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2013.09.18

「よみがえれ、歯!Part5 破折歯接着保存術」

 しばらくご無沙汰していました、皆様いかがお過ごしでしょうか、
なえぼ駅前歯科の大村です。
ふと気づいたらもう1ヵ月もブログの更新がされていませんでした・・・

前回ブログでお知らせしていました札幌エルプラザでの市民フォ-ラム
「その歯、抜かないで!折れた歯、割れた歯を救う 接着保存術を公開」
ですが、当日何人の方が聴きに来て下さるだろう?という不安の中、
事前予約なく当日参加された方も多く、定員90名のところほぼ満席
となり、我々スタッフは立ち見という盛況でした。
PDM札幌のメンバー全員、頑張った甲斐がありました!

講演中、会場からの質問もたくさん出て、その後の個別相談会でも
いろいろなご質問をいただきました。

市民フォーラム
  会場からの質問に答える私

あらためて皆さんがご自分の口腔健康に大きな関心を持ち、できるだけ
歯を残してくれる良い歯科医院を探しておられることを知ることができました。
その日の反省会で、我々一同更なる医療技術の研鑚と外に向っての
継続した情報発信をしていこうと決意をあらたにしました。

本日はその破折歯接着保存術により、割れている歯を保存した患者さんの
治療2ケースをご覧いただきます。どちらもいわゆる陳旧例(割れてからの
経過が長く、歯根膜(歯根の周りに膜状に付着している組織)の喪失が
大きいケース)で、通常の破折歯接着保存処置では、術後に深い歯周ポケット
が残ってしまう予後の難しいケースですが、再生療法を応用した治療を
行っています。

(症例1)
60才代、男性の患者Kさんは4年ぶりの来院でした。
口腔内全体を精査したところ、左下ブリッジを支えている手前の歯に
歯ぐきの位置から歯根の2/3に達する割れと割れの周囲に骨の吸収像を
認めました。
現状と治療法をご説明したところ歯を積極的に保存する治療を希望されました。

再初診時

 再初診時の割れの状態

再初診時の破折の状態

破折歯接着再植法により、割れの部分を接着修復するために一度抜歯をした
ところ、破折線の周囲に広範囲に渡り歯根膜の喪失が見られました。
そのままの位置に戻すと確実に深い歯周ポケットが残ってしまうため、抜歯窩に
残存している歯根膜細胞にわずかな期待をして180°回転再植を行いましたが、
術後、今度は反対側に深い歯周ポケットを形成してしまいました。

回転再植後

術中に歯根膜の喪失が大きいことはご説明しており、処置後の現状を踏まえて
再生療法のご提案を行い了承を得ました。

再生療法後
     再生療法後
トレフィンバーにて自家骨を採取し、エムドゲインという再生材料と併用しました。
向って左側の歯根周囲に自家骨が補填されているのがわかるかと思います。

再生療法後9カ月
再生療法後の経過が9カ月とまだ短いため、レントゲンでの骨の改善度は
完全ではありませんが、付着が得られ歯周ポケットは浅くなっています。
現在ブリッジが装着され、メインテナンス経過観察中です

(症例2)
次は同じく60才代、女性Hさんのケースで、左下の一番奥の歯(向って右側の歯)
に12年前の初診時破折を認めました。

初診時
      初診時

当時は破折歯接着保存治療ができませんでしたので、歯周外科処置にて歯周
ポケットを浅くし、可及的に土台と冠にて破折線を被覆して冠を装着しました。

破折部の経過

3~6ヵ月ごとのメインテナンスを継続されていたため、過重負担とならない
よう適度に噛み合わせの調整を行いながら破折線部の歯周ポケットを管理して
いましたが、7年後には破折は根の先まで拡がり、ついに10年目に反対側まで
破折し歯ぐきが腫れるに及んでは抜歯を覚悟しました。

10年以上に渡る陳旧例で、歯根膜も広範囲に喪失していましたが、破折歯接着
再植と同時に再生療法を行う治療をご提案しました。

再生再植後1年

根尖部にわずかに黒く透過像を認めるため、現在はまだ仮付けにて経過観察中
ですが、破折して10年経過し大きく割れてしまった歯も、処置後の経過はまだ
1年と短いながら、食事時しっかり噛むことができています。

長く歯周治療を研鑚し、また高度の歯周病罹患歯に再生療法を応用してきたこと
から、メインテナンス中のトラブルとして一番頭を悩ませていたのが歯根破折
でした。

歯根破折の原因になり得る金属の土台に代わるi-TFCファイバーの応用
(2ケースとも術後は金属からファイバーの土台に置き換わっています)、
破折歯接着保存治療、そして陳旧例に対して再生療法をうまく応用することで、
歯根破折を防止すると共に、破折した歯も接着保存が可能になり、結果、
メインテナンスの中で抜歯をするということがほとんどなくなりました。

再生療法を応用した破折歯接着保存治療は日本でもまだ症例が少なく
エビデンス(科学的根拠、臨床の十分な裏付け)のある治療と認められて
いるわけではありませんが、高度歯周病罹患歯における再生療法と考え方は
似ており、短期間ながら当院にて行った治療の経過も良好ですので、
今後も保存の限界を見極めながら、ご自分の歯を何とか残したいと願う
患者さんのために、臨床応用していきたいと思います。

ゼラニウム



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