレントゲン写真と口腔内写真です(詳しくは前回の「なえぼほのぼのブログ」の前編をご一読ください)。


写真左下は初診時腫れてグラグラしていた右下犬歯、上は2回目の来院時(右下犬歯は自然脱落)
右下犬歯はすでに根尖までぐるりと骨がなく、隣の前歯もその影響を受けて歯根長の3/4くらいまで骨吸収していました。
また左上大臼歯( 左上6、7)も進行した歯周病により、根分岐部でほぼ根尖近くまで骨が吸収しており、更に左下小臼歯
(左下 5)は歯根破折を起こしていました。
従って治療後の歯の残存状態は以下のレントゲンの状況が予想されました。

9歯の欠損が予想されましたがKさんは入れ歯を希望されませんでしたので、まずは残っているご自身の歯の歯周治療を
しっかり行った上で、9歯の欠損部分を7本のインプラントにより再構築していく治療計画を立てました。
下は初診から4ヵ月後、歯周基本治療終了時の口腔内です。

初診時の写真と比較し、歯肉の炎症もプラークの付着もかなり改善してきております。
ここから臼歯部の噛めるところを確保しつつ、Kさんの多忙なお仕事に合わせた歯周外科処置とインプラント治療のタイム
スケジュールを立てていきました。
自然脱落した右下犬歯と進行した根分岐部病変を認めた左上6、7の抜歯後は同部に骨造成が必要であり、また右上7、6部
には前回のブログに書きましたように上顎洞瘻も認めましたので、埋入時、ドリリングにより洞瘻の粘膜を巻き込まないような
埋入位置、埋入方法を考えました。
治療終了時のレントゲン写真です。

左上6の予定していたドリリング部は、ちょうど既存骨主体の硬い骨と主にGBRにより造った骨の境にあり、ドリリング時、
軟らかい造成骨の方に流れていきやすかったこと、加えて左上5(手前の歯)に近い位置は10mmの長さのインプラントを
埋入するには骨の高さが少し足りず、ソケットリフトが必要であったことから、結果として考えていた位置より2mmほど遠心に
埋入となってしまい、最終補綴がカンチレバー(延長ブリッジ)になってしまったことは大きな反省点です。
ソケットリフトを行ってでももう少し手前の歯に近い位置に6部のインプラントを埋入できていれば、右側と同じ連結冠にする
ことができ、7部のインプラントもよりブラッシングがしやすい手前の位置に埋入できたと思います(幸い現状でも同部のブラッ
シングはしっかりできていますが
)。
治療終了後年明けの2月、Kさんが来院された時に撮らせていただいた口腔内写真です。

年末から年始にかけて多忙を極めていたのかもしれませんが、ファインダー越しに歯肉を見ると明らかに以前よりブラッシング
が落ちており、プラークの付着と歯肉の発赤、腫脹を認めました
Kさんのタイムスケジュールを重視しながら治療を進めてきたことも良し悪しで、その日に確実に行わなければならない処置
内容(術式等の技術的なハード部分)にとらわれ過ぎて、一番大切な患者さん自身の日常生活、プラークコントロールやモチ
ベーションというソフト面を見逃していたことに、ファインダーを通して初めて気づかされました。
もう少し余裕を持って、今日行う処置部位にばかり気持ちを向けずに、患者さんという人、口腔内全体、歯肉を俯瞰して、
どこかで足りない現状に気づいて立ち止まり、落ち着いてゆっくり、患者さんと共に長期的な口腔健康の維持について考える
時間が必要であったと反省させられました(今日は反省することばかりですね)。
ブログではお馴染みの歯科衛生士 I さん(現在Kさんの担当)と話し合い、Kさんの2ヵ月先のお約束をお電話にて1ヵ月後に
取り直した上で、その日に合わせて以前の歯肉の状態が良かった頃の口腔内写真と2月の口腔内写真を比べて見てもらえる
よう資料を準備し、当日Kさんに口腔内の現状説明を行いました。
先日、現状説明2週間後に来院された際には、プラークの付着量も少し減り(まだまだ不十分ではありますが)、歯肉の赤みも
改善されつつありました。 I さんから優しいブラッシング指導とKさんのブラッシングが更に良くなるようなモチベーションを
行って
、次回は2週間後にお約束を取ったようです。Kさんにこちらの熱意がうまく伝わることを願っています。

歯周病は、コントロールされていない糖尿病のような治癒能力に問題を生じる全身疾患さえなければ(喫煙もあまり本数が
多いと、歯周組織の治癒を阻害しますし、再発しやすくなりますが)、プラークコントロールを徹底することで、長期に治癒、
安定が可能な慢性疾患です。
当院では歯周基本治療を重視し、確定処置として歯周外科処置を行った上で、歯肉縁下の起炎物質の徹底除去とプラーク
コントロールしやすい歯周環境を整備していますが、それは歯周病が治ったということではなく、獲得した口腔健康を長期に
維持、増進していく主体は患者さんであり、我々はそれをお手伝いするサポーターにすぎません(適切にサポートするため
には勿論、専門的な知識や技術が必要なのですが)。
歯周病のような生活習慣病は、医科における外科処置のように外科処置をしたら治るというわけではなく、歯周治療の本質は
1年、2年かけて行う動的治療よりも、むしろその後の長いメインナンス治療にあるのです(動的治療の質、メインテナンス治療
の質は、将来的に患者さんの歯が現状を維持して残っていくかどうかを大きく左右します)。
またインプラント周囲組織は天然歯と比べて歯根膜がないことから、歯肉とは接触しているだけであり(付着部分のバリアー
が弱い)、血液供給の面でも創傷治癒や免疫には不利な構造となっており、更には歯と違い一旦インプラント周囲炎に罹患
すると治療が難しいという現状もありますので、インプラントはより注意深いメインテナンスの継続が必要になってきます。
また話が長くなってきました。こういう話はつい熱くなってしまいます
今回行った治療が再治療となることなく、歯もインプラントも長期に良好な状態で維持されていくことを願って止みません。
Kさん、今後も末永く大切なメインテナンスにご来院ください。お待ちしています。

本州では桜の開花が聞かれますが皆様いかがお過ごしでしょうか、なえぼ駅前歯科の大村です。
ここ札幌も10日程前までは、日中は10℃を越える暖かさでしたので、てっきりこのまま春になると思っていたのですが、
その後の思いがけないなごり雪のため寒さが少し逆戻りしてしまい、4月の新入学シーズンを迎えて路肩にはまだ雪が
見られます。昨年11月に苗穂駅が当院から250m程札幌駅寄りに移転したため、現在直結している旧駅はひっそりと
した佇まいを呈していますが、そろそろ取り壊しが始まる予定で、明日発表される新元号に歩調を合わせるかのように、
跡地を含め周辺の再開発が進んでいくものと思われます。
さて、本日は前回のブログからの続きで、「7本のインプラントにより咬合の再構築を行ったKさんのケース(後編)」をお話し
したいと思います。Kさんは2016年11月、右下の前歯がグラグラして痛いとのことで、当院の患者さんからのご紹介で
来院されました。
Kさんの初診時のレントゲン写真と口腔内写真です(詳しくは前回の「なえぼほのぼのブログ」の前編をご一読ください)。


写真左下は初診時腫れてグラグラしていた右下犬歯、上は2回目の来院時(右下犬歯は自然脱落)
右下犬歯はすでに根尖までぐるりと骨がなく、隣の前歯もその影響を受けて歯根長の3/4くらいまで骨吸収していました。
また左上大臼歯( 左上6、7)も進行した歯周病により、根分岐部でほぼ根尖近くまで骨が吸収しており、更に左下小臼歯
(左下 5)は歯根破折を起こしていました。
従って治療後の歯の残存状態は以下のレントゲンの状況が予想されました。

9歯の欠損が予想されましたがKさんは入れ歯を希望されませんでしたので、まずは残っているご自身の歯の歯周治療を
しっかり行った上で、9歯の欠損部分を7本のインプラントにより再構築していく治療計画を立てました。
下は初診から4ヵ月後、歯周基本治療終了時の口腔内です。

初診時の写真と比較し、歯肉の炎症もプラークの付着もかなり改善してきております。
ここから臼歯部の噛めるところを確保しつつ、Kさんの多忙なお仕事に合わせた歯周外科処置とインプラント治療のタイム
スケジュールを立てていきました。
自然脱落した右下犬歯と進行した根分岐部病変を認めた左上6、7の抜歯後は同部に骨造成が必要であり、また右上7、6部
には前回のブログに書きましたように上顎洞瘻も認めましたので、埋入時、ドリリングにより洞瘻の粘膜を巻き込まないような
埋入位置、埋入方法を考えました。
治療終了時のレントゲン写真です。

左上6の予定していたドリリング部は、ちょうど既存骨主体の硬い骨と主にGBRにより造った骨の境にあり、ドリリング時、
軟らかい造成骨の方に流れていきやすかったこと、加えて左上5(手前の歯)に近い位置は10mmの長さのインプラントを
埋入するには骨の高さが少し足りず、ソケットリフトが必要であったことから、結果として考えていた位置より2mmほど遠心に
埋入となってしまい、最終補綴がカンチレバー(延長ブリッジ)になってしまったことは大きな反省点です。
ソケットリフトを行ってでももう少し手前の歯に近い位置に6部のインプラントを埋入できていれば、右側と同じ連結冠にする
ことができ、7部のインプラントもよりブラッシングがしやすい手前の位置に埋入できたと思います(幸い現状でも同部のブラッ
シングはしっかりできていますが

治療終了後年明けの2月、Kさんが来院された時に撮らせていただいた口腔内写真です。

年末から年始にかけて多忙を極めていたのかもしれませんが、ファインダー越しに歯肉を見ると明らかに以前よりブラッシング
が落ちており、プラークの付着と歯肉の発赤、腫脹を認めました

Kさんのタイムスケジュールを重視しながら治療を進めてきたことも良し悪しで、その日に確実に行わなければならない処置
内容(術式等の技術的なハード部分)にとらわれ過ぎて、一番大切な患者さん自身の日常生活、プラークコントロールやモチ
ベーションというソフト面を見逃していたことに、ファインダーを通して初めて気づかされました。
もう少し余裕を持って、今日行う処置部位にばかり気持ちを向けずに、患者さんという人、口腔内全体、歯肉を俯瞰して、
どこかで足りない現状に気づいて立ち止まり、落ち着いてゆっくり、患者さんと共に長期的な口腔健康の維持について考える
時間が必要であったと反省させられました(今日は反省することばかりですね)。
ブログではお馴染みの歯科衛生士 I さん(現在Kさんの担当)と話し合い、Kさんの2ヵ月先のお約束をお電話にて1ヵ月後に
取り直した上で、その日に合わせて以前の歯肉の状態が良かった頃の口腔内写真と2月の口腔内写真を比べて見てもらえる
よう資料を準備し、当日Kさんに口腔内の現状説明を行いました。
先日、現状説明2週間後に来院された際には、プラークの付着量も少し減り(まだまだ不十分ではありますが)、歯肉の赤みも
改善されつつありました。 I さんから優しいブラッシング指導とKさんのブラッシングが更に良くなるようなモチベーションを
行って


歯周病は、コントロールされていない糖尿病のような治癒能力に問題を生じる全身疾患さえなければ(喫煙もあまり本数が
多いと、歯周組織の治癒を阻害しますし、再発しやすくなりますが)、プラークコントロールを徹底することで、長期に治癒、
安定が可能な慢性疾患です。
当院では歯周基本治療を重視し、確定処置として歯周外科処置を行った上で、歯肉縁下の起炎物質の徹底除去とプラーク
コントロールしやすい歯周環境を整備していますが、それは歯周病が治ったということではなく、獲得した口腔健康を長期に
維持、増進していく主体は患者さんであり、我々はそれをお手伝いするサポーターにすぎません(適切にサポートするため
には勿論、専門的な知識や技術が必要なのですが)。
歯周病のような生活習慣病は、医科における外科処置のように外科処置をしたら治るというわけではなく、歯周治療の本質は
1年、2年かけて行う動的治療よりも、むしろその後の長いメインナンス治療にあるのです(動的治療の質、メインテナンス治療
の質は、将来的に患者さんの歯が現状を維持して残っていくかどうかを大きく左右します)。
またインプラント周囲組織は天然歯と比べて歯根膜がないことから、歯肉とは接触しているだけであり(付着部分のバリアー
が弱い)、血液供給の面でも創傷治癒や免疫には不利な構造となっており、更には歯と違い一旦インプラント周囲炎に罹患
すると治療が難しいという現状もありますので、インプラントはより注意深いメインテナンスの継続が必要になってきます。
また話が長くなってきました。こういう話はつい熱くなってしまいます

今回行った治療が再治療となることなく、歯もインプラントも長期に良好な状態で維持されていくことを願って止みません。
Kさん、今後も末永く大切なメインテナンスにご来院ください。お待ちしています。

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