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2019.01.27

複数歯に歯根破折を認めた咬合力の強い欠損歯列の一例(続編)

 皆様いかがお過ごしでしょうか、なえぼ駅前歯科の大村です。
昨日、大阪なおみ選手の話をブログでアップしましたが、先ほど男子全豪オープン決勝が終了し、ジョコビッチが
ナダルに3-0の圧勝で、7度目の優勝を達成しました
正直、フェデラーに勝ったチチパスをして、「全く次元の違うテニスだと感じた」と言わしめたナダルに、これだけの
圧勝をするとは全く想像していませんでした~。ジョコは異次元の人間サイボーグでしたね~。

さて、本日はテニスの話ではなく(笑)、本題である1月5日にアップした症例の治療経過と現在の状態をお話しさせて
いただきます。

Sさんは初診時、咬合力、咬合状態のいずれにも問題を抱え、更に上顎は残存歯のほとんどがフェルールのない
失活歯(歯肉縁上の健全歯質がほとんどない神経を取った歯)であり、更に4歯に歯根破折を認めました。
初診時Sさんは入れ歯ではなく固定性のブリッジを希望されていましたので、もしこの4歯を抜歯したら、右上、左上、
右下はそれぞれ2本のインプラントが必要となり、更に上の前歯で歯根破折を生じると3本、計9本のインプラントが
必要という事態になってしまいます。

歯根破折歯を抜歯した場合の治療の見立て(予測)

          歯根破折歯(4歯)を抜歯した場合の治療の見立てと予測

初診時の残存歯の状態

                    初診時の残存歯の状態

さて、できるだけご自分の歯を残してほしいというSさんの希望に沿いつつ、経済的なご負担も大きなインプラントは
できれば最小限の活用に止めたい、更には10年というスパンで長期維持可能な治療をと考えました。
以下は個々の破折歯の接着保存治療の状態です。

歯根破折歯の接着保存治療

左上6 、右下7は口腔内接着法、右上4、右下5 は接着再植法でそれぞれ接着保存治療を行いました(右下5の
遠心はやや幅のある骨欠損であったため、トレフィンバーにて自家骨を採取し、エムドゲイン、Bio-ossという異種骨
も使った再生療法を併用)。

更に歯根破折を防止するため、i-TFCファイバーシステム、スーパーボンドを用いたi-TFC根築1回法と歯冠長延長術
を行いました。

その上で上顎は予後の難しい歯の経過を追いながら、仮歯で8か月間咬合力のコントロール、特に咀嚼力のコント
ロールを行いました。これまで咬合力のコントロールに関しては、その都度口頭で伝えていましたが、昨年小冊子に
まとめて、咬合力のコントロールを必要とする患者さんに渡す試みを始めました。 勉強会を重ねて、スタッフからも
多くの患者さんにアプローチしてもらえるようにしたいというのが今年の目標の一つです。

咬合力の必要な患者様へ ①
咬合力の必要な患者様へ ②
咬合力の必要な患者様へ ③
咬合力の必要な患者様へ ④

Sさんにも当院で作成した小冊子(内容は一部著名な歯科医師の専門誌、論文等からも引用)をお渡しし、まずは
咬合力のコントロールということを 具体的に知っていただいた上で、咀嚼や噛みしめの気づきを促すことを行いました。

その過程で、以下の気づきがありました(一部抜粋)。
1.咀嚼時、強く噛んでいることがわかった。噛み切った後も強く噛んでいることをご主人様にお話ししたところ、
  そういう習慣的行為は自分だけだと悟ったそうです。
2.早食いでガシガシ噛んでしまっている。
3.日中自己観察をしてみると、無意識のうちに強く噛みしめていることがあることに気づく。

治療時間を確保し、咬合力という話を折に触れて繰り返し行うことが、 患者さんの意識を少しずつ向上させていく
ものと考えています。

歯のないところにインプラントを入れますと、それまで噛めなかったところが噛めるようになりますので、患者さん
本来の咬合力が戻った結果、インプラントは大丈夫でも、今度は別な歯が歯根破折を起こしてインプラントに置き
換わっていきます。

そうやって次々とご自身の歯がインプラントに置き換わっていった結果、最初は左下奥2本の欠損部にインプラントを
入れただけであったものが、10年足らずの間に、上下左右の前歯、奥歯が7本次々と抜歯、すべてインプラントとなって
しまい、今後も更に歯がなくなっていくのではないかと大きな不安を抱え、ネットをご覧になって当院に転院されてきた
患者さんも実際におられます。

当院でもインプラントは勿論行っておりますし、様々なテクニックを用いて難しい顎堤にも対応していますが、
できるだけご自身の歯を保存し、またご自身の歯がインプラントに置き換わることのないよう、i-TFC根築1回法、
歯冠長延長術、矯正的挺出等によるフェルールの確保、天然歯による必要な連結固定、そして一番大切な咬合力の
コントロールを厳密なプラークコントロールと共に、医患協同で行っております。

破折歯(右下7を除く3歯)の治療経過

              破折歯(右下7を除く3歯)の治療経過



上顎フルブリッジの型取り時

インプラントは上記の治療を行った上で、歯を守ることができるよう、受圧・加圧のバランスも考え、控えめに必要
最小限の活用を心掛けています。

治療終了時のレントゲン写真

治療終了時(最終的に右下7,5の歯根破折歯を守るため、6部に1本だけインプラントを埋入)

Sさんの咀嚼力のコントロールもまだまだ不十分で、これからのメインテナンスの中で粘り強く対応していかなければ
ならないと考えていますし、治療終了時の状態ができるだけ長期に維持されることは、医療側にとっても患者さんに
とっても幸せにつながりますので、Sさんのような咬合力の強い患者さんはできるだけ力のコントロールを行っていく
ことが何よりも必要だと感じています。

初診時歯根破折を起こしていた4歯のうち、3歯は術後の経過も改善度も良好ですが、左上6だけは初診時、近遠心的
な破折線に沿ってⅢ度の根分岐部病変を認めていたため改善度には限界があり、長期維持には正直不安はあります。

しかしながら、今左上6を抜歯し、左上奥にインプラントによるブリッジを装着することが最善かと言えば、Sさんも
そのような治療を望まれているわけではなく、私の立場からみてもはなはだ疑問です。
上顎のフルブリッジは将来この歯の保存が危うくなってきても、この箇所だけをインプラントにより再治療することが
可能な設計にしていますし、未だ咬合力のコントロールが不十分な今、インプラントにすることは、左下奥の加圧要素を
増すだけで却って危険だと考えています。
勿論、Sさんにもそのことは伝えた上で、炎症と咬合力のコントロールを粘り強く継続して行っていくつもりです。

治療終了時の口腔内

                       治療終了時の口腔内

Sさん、遠く日高からいつもご来院いただき本当にありがとうございます。なかなか難易度の高い歯、口腔内でしたが、
今の私の臨床経験、治療技術で、何とかSさんの希望に近い治療ができたのではないかと思います。
今後は、ここからのメインテナンスが長い道のりではありますが、できるだけ現状を長期に維持していけるよう
私ができることは当然ですが精一杯行っていきますので、メインテナンスの継続、力のコントロールの継続を
今後も引き続き、どうぞよろしくお願い致します 




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