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2018.10.08

破折歯接着保存治療歯の10年経過症例 Part1( I さんのケース)

台風一過、今日は秋晴れの清々しい天気ですが皆様いかがお過ごしでしょうか、なえぼ駅前歯科の大村です。
台風25号の影響で7日(日)に予定していた札幌マラソンが中止になってしまいました 
娘がネットでたまたま見つけて前日に教えてくれたのですが、前々日までは全く知りませんでした(まあ、さすがに
走るのは難しかったと思いますが)。

私自身これまで大会中止を経験したことがありませんでしたので、今回ハーフ参加費の5140円は返金されないという
ことも初めて知りました(大会開催に向けた運営費等に充当されるようです)。
大会の申込規約には「地震・風水害・降雪・事件・事故・疾病等による開催縮小、中止、参加料返金の有無、その額、
通知方法等についてはその都度主催者が判断し、決定します」とあり、例えばコンサートが台風で中止になった場合、
チケットは払い戻しされますが、マラソンの場合はこれまで中止になった大会もほとんどが返金されていないようです。

今年は7月の広島学会参加の際にも西日本豪雨の直撃に遭いましたし、「台風、洪水、地震などの自然災害は避けようが
ないしな~」ということで、三連休の6日は外を12km、翌日の大会予定日にはジムで10km走って札幌マラソンの元を
取りました(笑)

さて、前回のブログでもお知らせした通り、平成12年に当時63才で来院された I さんと平成10年に当時33才で来院
されたKさんの破折歯接着保存治療に纏(まつ)わるお話を2回に渡ってさせていただきます。

私が前回のブログでもお話しした眞坂信夫先生と出会い、歯根破折歯の接着保存治療を積極的に行うようになった
のは平成22年頃ですが、実はそれ以前にもその歯を保存する価値が十分あると私自身が考えたケースに限って、
破折歯の接着保存治療を行っていました。 I さんの破折歯もまさにそのような歯でした。

I さんの初診時のレントゲン写真です。

平成12年初診時

上顎はすでに歯がなく総義歯、下顎は前歯と左下奥に1本だけ奥歯が残っており部分床義歯が装着されていました。
I さんの主訴は、
1.バネの部分の見た目が悪くよく噛めない(下顎)
2.装着感の良い軽い義歯(上顎)を入れたいとのことでした。

平成13年治療終了時の状態です。

平成13年治療終了時

下顎はコーヌス義歯というバネのない二重冠義歯、上顎は軽くて生体親和性の良いチタン金属床義歯を作製しました。
治療終了後調子は良く、I さん曰く「義歯のように見えない」「何でも食べられる」とのことでした。

しばらく経過は良好だったのですが、治療終了7年目、平成20年に右下犬歯が腫れたとのことで来院されました。
調子良く噛めていたことと引き換えに歯に負担をかけ続けたことが、結果として金属ポスト先端部での歯根破折を
引き起こしていました。

 平成20年右下犬歯の状態

こういうタイプの下顎義歯(コーヌス義歯)はカメラの三脚と同じで足が一つなくなってしまうとバランスが悪くなります。
今回歯根破折を起こした右下犬歯を失ってしまうと、その後は左下の内冠が装着されている2本の歯に大きな負担が
かかります。即ち、右側で噛むと左下の2本の歯は右に揺さぶられるようになり、結果、左下にも歯根破折等のトラブルを
引き起こしやすくなります。I さんと相談の上、歯周外科処置による口腔内接着法という方法で右下犬歯の接着治療を
行うこととしました。

平成25年(治療終了12年後、接着保存治療5年後)の状態です。何事もなかったかのように問題なく経過しています。

平成20年の状態

「とにかくよく噛める」「ここで(破折した右下犬歯部)で食べると食事がおいしい」とのこと(ひえ~~、  )
「一度割れている歯なので、くれぐれも加減して優しく噛んでくださいね」とお話ししました

I さんは以前からパーキンソン病を患っており、年々歩行が難しくなりながらも遠く山の手から年に2回、時にはタクシーを
使ってメインテナンスに来院されていましたが、治療終了17年後の昨年の受診を最後に施設に入居されることになり、
大変残念なのですが当院でのメインテナンスを継続することが困難になってしまいました。
治療終了17年後、最後にお撮りしたレントゲン写真です。

治療終了17年後

今年5月に息子さんがメインテナンスで来院され、「母はお陰様で、歯も入れ歯も調子よく使えています」とのこと、
とても安心しました。長いメインテナンスの中で、上下義歯とも一度ずつ義歯の裏を貼り直してはいますが、下の前歯の
虫歯の治療以外は一箇所の再治療も歯の喪失もなく、64才から81才を I さんは過ごされました。

前回のブログでもお話ししたように、割れているから治療不可能ということでそのまま放置していたら、あるいは10年前の
時点で抜歯をしていたら、その後左側の歯にも負担がかかりトラブルの連鎖を引き起こした可能性は十分あると思います。

治療の難しい1本の歯の保存に努めることは、単にその歯を残すという価値のみならず、次の抜歯予備軍となる歯の
保存にも繋がります。

見栄えの良い、快適な、よく噛める義歯を長く維持することができたことで、I さんのかかりつけ歯科医として、
I さんのQOL(quality of life、生活の質)の向上に確実に貢献できたのではないかと思います。

開業当時に60代であった患者さんが、20年以上経って少しずつ通院できなくなってしまう状況はとても悲しいのですが、
お元気で通院していただけている間は、患者さんの最後のかかりつけ歯科医として責任を持ってメインテナンスし続け
たいと考えています
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