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2015.06.20

1本の歯をできるだけ抜かずに維持していくことへの想い Part1(歯周病)  

 6月に入り、ここ札幌も清々しい初夏の青空に新緑が美しい季節となりました。
皆様いかがお過ごしでしょうか、なえぼ駅前歯科の大村です。
1ヶ月ほど前から頚椎ヘルニアを再発させてしまい、現在も右手のしびれ、痛みと共存
しながらの生活を強いられています。
仕事柄、どうしても体を右に傾けることが多く職業病ですネ
ということでしばらく走ることもパソコンに向かうデスクワーク(ブログの更新)も
お休みしていましたが、2週間後の豊平川マラソン(フルマラソン)に向けて、
現在少しずつ歩くところから始めており、ブログの方も漸次更新していきますので
よろしくお願いします (*´∀`*)

本日のタイトルは「1本の歯をできるだけ抜かずに維持していくことへの想い」です。

私たち歯科医師の間では、「世界水準」とか、「エビデンス=科学的根拠」「エビデンスレベル
=確率の信頼度」という医学用語をよく耳にします。エビデンスレベルを知るということ自体は
その治療法の信頼度を知るために必要なことだと思います。

しかしながら、世界水準と言われる例えば米国では、保存可能な歯も抜歯されインプラントに
なっているという現状があります。果たして、根分岐部病変(大臼歯歯根間の歯周病変)を抱えた
歯周病罹患歯を残した場合と予後に不安のある歯は抜いてインプラントにした場合の10年後の
成功率を同じ土俵で論じることができるものでしょうか?

そこには日本のような国民皆保険制度を持たない、最善の治療を受けられるのは10名のうち
せいぜい2~3名、他の患者さんは治療費総額という問題で、日本の歯科保険診療であれば保存
できる歯も抜いて義歯にしなければならないという米国歯科医療が抱える問題や日本のように
まずは保存を試みるというグレー?な治療は医療訴訟の対象となってしまう現状が見え隠れして
しまうのです。

エビデンスレベルという学術においては、個々の患者さんの想いや個体差、歯科医師自身の
歯を残せる技術、歯周病治療やメインテナンスのレベルなどは考慮されておらず、個々の患者さん
の治療方法、治療の選択基準に、画一的にエビデンスレベルを持ってくることがあるとすれば、
そういう考え方に私自身は違和感を感じるのです。

話は少し難しくなってしまいましたが(^^; 、本日はエビデンスレベルから言えば、
ホープレスな(残せる見込みのない)歯の長期保存症例をみていただきたいと思います。

症例1.
初診時59才 現在76才の男性の患者さんです。
初診時、歯磨きをしていたら下の前歯が自然に抜けてきたとのことで来院されました。
初診時と17年後のレントゲン写真です。

症例1

抜けた前歯のところは、重症な歯周病で大きく外側に飛び出してしまっていた隣の歯を
矯正移動させました。これだけ歯を支えている骨がなくなっていても、適切な歯周治療の結果
浅くなった歯周ポケットを維持していくことで、長期に歯を保存していくことが可能なのです。

症例2.
初診時80才 現在96才の男性の患者さんです。
初診時と16年後の右下奥のレントゲン写真です。

症例2

この歯は下顎の唯一の残存歯で、患者さんもとても大切にしている歯です。歯周治療を行った
結果として、歯根周囲の骨はほとんど改善していませんが、4~5mmの歯周ポケットは悪化する
ことなく維持され、義歯を支える歯として16年、しっかり機能しています。

症例3.
初診時55才 現在71才の女性の患者さんです。
初診時左上小臼歯の内側の根(外側と内側の2根に分かれている)の周りには骨があり
ませんでした。普通は抜歯後に健全な犬歯を削ってブリッジになるケースだと思います。
しかしながら私は健全な犬歯をできるだけ削りたくなかったため、この歯を残すことに
トライしました。勿論、患者さんにもできるだけ抜歯せず使っていきたいというお気持ちがありました。
初診時と16年後のレントゲン写真です。

症例3

結果、71才の現在まで一度も歯ぐきが腫れたりすることなくしっかり維持されています。
何より歯が残っていることに対して、患者さんが満足し、喜んでくださっていることが嬉しいですネ。

勿論、私もやみくもに何でも歯を残そうと考えているわけではありません(^^; 
どうしても保存不可能な歯は、患者さんが納得して下さるまで最善を尽くした上で抜歯させて
いただくこともあります 

症例2に関しては、抜歯して総義歯でもいいんじゃないかと言うご意見もあるかと
思いますが、良いかどうかは患者さんご自身が最終的に判断すべきものと考えています。
残したいという患者さんには最善を尽くして保存に努める。また保存できる技術、
長期に維持していくための観察力、判断力を養うために、私たち歯科医師は日々来院して
くださる患者さんに感謝し、喜びを共有しながら研鑽努力しなければなりません。

スイトピー(赤)

これまでもブログで初診時保存不可能と思われた歯が長期に維持されている症例は
いろいろみていただいていますが、上記三症例はどれも治療終了時、歯周組織(骨)が
大きく改善されているわけではなく、正直私もここまで長期に維持できるとは思って
いませんでした。

開業して18年、多くの歯をできるだけ残す治療を実践してきた結果として、
歯はうまく治療し、うまくメインテナンスし続けることができれば(即ち、治療終了後もメインテ
ナンスを継続して下されば
)、思っている以上に長く持つというのが私の臨床実感です。

安易に抜歯してしまうと、歯列の連続性は途切れ欠損は進行し、そのつけは残存している歯に
回って、結果、抜歯の連鎖になってしまうため、難しい歯だからこそ保存に努めて、できるだけ
長期に維持していくということが大切なのです(*´∀`*)

次回のブログは、「1本の歯をできるだけ抜かずに維持していくことへの想い Part2」  
ということで、当院のホームページをご覧になられて、インプラントは嫌、できるだけ
ご自身の歯を残す治療を希望ということで、計5歯の歯根破折歯のうち4歯を接着保存
させ、治療を終了したMさんのお話をさせていただきます。

破折歯も歯周病罹患歯も適切な治療は勿論大切ですが、長期に維持していくためには
悪化、再発を見逃さない目、それに対する適切な判断、対応する力が、治療と同じくらい
大切なのです 



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