2018.11.17
歯周病治療におけるPCR細菌検査と除菌療法 Part2
皆様いかがお過ごしでしょうか、なえぼ駅前歯科の大村です。
今年は例年になく初雪が遅く、札幌において観測史上最も遅い初雪は1890年11月20日ということですので、
128年ぶりの記録更新となるかもしれませんね。厳しい残暑もなく、また今のところそれ程寒くもありません
ので、例年になく長い秋を過ごせているのは何よりです。
本日、自院の診療は休みなのですが、午前中、他院さんでインプラントのオペとスタッフさん向けの勉強会を行い、
午後からは日本臨床歯周病学会北海道支部研修会に参加する予定です。
その前に苗穂新駅舎が本日オープンということで頑張って早起きし、こちらに来てみました~~(笑)

苗穂新駅舎(南口)
私と同じように早朝から写真を撮る人も(笑)

苗穂新駅舎構内
テレビ局の取材で構内はごった返し、カメラに写らないようスルーしながら改札口へと移動

なえぼ駅前歯科電飾広告
長田広告のデザイナーさんがかわいらしく作ってくれました!何とか新駅舎オープンに間に合いました
苗穂新駅舎南口に隣接した東西に25階建てのタワーマンションが来年3月から着工予定とのことですので、
少しずつ苗穂駅周辺も変わってくることと思います(これまでは良くも悪くも高層建築物がなく(笑)、辺りをぐるりと
見渡せたのですが)。
さて、本日は前回に引き続き、歯周病治療におけるPCR細菌検査と除菌療法についてお話しさせていただきます。
今日の話は前回のブログからお読みいただかないと、内容をご理解いただくことが難しいと思われますので、
お手数ですがまずは http://naebohonobono.blog.fc2.com/blog-entry-126.html をご一読いただけたら幸いです。
前回ご紹介した、平成18年当時、42才のSさん(侵襲性歯周炎と診断)と平成14年当時、36才のWさん(慢性歯周炎)は、
お二人とも10年近い未来院を経て当院に再来院されました。
お二人とも30代後半~40代前半の男性で、初診時、中等度~重度の歯周炎に罹患していたこと、喫煙者、
歯周病治療(歯周動的治療)は一旦終了した後未来院になっていること、未来院期間中のプラークコントロールは
不十分という条件が似たケースでありながら、その後の経過は大きく違っています。
当時、より罹患度が高く、進行しやすいと考えていたSさんの方は、10年後の再来時、虫歯で保存不可能となった
上顎前歯と右下智歯を除き、すべての残存歯が保存可能な状態で維持されていました。
再来院から2年8ヵ月経過した現在も、歯周組織は良好に維持されています。

平成18年初診時
初診時全顎的に重度の歯周炎で、42才という年齢からも侵襲性歯周炎と考え、PCR細菌検査を行いました。

その結果、Aa菌、Pg菌ともに感染を認めたため、アモキシシリン+メトロニダゾールにて除菌を行いましたが
(その直後から未来院)、最後まで内服薬を飲み切られたかどうか定かではありませんでした。
歯周基本治療が終了し、歯周動的治療も概ね終了した時点から(歯周基本治療で改善しており、歯周外科処置は考えて
いなかった)未来院となりました。

平成28年再来時
う蝕の進行により、上顎前歯部と右下智歯は保存不可能となっていましたが、それ以外の残存歯はびっくりする程、
10年前の状態を維持していました。
Sさんに当時の除菌の話をお聞きしたところ、「先生の指示通り、薬はすべて飲み切りました」とのこと。
あらためてPCR細菌検査を行ったところ、Aa菌、Pg菌とも除菌されていました。



平成30年現在の状態
上顎はすべての残存歯をブリッジで連結固定し、左下奥に1本インプラントをお入れしてメインテナンス継続中。
「親から受け継いだ遺伝(体質)だと思っていたら、実は親からの菌の感染だった」
の例えではありませんが、Sさんの侵襲性歯周炎の病態はこれまでの経過から細菌学的要因が強かった可能性が
高いと推測されました。
ひとつだけ誤解のないようお伝えしておきたいのですが
、歯周病治療の基本はあくまで「歯肉縁上、縁下の
プラークコントロールの徹底」と「質の高いメインテナンスの継続」だと言うことです。
Sさんの場合、歯肉縁下の起炎物質(歯石など)の徹底除去が平成18年時に一度達成されていたこと、併せて
細菌学的要因が大きかったこと(未来院前にAa菌、Pg菌の除菌が達成されていたこと)、再来時、喫煙をやめて
おられたこと、咬合力が強くない(リスク因子としての外傷性咬合がない)ことなどが複合的に重なった結果として、
たまたま進行していなかったにすぎません(歯周病は薬で治る?とか、メインテナンスがなくても進行しない?と
くれぐれも誤解のないようにお願いします
)。
一方、Wさんの方は、36才時に27歯あった残存歯ですが、15年経った現在、7歯がすでに抜歯もしくは自然脱落し、
残っている歯もかなり厳しい状態になっています。

平成14年治療終了時

平成22年再来時(8年ぶりの来院、その後再度未来院)

平成30年8月歯周病治療開始時
喫煙、ストレス、噛みしめ等のリスク因子が歯周病の進行を助長したことに疑いの余地はありませんが、それにしても
歯周病の進行が早く、あらためて30代以降の重度慢性歯周炎と侵襲性歯周炎の線引きは難しいと感じています。
詳しく話をお聞きしたところ、家族内集積があるとのことでしたので、Aa菌、Pg菌の2菌種に関してPCR細菌検査を
行ったところ、Aa菌の感染はなく、Pg菌のみを認めました。
ところで歯周炎の進行に強く関与していると考えられている細菌は、同定されているもので10~20種類ありますが、
BML社のPCR細菌検査ではその中でも重要と思われている6菌種を調べることが可能です。
当院では6菌種すべてを調べる場合、Aa菌とred complexと呼ばれる3菌種(Pg菌はここに属している)の計4菌種、
もしくはAa菌、Pg菌の2菌種を調べる場合があります。歯周病原性の強い細菌として、特に問題とされているAa菌、Pg菌
なのですが、実は菌株によって病原性に差があることがわかっています。
例えばAa菌の罹患率は日本では低いのですが、海外では10~25%という報告があります(病原性の強くないAa菌に
多く罹患している)。またPg菌の罹患率は何と日本では40%くらいなのですが、そのうち重症化する症例は限られています。
日本でPg菌の罹患率が高いことから、BML社では細菌外膜のfimA線毛の遺伝子型(菌株)まで調べることができ、
6種類のうちⅡ型がもっとも病原性が強いことがすでにわかっています。次いでⅣ型、Ⅰ型と言われているのですが、
WさんはⅡ型ではなくⅠ型でした。
だんだん迷路にはまりこんできましたね(スイマセン)。
結論を簡単にお話しすると、Wさんの場合、遺伝的要因がおそらくまずあって、そこにⅠ型のPg菌が関与している
可能性がある。またリスク因子としての喫煙、外傷性咬合(噛みしめ)、ストレスが歯周炎の進行に複雑に絡み合っていると
考えられます。

Wさんに除菌療法が有効かどうかは意見が分かれるところです。
私が侵襲性歯周炎もしくは重度慢性歯周炎と診断した患者さんに対してPCR細菌検査を行い、① Aa菌が検出されたり、
②Pg菌の対総菌数比率が大きかったり、③Pg菌のfimA遺伝子型がⅡ型(もしくはⅣ型)であった場合(Ⅰ型は?)、
内服による除菌療法を積極的に行うようになったのは、母娘でAa菌に感染していた患者さんの長期経過の違いが
きっかけでした。
ここで詳細は述べませんが、20才代で重度の歯周炎に罹患していた娘さんは、Aa菌(+)、Pg菌(-)で除菌療法を
行った結果、長期予後が極めて良好である一方、40才代で重度の歯周炎に罹患していた母親は、Aa菌(+)、Pg菌(+)
(後にこのPg菌はⅡ型であることが判明)の両菌に感染しており、そのため内服による除菌を勧めたにもかかわらず、
患者さんが消極的であったため抗生剤の局所投与のみでメインテナンスし続けた結果、6ヵ月以内のメインテナンスを
継続したにもかかわらずメインテナンスし切れず、20年間で4歯の喪失を余儀なくされました。
この苦い経験を通して現在は、PCR細菌検査の結果、①~③の場合、積極的に内服による除菌を勧めています。
私自身はFMD(Full Mouth Disinfection)や歯周ポケット内の局所投与では、歯肉深くに侵入している歯周病原性
細菌の徹底除菌は困難であり、歯周ポケット外からの再感染の可能性も否定できないと考えています。
ここまで長い話に最後までお付き合いいただきありがとうございました。
次回はPCR細菌検査、除菌療法に絡めてPart3ということで、重度歯周炎患者の治療例をみていただく予定です。
次回もまたお付き合いくださることを願っています
今年は例年になく初雪が遅く、札幌において観測史上最も遅い初雪は1890年11月20日ということですので、
128年ぶりの記録更新となるかもしれませんね。厳しい残暑もなく、また今のところそれ程寒くもありません
ので、例年になく長い秋を過ごせているのは何よりです。
本日、自院の診療は休みなのですが、午前中、他院さんでインプラントのオペとスタッフさん向けの勉強会を行い、
午後からは日本臨床歯周病学会北海道支部研修会に参加する予定です。
その前に苗穂新駅舎が本日オープンということで頑張って早起きし、こちらに来てみました~~(笑)

苗穂新駅舎(南口)
私と同じように早朝から写真を撮る人も(笑)

苗穂新駅舎構内
テレビ局の取材で構内はごった返し、カメラに写らないようスルーしながら改札口へと移動

なえぼ駅前歯科電飾広告
長田広告のデザイナーさんがかわいらしく作ってくれました!何とか新駅舎オープンに間に合いました
苗穂新駅舎南口に隣接した東西に25階建てのタワーマンションが来年3月から着工予定とのことですので、
少しずつ苗穂駅周辺も変わってくることと思います(これまでは良くも悪くも高層建築物がなく(笑)、辺りをぐるりと
見渡せたのですが)。
さて、本日は前回に引き続き、歯周病治療におけるPCR細菌検査と除菌療法についてお話しさせていただきます。
今日の話は前回のブログからお読みいただかないと、内容をご理解いただくことが難しいと思われますので、
お手数ですがまずは http://naebohonobono.blog.fc2.com/blog-entry-126.html をご一読いただけたら幸いです。
前回ご紹介した、平成18年当時、42才のSさん(侵襲性歯周炎と診断)と平成14年当時、36才のWさん(慢性歯周炎)は、
お二人とも10年近い未来院を経て当院に再来院されました。
お二人とも30代後半~40代前半の男性で、初診時、中等度~重度の歯周炎に罹患していたこと、喫煙者、
歯周病治療(歯周動的治療)は一旦終了した後未来院になっていること、未来院期間中のプラークコントロールは
不十分という条件が似たケースでありながら、その後の経過は大きく違っています。
当時、より罹患度が高く、進行しやすいと考えていたSさんの方は、10年後の再来時、虫歯で保存不可能となった
上顎前歯と右下智歯を除き、すべての残存歯が保存可能な状態で維持されていました。
再来院から2年8ヵ月経過した現在も、歯周組織は良好に維持されています。

平成18年初診時
初診時全顎的に重度の歯周炎で、42才という年齢からも侵襲性歯周炎と考え、PCR細菌検査を行いました。

その結果、Aa菌、Pg菌ともに感染を認めたため、アモキシシリン+メトロニダゾールにて除菌を行いましたが
(その直後から未来院)、最後まで内服薬を飲み切られたかどうか定かではありませんでした。
歯周基本治療が終了し、歯周動的治療も概ね終了した時点から(歯周基本治療で改善しており、歯周外科処置は考えて
いなかった)未来院となりました。

平成28年再来時
う蝕の進行により、上顎前歯部と右下智歯は保存不可能となっていましたが、それ以外の残存歯はびっくりする程、
10年前の状態を維持していました。
Sさんに当時の除菌の話をお聞きしたところ、「先生の指示通り、薬はすべて飲み切りました」とのこと。
あらためてPCR細菌検査を行ったところ、Aa菌、Pg菌とも除菌されていました。



平成30年現在の状態
上顎はすべての残存歯をブリッジで連結固定し、左下奥に1本インプラントをお入れしてメインテナンス継続中。
「親から受け継いだ遺伝(体質)だと思っていたら、実は親からの菌の感染だった」
の例えではありませんが、Sさんの侵襲性歯周炎の病態はこれまでの経過から細菌学的要因が強かった可能性が
高いと推測されました。
ひとつだけ誤解のないようお伝えしておきたいのですが

プラークコントロールの徹底」と「質の高いメインテナンスの継続」だと言うことです。
Sさんの場合、歯肉縁下の起炎物質(歯石など)の徹底除去が平成18年時に一度達成されていたこと、併せて
細菌学的要因が大きかったこと(未来院前にAa菌、Pg菌の除菌が達成されていたこと)、再来時、喫煙をやめて
おられたこと、咬合力が強くない(リスク因子としての外傷性咬合がない)ことなどが複合的に重なった結果として、
たまたま進行していなかったにすぎません(歯周病は薬で治る?とか、メインテナンスがなくても進行しない?と
くれぐれも誤解のないようにお願いします

一方、Wさんの方は、36才時に27歯あった残存歯ですが、15年経った現在、7歯がすでに抜歯もしくは自然脱落し、
残っている歯もかなり厳しい状態になっています。

平成14年治療終了時

平成22年再来時(8年ぶりの来院、その後再度未来院)

平成30年8月歯周病治療開始時
喫煙、ストレス、噛みしめ等のリスク因子が歯周病の進行を助長したことに疑いの余地はありませんが、それにしても
歯周病の進行が早く、あらためて30代以降の重度慢性歯周炎と侵襲性歯周炎の線引きは難しいと感じています。
詳しく話をお聞きしたところ、家族内集積があるとのことでしたので、Aa菌、Pg菌の2菌種に関してPCR細菌検査を
行ったところ、Aa菌の感染はなく、Pg菌のみを認めました。
ところで歯周炎の進行に強く関与していると考えられている細菌は、同定されているもので10~20種類ありますが、
BML社のPCR細菌検査ではその中でも重要と思われている6菌種を調べることが可能です。
当院では6菌種すべてを調べる場合、Aa菌とred complexと呼ばれる3菌種(Pg菌はここに属している)の計4菌種、
もしくはAa菌、Pg菌の2菌種を調べる場合があります。歯周病原性の強い細菌として、特に問題とされているAa菌、Pg菌
なのですが、実は菌株によって病原性に差があることがわかっています。
例えばAa菌の罹患率は日本では低いのですが、海外では10~25%という報告があります(病原性の強くないAa菌に
多く罹患している)。またPg菌の罹患率は何と日本では40%くらいなのですが、そのうち重症化する症例は限られています。
日本でPg菌の罹患率が高いことから、BML社では細菌外膜のfimA線毛の遺伝子型(菌株)まで調べることができ、
6種類のうちⅡ型がもっとも病原性が強いことがすでにわかっています。次いでⅣ型、Ⅰ型と言われているのですが、
WさんはⅡ型ではなくⅠ型でした。
だんだん迷路にはまりこんできましたね(スイマセン)。
結論を簡単にお話しすると、Wさんの場合、遺伝的要因がおそらくまずあって、そこにⅠ型のPg菌が関与している
可能性がある。またリスク因子としての喫煙、外傷性咬合(噛みしめ)、ストレスが歯周炎の進行に複雑に絡み合っていると
考えられます。

Wさんに除菌療法が有効かどうかは意見が分かれるところです。
私が侵襲性歯周炎もしくは重度慢性歯周炎と診断した患者さんに対してPCR細菌検査を行い、① Aa菌が検出されたり、
②Pg菌の対総菌数比率が大きかったり、③Pg菌のfimA遺伝子型がⅡ型(もしくはⅣ型)であった場合(Ⅰ型は?)、
内服による除菌療法を積極的に行うようになったのは、母娘でAa菌に感染していた患者さんの長期経過の違いが
きっかけでした。
ここで詳細は述べませんが、20才代で重度の歯周炎に罹患していた娘さんは、Aa菌(+)、Pg菌(-)で除菌療法を
行った結果、長期予後が極めて良好である一方、40才代で重度の歯周炎に罹患していた母親は、Aa菌(+)、Pg菌(+)
(後にこのPg菌はⅡ型であることが判明)の両菌に感染しており、そのため内服による除菌を勧めたにもかかわらず、
患者さんが消極的であったため抗生剤の局所投与のみでメインテナンスし続けた結果、6ヵ月以内のメインテナンスを
継続したにもかかわらずメインテナンスし切れず、20年間で4歯の喪失を余儀なくされました。
この苦い経験を通して現在は、PCR細菌検査の結果、①~③の場合、積極的に内服による除菌を勧めています。
私自身はFMD(Full Mouth Disinfection)や歯周ポケット内の局所投与では、歯肉深くに侵入している歯周病原性
細菌の徹底除菌は困難であり、歯周ポケット外からの再感染の可能性も否定できないと考えています。
ここまで長い話に最後までお付き合いいただきありがとうございました。
次回はPCR細菌検査、除菌療法に絡めてPart3ということで、重度歯周炎患者の治療例をみていただく予定です。
次回もまたお付き合いくださることを願っています

スポンサーサイト
2018.11.06
歯周病治療におけるPCR細菌検査と除菌療法 Part1
皆様いかがお過ごしでしょうか、なえぼ駅前歯科の大村です。
今年も残すところあと2ヵ月弱、1年間全力で診療に取り組んできましたが、昨年同様、今年も充実した1年を過ごすことが
できたのは、ひとえに常日頃、私を献身的に支えてくれるスタッフのお陰と本当に感謝しています。
本日、今年最後のランチ会を南3条西9丁目にあるフレンチビストロのお店 ヴァンセット ケイ(Vingt-Sept.K)
(http://www.vingtseptk.com/)で行いました。

皆の笑顔は私の喜びでもありますので、これからも健康管理には気をつけつつ、「スタッフの満足なくして患者満足は
あり得ない」を院長として肝に命じながら、共に成長していけたらと思っています。
早速ですが、今日は前回のブログでも予告した、歯周病治療におけるPCR細菌検査と除菌療法のお話をさせていただきます。
すでにご存知の方も多いと思いますが、歯周病は歯と歯肉の境目(歯肉溝)に付着したプラーク(歯垢)中の細菌が原因です。
プラーク中には700種類と言われる細菌が存在していますが、その中でも10~20種類の歯周病原性の強い細菌の存在が
明らかになっており、一般的に歯周病治療は「歯肉縁上、縁下のプラークコントロール」をいかに徹底できるかが成功の鍵と
なります。
しかしながら、多くの歯周炎患者(ほとんどの患者さんは40才くらいから徐々に進行していく慢性歯周炎)の中には、全身的
には健康であるにもかかわらず、10代、20代から歯周炎を発症し急速に進行していく、いわゆる侵襲性歯周炎と思われる
患者さんがおられます。

侵襲性歯周炎患者の特徴として、家族内集積が見られることが多く、歯周病原性の高いAa菌、Pq菌による感染(細菌学的
要因)や宿主の防御機構の低下、免疫応答の異常(遺伝的要因)、あるいはその両者の複合が指摘されています。

歯周病は細菌と宿主の相互作用により発症する多因子性疾患
このようなごく一部の特殊な歯周炎患者に対しては、プラーク細菌の量をコントロールするのみならず(わずかなプラーク
の付着でも問題となり得る可能性があるため)、質のコントロール、即ち細菌叢を変える(歯周病原性の強いプラーク細菌を
除菌する)ことで、より良い歯周組織の治癒と長期維持が可能になるのではないかと考え、日本の一般臨床医が歯周病原性
細菌のPCR細菌検査を初めて行えるようになった(BML社に委託できるようになった)2000年当初から、当院では主に
侵襲性歯周炎と思われる患者さんに対し、細菌検査と除菌療法を行ってきました。
今日ご紹介する患者さんは平成18年当時、42才のSさんと、同じく平成14年当時、36才のWさんで、お二人とも10年近い
未来院を経て当院に再来院されました。
当時、Sさんは侵襲性歯周炎、Wさんは慢性歯周炎と考えており、Sさんの方が罹患度も高く、進行性もあると考えていました。
同年代の男性、喫煙者、歯周病治療(歯周動的治療)は一旦終了していること、未来院期間中のプラークコントロールは
不十分という共通する条件が多いにもかかわらず、その後の経過は大きく違っています。
それは何故なのか?
侵襲性歯周炎のSさんの病態(原因や発症機序)はどのように考えられるか(歯周病原性の強い細菌の感染が原因?体質?)、
30代以降の侵襲性歯周炎と慢性重度歯周炎の線引きは難しいという話は、次回Part2でさせていただきます

患者 Sさんの初診時 ×は保存困難なため抜歯、△は部分的に抜根
Sさんは歯周基本治療を終了(概ね歯周動的治療も終了)したあたりで、職場が苗穂から移動となり来院が途絶えました。
初診時の年齢と罹患度の高さから侵襲性歯周炎と考えていましたので、PCR細菌検査を行ったところ、予想していたAa菌、
Pg菌共に感染していることが判明したため、来院が途絶える直前に、アモキシシリン+メトロニダゾールにて除菌療法を
行っていました。
しかしながら、服用中に確か吐き気か下痢の症状が出たとのことでお電話をいただき、結局そのまま?来院が途絶えて
しまったため、最後まで飲み切られたかどうか定かではありませんでした(1週間連続投与を行い、その間、歯周ポケット内
のMIC90(90%の最小発育阻止濃度)を維持することが必須ですので、途中で服用し忘れてしまったり、自己判断で中止
してしまうと効果が発揮できなくなります)。

10年後に突然、前歯が取れたとのお電話があり、驚きと嬉しさの反面、「ああ、やっぱりかなり歯周病が進行してしまった
んだな~」と想像(上の前歯は歯周病の進行で自然脱落したと考えた)。
しかしながら再来時のレントゲンを10年前(初診時)のレントゲンとよく比較しながら診てみると、上顎前歯部と右下
智歯は歯周病ではなくう蝕の進行により保存困難となっており(上顎前歯部は嚢胞も大きくなっていた)、他のすべての
歯の歯周病は・・・!!
その後、2年8ヵ月経過した現在の状態は次回のPart2でご覧いただきます
一方、Wさんの方ですが、下は平成14年に全顎治療を終了した時のレントゲン写真です。

当時Wさんは36才でしたので、歯周病に対する罹患度は高く、赤矢印の部位には5~6mmの歯周ポケットも残存して
いたため、引き続き注意しながらメインテナンスしていこうと考えていましたが、何回かメインテナンス来院された後、未来院
となりました。

8年ぶり、44才時のWさんのレントゲン写真です。36才当時の罹患度から想像していたより歯周病はかなり進行していました。
またそれ程欠損がない(3歯欠損、27歯残存)にもかかわらず、全体に垂直性の骨吸収像を示しており、噛みしめ等の
ブラキシズム、喫煙、仕事のストレスがリスク因子となっているのではないかと考えました。

再度歯周病治療のモチベーション、ブラッシング指導を行い、全顎を6回に分けて、私自身が浸麻、スケーリング・ルートプレー
ニングを行いました。しかしながら元々痛みにとても弱いWさんは、このあたりで一度お休みしたいということになってしまい、
結局そのまま中断となってしまいました。
そこから更に6年後、H28年にWさんから再びご予約のお電話がありました。

6年の間、道東に転勤となり、転勤先で5本(×の部位)の抜歯処置を受けたとのことでした・・・
当初は慢性歯周炎と診断していたWさんの14年間の経過における歯周病の進行の速さ、またあらためて問診をお取りすると
実は家族内集積があること、Sさんとの経過の違いなど、歯周病を専門に行っている歯科医師にとっては興味深いものが
あります。
痛みにとても弱く、ご自分の歯に対するあきらめも相俟って、再来院後も治療に積極的になれない状態が2年近く続きました。
その間、Wさんの気持ちに寄り添いながら応急処置にて対応してきましたが、右上奥歯の2本が相次いで自然脱落
今年8月からようやく少しずつ歯周病治療を再開しており、先日WさんもPCR細菌検査を行いました。
さて、ここまで話がかなり長くなってしまいました。
専門的過ぎる話に最後までお付き合いいただきありがとうございます
この続きは次回のPart2であらためてお話しさせていただくこととし、本日はここまでとさせていただきます。
今年も残すところあと2ヵ月弱、1年間全力で診療に取り組んできましたが、昨年同様、今年も充実した1年を過ごすことが
できたのは、ひとえに常日頃、私を献身的に支えてくれるスタッフのお陰と本当に感謝しています。
本日、今年最後のランチ会を南3条西9丁目にあるフレンチビストロのお店 ヴァンセット ケイ(Vingt-Sept.K)
(http://www.vingtseptk.com/)で行いました。

皆の笑顔は私の喜びでもありますので、これからも健康管理には気をつけつつ、「スタッフの満足なくして患者満足は
あり得ない」を院長として肝に命じながら、共に成長していけたらと思っています。
早速ですが、今日は前回のブログでも予告した、歯周病治療におけるPCR細菌検査と除菌療法のお話をさせていただきます。
すでにご存知の方も多いと思いますが、歯周病は歯と歯肉の境目(歯肉溝)に付着したプラーク(歯垢)中の細菌が原因です。
プラーク中には700種類と言われる細菌が存在していますが、その中でも10~20種類の歯周病原性の強い細菌の存在が
明らかになっており、一般的に歯周病治療は「歯肉縁上、縁下のプラークコントロール」をいかに徹底できるかが成功の鍵と
なります。
しかしながら、多くの歯周炎患者(ほとんどの患者さんは40才くらいから徐々に進行していく慢性歯周炎)の中には、全身的
には健康であるにもかかわらず、10代、20代から歯周炎を発症し急速に進行していく、いわゆる侵襲性歯周炎と思われる
患者さんがおられます。

侵襲性歯周炎患者の特徴として、家族内集積が見られることが多く、歯周病原性の高いAa菌、Pq菌による感染(細菌学的
要因)や宿主の防御機構の低下、免疫応答の異常(遺伝的要因)、あるいはその両者の複合が指摘されています。

歯周病は細菌と宿主の相互作用により発症する多因子性疾患
このようなごく一部の特殊な歯周炎患者に対しては、プラーク細菌の量をコントロールするのみならず(わずかなプラーク
の付着でも問題となり得る可能性があるため)、質のコントロール、即ち細菌叢を変える(歯周病原性の強いプラーク細菌を
除菌する)ことで、より良い歯周組織の治癒と長期維持が可能になるのではないかと考え、日本の一般臨床医が歯周病原性
細菌のPCR細菌検査を初めて行えるようになった(BML社に委託できるようになった)2000年当初から、当院では主に
侵襲性歯周炎と思われる患者さんに対し、細菌検査と除菌療法を行ってきました。
今日ご紹介する患者さんは平成18年当時、42才のSさんと、同じく平成14年当時、36才のWさんで、お二人とも10年近い
未来院を経て当院に再来院されました。
当時、Sさんは侵襲性歯周炎、Wさんは慢性歯周炎と考えており、Sさんの方が罹患度も高く、進行性もあると考えていました。
同年代の男性、喫煙者、歯周病治療(歯周動的治療)は一旦終了していること、未来院期間中のプラークコントロールは
不十分という共通する条件が多いにもかかわらず、その後の経過は大きく違っています。
それは何故なのか?
侵襲性歯周炎のSさんの病態(原因や発症機序)はどのように考えられるか(歯周病原性の強い細菌の感染が原因?体質?)、
30代以降の侵襲性歯周炎と慢性重度歯周炎の線引きは難しいという話は、次回Part2でさせていただきます


患者 Sさんの初診時 ×は保存困難なため抜歯、△は部分的に抜根
Sさんは歯周基本治療を終了(概ね歯周動的治療も終了)したあたりで、職場が苗穂から移動となり来院が途絶えました。
初診時の年齢と罹患度の高さから侵襲性歯周炎と考えていましたので、PCR細菌検査を行ったところ、予想していたAa菌、
Pg菌共に感染していることが判明したため、来院が途絶える直前に、アモキシシリン+メトロニダゾールにて除菌療法を
行っていました。
しかしながら、服用中に確か吐き気か下痢の症状が出たとのことでお電話をいただき、結局そのまま?来院が途絶えて
しまったため、最後まで飲み切られたかどうか定かではありませんでした(1週間連続投与を行い、その間、歯周ポケット内
のMIC90(90%の最小発育阻止濃度)を維持することが必須ですので、途中で服用し忘れてしまったり、自己判断で中止
してしまうと効果が発揮できなくなります)。

10年後に突然、前歯が取れたとのお電話があり、驚きと嬉しさの反面、「ああ、やっぱりかなり歯周病が進行してしまった
んだな~」と想像(上の前歯は歯周病の進行で自然脱落したと考えた)。
しかしながら再来時のレントゲンを10年前(初診時)のレントゲンとよく比較しながら診てみると、上顎前歯部と右下
智歯は歯周病ではなくう蝕の進行により保存困難となっており(上顎前歯部は嚢胞も大きくなっていた)、他のすべての
歯の歯周病は・・・!!
その後、2年8ヵ月経過した現在の状態は次回のPart2でご覧いただきます

一方、Wさんの方ですが、下は平成14年に全顎治療を終了した時のレントゲン写真です。

当時Wさんは36才でしたので、歯周病に対する罹患度は高く、赤矢印の部位には5~6mmの歯周ポケットも残存して
いたため、引き続き注意しながらメインテナンスしていこうと考えていましたが、何回かメインテナンス来院された後、未来院
となりました。

8年ぶり、44才時のWさんのレントゲン写真です。36才当時の罹患度から想像していたより歯周病はかなり進行していました。
またそれ程欠損がない(3歯欠損、27歯残存)にもかかわらず、全体に垂直性の骨吸収像を示しており、噛みしめ等の
ブラキシズム、喫煙、仕事のストレスがリスク因子となっているのではないかと考えました。

再度歯周病治療のモチベーション、ブラッシング指導を行い、全顎を6回に分けて、私自身が浸麻、スケーリング・ルートプレー
ニングを行いました。しかしながら元々痛みにとても弱いWさんは、このあたりで一度お休みしたいということになってしまい、
結局そのまま中断となってしまいました。
そこから更に6年後、H28年にWさんから再びご予約のお電話がありました。

6年の間、道東に転勤となり、転勤先で5本(×の部位)の抜歯処置を受けたとのことでした・・・

当初は慢性歯周炎と診断していたWさんの14年間の経過における歯周病の進行の速さ、またあらためて問診をお取りすると
実は家族内集積があること、Sさんとの経過の違いなど、歯周病を専門に行っている歯科医師にとっては興味深いものが
あります。
痛みにとても弱く、ご自分の歯に対するあきらめも相俟って、再来院後も治療に積極的になれない状態が2年近く続きました。
その間、Wさんの気持ちに寄り添いながら応急処置にて対応してきましたが、右上奥歯の2本が相次いで自然脱落

今年8月からようやく少しずつ歯周病治療を再開しており、先日WさんもPCR細菌検査を行いました。
さて、ここまで話がかなり長くなってしまいました。
専門的過ぎる話に最後までお付き合いいただきありがとうございます

この続きは次回のPart2であらためてお話しさせていただくこととし、本日はここまでとさせていただきます。
| HOME |