2019.01.27
複数歯に歯根破折を認めた咬合力の強い欠損歯列の一例(続編)
皆様いかがお過ごしでしょうか、なえぼ駅前歯科の大村です。
昨日、大阪なおみ選手の話をブログでアップしましたが、先ほど男子全豪オープン決勝が終了し、ジョコビッチが
ナダルに3-0の圧勝で、7度目の優勝を達成しました
正直、フェデラーに勝ったチチパスをして、「全く次元の違うテニスだと感じた」と言わしめたナダルに、これだけの
圧勝をするとは全く想像していませんでした~。ジョコは異次元の人間サイボーグでしたね~。
さて、本日はテニスの話ではなく(笑)、本題である1月5日にアップした症例の治療経過と現在の状態をお話しさせて
いただきます。
Sさんは初診時、咬合力、咬合状態のいずれにも問題を抱え、更に上顎は残存歯のほとんどがフェルールのない
失活歯(歯肉縁上の健全歯質がほとんどない神経を取った歯)であり、更に4歯に歯根破折を認めました。
初診時Sさんは入れ歯ではなく固定性のブリッジを希望されていましたので、もしこの4歯を抜歯したら、右上、左上、
右下はそれぞれ2本のインプラントが必要となり、更に上の前歯で歯根破折を生じると3本、計9本のインプラントが
必要という事態になってしまいます。

歯根破折歯(4歯)を抜歯した場合の治療の見立てと予測

初診時の残存歯の状態
さて、できるだけご自分の歯を残してほしいというSさんの希望に沿いつつ、経済的なご負担も大きなインプラントは
できれば最小限の活用に止めたい、更には10年というスパンで長期維持可能な治療をと考えました。
以下は個々の破折歯の接着保存治療の状態です。

左上6 、右下7は口腔内接着法、右上4、右下5 は接着再植法でそれぞれ接着保存治療を行いました(右下5の
遠心はやや幅のある骨欠損であったため、トレフィンバーにて自家骨を採取し、エムドゲイン、Bio-ossという異種骨
も使った再生療法を併用)。
更に歯根破折を防止するため、i-TFCファイバーシステム、スーパーボンドを用いたi-TFC根築1回法と歯冠長延長術
を行いました。
その上で上顎は予後の難しい歯の経過を追いながら、仮歯で8か月間咬合力のコントロール、特に咀嚼力のコント
ロールを行いました。これまで咬合力のコントロールに関しては、その都度口頭で伝えていましたが、昨年小冊子に
まとめて、咬合力のコントロールを必要とする患者さんに渡す試みを始めました。 勉強会を重ねて、スタッフからも
多くの患者さんにアプローチしてもらえるようにしたいというのが今年の目標の一つです。




Sさんにも当院で作成した小冊子(内容は一部著名な歯科医師の専門誌、論文等からも引用)をお渡しし、まずは
咬合力のコントロールということを 具体的に知っていただいた上で、咀嚼や噛みしめの気づきを促すことを行いました。
その過程で、以下の気づきがありました(一部抜粋)。
1.咀嚼時、強く噛んでいることがわかった。噛み切った後も強く噛んでいることをご主人様にお話ししたところ、
そういう習慣的行為は自分だけだと悟ったそうです。
2.早食いでガシガシ噛んでしまっている。
3.日中自己観察をしてみると、無意識のうちに強く噛みしめていることがあることに気づく。
治療時間を確保し、咬合力という話を折に触れて繰り返し行うことが、 患者さんの意識を少しずつ向上させていく
ものと考えています。
歯のないところにインプラントを入れますと、それまで噛めなかったところが噛めるようになりますので、患者さん
本来の咬合力が戻った結果、インプラントは大丈夫でも、今度は別な歯が歯根破折を起こしてインプラントに置き
換わっていきます。
そうやって次々とご自身の歯がインプラントに置き換わっていった結果、最初は左下奥2本の欠損部にインプラントを
入れただけであったものが、10年足らずの間に、上下左右の前歯、奥歯が7本次々と抜歯、すべてインプラントとなって
しまい、今後も更に歯がなくなっていくのではないかと大きな不安を抱え、ネットをご覧になって当院に転院されてきた
患者さんも実際におられます。
当院でもインプラントは勿論行っておりますし、様々なテクニックを用いて難しい顎堤にも対応していますが、
できるだけご自身の歯を保存し、またご自身の歯がインプラントに置き換わることのないよう、i-TFC根築1回法、
歯冠長延長術、矯正的挺出等によるフェルールの確保、天然歯による必要な連結固定、そして一番大切な咬合力の
コントロールを厳密なプラークコントロールと共に、医患協同で行っております。

破折歯(右下7を除く3歯)の治療経過

インプラントは上記の治療を行った上で、歯を守ることができるよう、受圧・加圧のバランスも考え、控えめに必要
最小限の活用を心掛けています。

治療終了時(最終的に右下7,5の歯根破折歯を守るため、6部に1本だけインプラントを埋入)
Sさんの咀嚼力のコントロールもまだまだ不十分で、これからのメインテナンスの中で粘り強く対応していかなければ
ならないと考えていますし、治療終了時の状態ができるだけ長期に維持されることは、医療側にとっても患者さんに
とっても幸せにつながりますので、Sさんのような咬合力の強い患者さんはできるだけ力のコントロールを行っていく
ことが何よりも必要だと感じています。
初診時歯根破折を起こしていた4歯のうち、3歯は術後の経過も改善度も良好ですが、左上6だけは初診時、近遠心的
な破折線に沿ってⅢ度の根分岐部病変を認めていたため改善度には限界があり、長期維持には正直不安はあります。
しかしながら、今左上6を抜歯し、左上奥にインプラントによるブリッジを装着することが最善かと言えば、Sさんも
そのような治療を望まれているわけではなく、私の立場からみてもはなはだ疑問です。
上顎のフルブリッジは将来この歯の保存が危うくなってきても、この箇所だけをインプラントにより再治療することが
可能な設計にしていますし、未だ咬合力のコントロールが不十分な今、インプラントにすることは、左下奥の加圧要素を
増すだけで却って危険だと考えています。
勿論、Sさんにもそのことは伝えた上で、炎症と咬合力のコントロールを粘り強く継続して行っていくつもりです。

治療終了時の口腔内
Sさん、遠く日高からいつもご来院いただき本当にありがとうございます。なかなか難易度の高い歯、口腔内でしたが、
今の私の臨床経験、治療技術で、何とかSさんの希望に近い治療ができたのではないかと思います。
今後は、ここからのメインテナンスが長い道のりではありますが、できるだけ現状を長期に維持していけるよう
私ができることは当然ですが精一杯行っていきますので、メインテナンスの継続、力のコントロールの継続を
今後も引き続き、どうぞよろしくお願い致します
昨日、大阪なおみ選手の話をブログでアップしましたが、先ほど男子全豪オープン決勝が終了し、ジョコビッチが
ナダルに3-0の圧勝で、7度目の優勝を達成しました

正直、フェデラーに勝ったチチパスをして、「全く次元の違うテニスだと感じた」と言わしめたナダルに、これだけの
圧勝をするとは全く想像していませんでした~。ジョコは異次元の人間サイボーグでしたね~。
さて、本日はテニスの話ではなく(笑)、本題である1月5日にアップした症例の治療経過と現在の状態をお話しさせて
いただきます。
Sさんは初診時、咬合力、咬合状態のいずれにも問題を抱え、更に上顎は残存歯のほとんどがフェルールのない
失活歯(歯肉縁上の健全歯質がほとんどない神経を取った歯)であり、更に4歯に歯根破折を認めました。
初診時Sさんは入れ歯ではなく固定性のブリッジを希望されていましたので、もしこの4歯を抜歯したら、右上、左上、
右下はそれぞれ2本のインプラントが必要となり、更に上の前歯で歯根破折を生じると3本、計9本のインプラントが
必要という事態になってしまいます。

歯根破折歯(4歯)を抜歯した場合の治療の見立てと予測

初診時の残存歯の状態
さて、できるだけご自分の歯を残してほしいというSさんの希望に沿いつつ、経済的なご負担も大きなインプラントは
できれば最小限の活用に止めたい、更には10年というスパンで長期維持可能な治療をと考えました。
以下は個々の破折歯の接着保存治療の状態です。

左上6 、右下7は口腔内接着法、右上4、右下5 は接着再植法でそれぞれ接着保存治療を行いました(右下5の
遠心はやや幅のある骨欠損であったため、トレフィンバーにて自家骨を採取し、エムドゲイン、Bio-ossという異種骨
も使った再生療法を併用)。
更に歯根破折を防止するため、i-TFCファイバーシステム、スーパーボンドを用いたi-TFC根築1回法と歯冠長延長術
を行いました。
その上で上顎は予後の難しい歯の経過を追いながら、仮歯で8か月間咬合力のコントロール、特に咀嚼力のコント
ロールを行いました。これまで咬合力のコントロールに関しては、その都度口頭で伝えていましたが、昨年小冊子に
まとめて、咬合力のコントロールを必要とする患者さんに渡す試みを始めました。 勉強会を重ねて、スタッフからも
多くの患者さんにアプローチしてもらえるようにしたいというのが今年の目標の一つです。




Sさんにも当院で作成した小冊子(内容は一部著名な歯科医師の専門誌、論文等からも引用)をお渡しし、まずは
咬合力のコントロールということを 具体的に知っていただいた上で、咀嚼や噛みしめの気づきを促すことを行いました。
その過程で、以下の気づきがありました(一部抜粋)。
1.咀嚼時、強く噛んでいることがわかった。噛み切った後も強く噛んでいることをご主人様にお話ししたところ、
そういう習慣的行為は自分だけだと悟ったそうです。
2.早食いでガシガシ噛んでしまっている。
3.日中自己観察をしてみると、無意識のうちに強く噛みしめていることがあることに気づく。
治療時間を確保し、咬合力という話を折に触れて繰り返し行うことが、 患者さんの意識を少しずつ向上させていく
ものと考えています。
歯のないところにインプラントを入れますと、それまで噛めなかったところが噛めるようになりますので、患者さん
本来の咬合力が戻った結果、インプラントは大丈夫でも、今度は別な歯が歯根破折を起こしてインプラントに置き
換わっていきます。
そうやって次々とご自身の歯がインプラントに置き換わっていった結果、最初は左下奥2本の欠損部にインプラントを
入れただけであったものが、10年足らずの間に、上下左右の前歯、奥歯が7本次々と抜歯、すべてインプラントとなって
しまい、今後も更に歯がなくなっていくのではないかと大きな不安を抱え、ネットをご覧になって当院に転院されてきた
患者さんも実際におられます。
当院でもインプラントは勿論行っておりますし、様々なテクニックを用いて難しい顎堤にも対応していますが、
できるだけご自身の歯を保存し、またご自身の歯がインプラントに置き換わることのないよう、i-TFC根築1回法、
歯冠長延長術、矯正的挺出等によるフェルールの確保、天然歯による必要な連結固定、そして一番大切な咬合力の
コントロールを厳密なプラークコントロールと共に、医患協同で行っております。

破折歯(右下7を除く3歯)の治療経過

インプラントは上記の治療を行った上で、歯を守ることができるよう、受圧・加圧のバランスも考え、控えめに必要
最小限の活用を心掛けています。

治療終了時(最終的に右下7,5の歯根破折歯を守るため、6部に1本だけインプラントを埋入)
Sさんの咀嚼力のコントロールもまだまだ不十分で、これからのメインテナンスの中で粘り強く対応していかなければ
ならないと考えていますし、治療終了時の状態ができるだけ長期に維持されることは、医療側にとっても患者さんに
とっても幸せにつながりますので、Sさんのような咬合力の強い患者さんはできるだけ力のコントロールを行っていく
ことが何よりも必要だと感じています。
初診時歯根破折を起こしていた4歯のうち、3歯は術後の経過も改善度も良好ですが、左上6だけは初診時、近遠心的
な破折線に沿ってⅢ度の根分岐部病変を認めていたため改善度には限界があり、長期維持には正直不安はあります。
しかしながら、今左上6を抜歯し、左上奥にインプラントによるブリッジを装着することが最善かと言えば、Sさんも
そのような治療を望まれているわけではなく、私の立場からみてもはなはだ疑問です。
上顎のフルブリッジは将来この歯の保存が危うくなってきても、この箇所だけをインプラントにより再治療することが
可能な設計にしていますし、未だ咬合力のコントロールが不十分な今、インプラントにすることは、左下奥の加圧要素を
増すだけで却って危険だと考えています。
勿論、Sさんにもそのことは伝えた上で、炎症と咬合力のコントロールを粘り強く継続して行っていくつもりです。

治療終了時の口腔内
Sさん、遠く日高からいつもご来院いただき本当にありがとうございます。なかなか難易度の高い歯、口腔内でしたが、
今の私の臨床経験、治療技術で、何とかSさんの希望に近い治療ができたのではないかと思います。
今後は、ここからのメインテナンスが長い道のりではありますが、できるだけ現状を長期に維持していけるよう
私ができることは当然ですが精一杯行っていきますので、メインテナンスの継続、力のコントロールの継続を
今後も引き続き、どうぞよろしくお願い致します

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2019.01.05
複数歯に歯根破折を認めた咬合力の強い欠損歯列の一例
新年あけましておめでとうございます
、なえぼ駅前歯科の大村です 
皆様、年末年始はいかがお過ごしでしたでしょうか。
正月も休まずお仕事をされていた方、また4日が仕事始めだった方も多くおられると思います。
私は、診療自体は7日からなのですが、年越しの残務が山積みで昨日から病院に出勤しています。
お正月に食べ過ぎた分、昨日からまた食事制限とジムでのランニングを開始、昨日はいきつけの
「ステラはり・灸整骨院」にも行ってきました。少しずつ正月のオフモードから仕事モードに切り替えているところです。
今年も「なえぼほのぼのブログ」で、皆様よろしくお付き合いください。
さて本日は、2019年新春最初の症例として、昨年暮れに2年がかりでようやく治療が終了したSさんのお話を
させていただきます。遠路日高から、自分の歯がどんどんなくなってしまうのではないかという切実な思いを持って
来院されたSさんのお気持ちを汲んで、4本の破折歯や予後の難しい残根上の失活歯をどうするか、時間をかけて
よく考えながら治療を進めた症例です。
正直なところ、10年前の臨床レベルでは同様の治療はできませんでした。これも患者さんとの巡り合わせであり、
ご縁なのではないかと思います。
こうやってブログを書くために、自分が行ってきた治療をカルテ等の資料を見ながら検証するという作業は、
大変手間のかかる作業ではあるのですが、時間をかけることであらためていろいろなことに気づかされます。
頭の中に患者さんお一人おひとりの口腔内、歯の状態や治療内容等がすべてインプットされていると思っていても、
実際に検証してみると間違って記憶していたり、思い込んでいたりすることもあります(Sさんのケースでも一つ
大きな思い込みがありました
、後述)。
また、まとめた治療内容を研究会や学会等で発表することで、気づかなかったことに気づかされたり、
客観的なあるいは別な視点からの貴重なご意見をいただくこともあり、それらはすべてその患者さんに、私自身に、
そして次の患者さんに活かされていきます。
Sさんは、2016年当時、「今年に入ってからあっちこっちが外れ、地元に通っていたがすぐ抜歯されてしまう」
とのことで、ネットで調べて当院に来院されました。
当院に来院される前、札幌市内の別な歯科医院に行かれたそうですが、治療が難しいと言われたとのことでした。
頻繁に仮歯が外れるのでまず何とかしてほしい、歯はできるだけ残してほしい、固定性のブリッジを希望とのことでした。
初診時のレントゲン写真です。

画面向かって左下の歯式の見方ですが、
右上 左上 で(向かって左上が実際のお口の中では右上)、前から順番に1、2、3番となっています。
右下 左下
1、2は前歯、3は犬歯、4、5は小臼歯、6、7は大臼歯です。
赤丸のところはレントゲン等の診査で、歯根破折もしくは歯根破折の疑いがある歯です。
次に初診時の口腔内ですが、噛み合わせが低くなっていることによる上の前歯の突き上げと咬合力(大まかに、
歯ぎしり、噛みしめ(これらはブラキシズム)の力、咀嚼力の総称)により、仮歯の破損、脱離を繰り返していました。

また残存歯は失活歯(神経を取った歯)が多く、いずれも残存歯質が脆弱でフェルール(歯肉縁上の歯質)がなく、
歯根破折や穿孔を伴っている歯を多く認めました。

ひとまず仮歯の脱離が喫緊の問題であったため咬合挙上を行い、上顎前歯部の根管治療と高さが確保されたi-TFCファイバー
コアを装着しました。

治療のファーストステップ
歯根破折を起こしている歯は一般的には抜歯されるか、消極的な経過観察(持たせられるところまで持たせる)となりますが、
Sさんの場合、そのような治療を行うと、上顎は大掛かりなインプラントもしくは総義歯への道へと進みそうな状況でした。

歯根破折歯を抜歯した場合の治療の見立て(予測)
遠方からの来院、難易度の高い口腔内、歯をできるだけ残して固定性のブリッジでという患者さんのご希望に沿いつつ
結果を求められたら、札幌市内の別な歯科医院さんのように、治療は難しいとやんわり断られるのが普通だと思います
(むしろ良心的な歯科医院さんだと思います)。
さて、どのようにして治療を進めていったか。
治療の経過と結果、現在の状況は、次回の「なえぼほのぼのブログ」であらためてご報告させていただくこととし、本日は
ここまでとさせていただきます。


皆様、年末年始はいかがお過ごしでしたでしょうか。
正月も休まずお仕事をされていた方、また4日が仕事始めだった方も多くおられると思います。
私は、診療自体は7日からなのですが、年越しの残務が山積みで昨日から病院に出勤しています。
お正月に食べ過ぎた分、昨日からまた食事制限とジムでのランニングを開始、昨日はいきつけの
「ステラはり・灸整骨院」にも行ってきました。少しずつ正月のオフモードから仕事モードに切り替えているところです。
今年も「なえぼほのぼのブログ」で、皆様よろしくお付き合いください。
さて本日は、2019年新春最初の症例として、昨年暮れに2年がかりでようやく治療が終了したSさんのお話を
させていただきます。遠路日高から、自分の歯がどんどんなくなってしまうのではないかという切実な思いを持って
来院されたSさんのお気持ちを汲んで、4本の破折歯や予後の難しい残根上の失活歯をどうするか、時間をかけて
よく考えながら治療を進めた症例です。
正直なところ、10年前の臨床レベルでは同様の治療はできませんでした。これも患者さんとの巡り合わせであり、
ご縁なのではないかと思います。
こうやってブログを書くために、自分が行ってきた治療をカルテ等の資料を見ながら検証するという作業は、
大変手間のかかる作業ではあるのですが、時間をかけることであらためていろいろなことに気づかされます。
頭の中に患者さんお一人おひとりの口腔内、歯の状態や治療内容等がすべてインプットされていると思っていても、
実際に検証してみると間違って記憶していたり、思い込んでいたりすることもあります(Sさんのケースでも一つ
大きな思い込みがありました

また、まとめた治療内容を研究会や学会等で発表することで、気づかなかったことに気づかされたり、
客観的なあるいは別な視点からの貴重なご意見をいただくこともあり、それらはすべてその患者さんに、私自身に、
そして次の患者さんに活かされていきます。
Sさんは、2016年当時、「今年に入ってからあっちこっちが外れ、地元に通っていたがすぐ抜歯されてしまう」
とのことで、ネットで調べて当院に来院されました。
当院に来院される前、札幌市内の別な歯科医院に行かれたそうですが、治療が難しいと言われたとのことでした。
頻繁に仮歯が外れるのでまず何とかしてほしい、歯はできるだけ残してほしい、固定性のブリッジを希望とのことでした。
初診時のレントゲン写真です。

画面向かって左下の歯式の見方ですが、
右上 左上 で(向かって左上が実際のお口の中では右上)、前から順番に1、2、3番となっています。
右下 左下
1、2は前歯、3は犬歯、4、5は小臼歯、6、7は大臼歯です。
赤丸のところはレントゲン等の診査で、歯根破折もしくは歯根破折の疑いがある歯です。
次に初診時の口腔内ですが、噛み合わせが低くなっていることによる上の前歯の突き上げと咬合力(大まかに、
歯ぎしり、噛みしめ(これらはブラキシズム)の力、咀嚼力の総称)により、仮歯の破損、脱離を繰り返していました。

また残存歯は失活歯(神経を取った歯)が多く、いずれも残存歯質が脆弱でフェルール(歯肉縁上の歯質)がなく、
歯根破折や穿孔を伴っている歯を多く認めました。

ひとまず仮歯の脱離が喫緊の問題であったため咬合挙上を行い、上顎前歯部の根管治療と高さが確保されたi-TFCファイバー
コアを装着しました。

治療のファーストステップ
歯根破折を起こしている歯は一般的には抜歯されるか、消極的な経過観察(持たせられるところまで持たせる)となりますが、
Sさんの場合、そのような治療を行うと、上顎は大掛かりなインプラントもしくは総義歯への道へと進みそうな状況でした。

歯根破折歯を抜歯した場合の治療の見立て(予測)
遠方からの来院、難易度の高い口腔内、歯をできるだけ残して固定性のブリッジでという患者さんのご希望に沿いつつ
結果を求められたら、札幌市内の別な歯科医院さんのように、治療は難しいとやんわり断られるのが普通だと思います
(むしろ良心的な歯科医院さんだと思います)。
さて、どのようにして治療を進めていったか。
治療の経過と結果、現在の状況は、次回の「なえぼほのぼのブログ」であらためてご報告させていただくこととし、本日は
ここまでとさせていただきます。
2018.10.29
破折歯の接着保存治療にインプラントを併用したケース( K さんの治療例)
10月も残すところわずかとなりましたが皆様いかがお過ごしでしょうか、なえぼ駅前歯科の大村です。
この時期は紅葉が見どころで、先週は平岡樹芸センターにモミジを、昨日は北13条門から入った北大の銀杏並木を
見てきました。11月に入り紅葉が散り始めると、北海道も短い秋に終わりを告げ、初雪の便りと共に冬の到来となります。
もうすぐ長くて寒い冬ですね~(笑)。
本日は前回のブログでもお伝えした、左下奥の歯が割れているので治療の相談をしたいと、昨年来院されたKさんの
お話をさせていただきます。主訴である左下奥のレントゲン写真です。

初診時の左下奥
歯根は完全に割れて感染が進行しており、歯根周囲に骨吸収を起こしていました。右下、左下ともそれぞれ大臼歯2歯が
すでに喪失しており、通常奥歯は左右計8歯で噛む力を支えるところ、Kさんの場合は4歯で支えていましたので、
一番負担のかかりやすい最後臼歯で歯根破折を起こしたものと思われました。
まずは割れた歯の接着保存治療を行い、


接着再植後
破折歯周囲の骨が改善してきていることを確認した後その奥に1本、更に右下奥にも1本インプラントを追加しました。

右下奥、左下奥にインプラント埋入後
こうすることでこれまで奥歯は左右4歯で支えていたところ、6歯で支えることができるようになり(一番負担がかかる
最後臼歯はインプラント)、結果、歯根破折歯を含めた残存歯の負担は軽減されます。
ここまでの治療を終了後、あらためて全顎のレントゲン撮影と歯周組織検査を行ったところ、左上奥の小臼歯に
金属ポスト先端に至る7mmの深い歯周ポケットを認めました。

冠を外したところ、全体にフェルール(歯肉縁上の健全歯質)がなく、近心側(向かって左側)においては歯肉縁下
4mmに及ぶ深い歯の欠損とその下に破折線も認めました。

冠除去後の左上奥
そのためまずは矯正治療による歯の挺出を4mm行い、その後近心側のみ生物学的幅径を確保するため、2mm程度の
骨切除(歯冠長延長術)を行いました。部分的に骨切除を併用することで、できるだけ骨支持量が少なくならないように
しました。

術後(ファイバーコアセット済)の状態です。初診時と比較し、歯肉縁上に健全歯質がしっかり確保されています。

矯正的挺出+歯冠長延長術後の左上奥
またKさんの右上奥の大臼歯には重度の歯周病(すべてⅢ度の根分岐部病変)が認められました。

外側の根(頬側2根)と内側の根(口蓋根)の間で歯周病が進行しているだけでなく、外側の根の外側や根と根の間に
おいても骨支持が少ないことから、頬側2根の予後は不良ということで抜歯してインプラントを選択する先生もおられる
ことと思います。
しかしながらKさんはできるだけ長く歯を残していきたいというご希望がありましたので、少しでも付着の獲得と骨の再生
を期待して、歯周外科処置時に再生材料(エムドゲイン)を使用しました。頬側遠心根は根尖近くまで歯根が露出して
いましたので、歯周外科処置後に更に歯ぐきの退縮が進んで根尖が露出しないよう結合組織移植も併用しました。
術前と術後3ヵ月の状態です。

治療終了時の上下左右臼歯部のレントゲン写真です。

治療終了時の上下左右臼歯部
左上奥は矯正治療終了から2ヵ月半ですので、まだ根尖の引っぱり上げた部分(赤矢印)に骨ができていません。
右上奥も歯周外科処置後3ヵ月半ですので、ここから少しでも骨が再生されることを期待してメインテナンスを継続して
いきたいと考えています。
私も決してやみくもに歯を残そうとは考えておりませんし
、自分の中での歯の保存の限界は勿論あります。
HPやこのブログをご覧になって、一縷の希望を持って来院して下さった患者さんに「残念ですが保存は難しいです」と
お話しすることもたまにあります
しかしながら予後が難しいと思われる歯に対して、最善と考える治療を行い保存に努めますと、当初は長く持たないと
思われていた条件の厳しい歯であっても、5年、10年、15年と思った以上に長く持つということを経験しています。
治療が難しく、たぶん予後が悪かろうということで安易に抜歯してしまったり、その歯を本気で残すためにベストを
尽くさない治療では、本当の意味での保存の限界を知ることも、もっとこうしておけば良かったという反省から学んだ
ことを、次の患者さんに活かすこともできないと思います。
どういう治療をもって“患者さんのため”というかは議論が尽きませんが、患者さんの主訴に耳を傾け想いを汲み、
できるだけ患者さんの望む治療を行った上で、長期維持という結果を出せるよう、これからもスタッフと共に
「患者さんの望む歯科医療の実践」に取り組んでいきたいと思います。

平岡樹芸センターの紅葉(モミジ)の絨毯
次回からは最近治療を終了した重度歯周炎患者さんの治療例を何ケースか見ていただこうと考えています。
また侵襲性歯周炎、重度慢性歯周炎患者に対するPCR細菌検査、除菌療法に関しても、2000年から臨床に
取り入れてきた中で、現在当院ではどのように考え実践しているのか、少し踏み込んだお話しをさせていただきます
のでご期待ください
この時期は紅葉が見どころで、先週は平岡樹芸センターにモミジを、昨日は北13条門から入った北大の銀杏並木を
見てきました。11月に入り紅葉が散り始めると、北海道も短い秋に終わりを告げ、初雪の便りと共に冬の到来となります。
もうすぐ長くて寒い冬ですね~(笑)。
本日は前回のブログでもお伝えした、左下奥の歯が割れているので治療の相談をしたいと、昨年来院されたKさんの
お話をさせていただきます。主訴である左下奥のレントゲン写真です。

初診時の左下奥
歯根は完全に割れて感染が進行しており、歯根周囲に骨吸収を起こしていました。右下、左下ともそれぞれ大臼歯2歯が
すでに喪失しており、通常奥歯は左右計8歯で噛む力を支えるところ、Kさんの場合は4歯で支えていましたので、
一番負担のかかりやすい最後臼歯で歯根破折を起こしたものと思われました。
まずは割れた歯の接着保存治療を行い、


接着再植後
破折歯周囲の骨が改善してきていることを確認した後その奥に1本、更に右下奥にも1本インプラントを追加しました。

右下奥、左下奥にインプラント埋入後
こうすることでこれまで奥歯は左右4歯で支えていたところ、6歯で支えることができるようになり(一番負担がかかる
最後臼歯はインプラント)、結果、歯根破折歯を含めた残存歯の負担は軽減されます。
ここまでの治療を終了後、あらためて全顎のレントゲン撮影と歯周組織検査を行ったところ、左上奥の小臼歯に
金属ポスト先端に至る7mmの深い歯周ポケットを認めました。

冠を外したところ、全体にフェルール(歯肉縁上の健全歯質)がなく、近心側(向かって左側)においては歯肉縁下
4mmに及ぶ深い歯の欠損とその下に破折線も認めました。

冠除去後の左上奥
そのためまずは矯正治療による歯の挺出を4mm行い、その後近心側のみ生物学的幅径を確保するため、2mm程度の
骨切除(歯冠長延長術)を行いました。部分的に骨切除を併用することで、できるだけ骨支持量が少なくならないように
しました。

術後(ファイバーコアセット済)の状態です。初診時と比較し、歯肉縁上に健全歯質がしっかり確保されています。

矯正的挺出+歯冠長延長術後の左上奥
またKさんの右上奥の大臼歯には重度の歯周病(すべてⅢ度の根分岐部病変)が認められました。

外側の根(頬側2根)と内側の根(口蓋根)の間で歯周病が進行しているだけでなく、外側の根の外側や根と根の間に
おいても骨支持が少ないことから、頬側2根の予後は不良ということで抜歯してインプラントを選択する先生もおられる
ことと思います。
しかしながらKさんはできるだけ長く歯を残していきたいというご希望がありましたので、少しでも付着の獲得と骨の再生
を期待して、歯周外科処置時に再生材料(エムドゲイン)を使用しました。頬側遠心根は根尖近くまで歯根が露出して
いましたので、歯周外科処置後に更に歯ぐきの退縮が進んで根尖が露出しないよう結合組織移植も併用しました。
術前と術後3ヵ月の状態です。

治療終了時の上下左右臼歯部のレントゲン写真です。

治療終了時の上下左右臼歯部
左上奥は矯正治療終了から2ヵ月半ですので、まだ根尖の引っぱり上げた部分(赤矢印)に骨ができていません。
右上奥も歯周外科処置後3ヵ月半ですので、ここから少しでも骨が再生されることを期待してメインテナンスを継続して
いきたいと考えています。
私も決してやみくもに歯を残そうとは考えておりませんし

HPやこのブログをご覧になって、一縷の希望を持って来院して下さった患者さんに「残念ですが保存は難しいです」と
お話しすることもたまにあります

しかしながら予後が難しいと思われる歯に対して、最善と考える治療を行い保存に努めますと、当初は長く持たないと
思われていた条件の厳しい歯であっても、5年、10年、15年と思った以上に長く持つということを経験しています。
治療が難しく、たぶん予後が悪かろうということで安易に抜歯してしまったり、その歯を本気で残すためにベストを
尽くさない治療では、本当の意味での保存の限界を知ることも、もっとこうしておけば良かったという反省から学んだ
ことを、次の患者さんに活かすこともできないと思います。
どういう治療をもって“患者さんのため”というかは議論が尽きませんが、患者さんの主訴に耳を傾け想いを汲み、
できるだけ患者さんの望む治療を行った上で、長期維持という結果を出せるよう、これからもスタッフと共に
「患者さんの望む歯科医療の実践」に取り組んでいきたいと思います。

平岡樹芸センターの紅葉(モミジ)の絨毯
次回からは最近治療を終了した重度歯周炎患者さんの治療例を何ケースか見ていただこうと考えています。
また侵襲性歯周炎、重度慢性歯周炎患者に対するPCR細菌検査、除菌療法に関しても、2000年から臨床に
取り入れてきた中で、現在当院ではどのように考え実践しているのか、少し踏み込んだお話しをさせていただきます
のでご期待ください

2018.10.20
破折歯接着保存治療歯の10年経過症例Part2( K さんのケース)
今日は秋晴れの良い天気ですね。
皆様いかがお過ごしでしょうか、なえぼ駅前歯科の大村です。
もうご存知の方も多いと思いますが、苗穂駅が来月17日から300m程札幌側に移転します。
現在の苗穂駅舎は1935年(昭和10年)に建設されており、昭和の香りが漂う苗穂駅周辺の象徴とも言える
建造物でした。私が開業する前から駅移転の話はありましたので、ようやくという気持ちがある一方、
札幌駅の隣駅という恵まれた立地の中、昭和の風情が残された昔ながらの町並みは、それはそれで昭和男の私
からみれば趣のあるものでしたので一抹の寂しさも拭えません。
現苗穂駅も来年5月、平成から新元号への時代の流れと共に解体され姿を消すことになるようです。

秋晴れの苗穂駅
ちなみに当院も「なえぼ駅前歯科」ではなくなります(病院名は変わりませんが
)。
駅南口(北3東11)からは2丁、距離にして200m程離れてしまいますが(時速4km計算で徒歩3分)、
引き続きご愛顧の程、よろしくお願い申し上げます
さて本日は、平成10年に当時33才で来院されたKさんの破折歯接着保存治療のお話をさせていただきます。
Kさんの治療は、当院HP、破折歯接着保存例(治療例3)にも掲載されていますが、初診時のレントゲン写真と
口腔内写真の赤矢印部分に、金属ポスト先端に至るU字型の歯根破折を認めました。
また青矢印のところには、埋伏している犬歯とそれに接している歯根部に外部吸収(穿孔)を認めました。
青矢印の先には穿孔部から増殖した歯肉が見えています。


この2本のうちどちらかでも残せないとブリッジ自体ができなくなり、Kさんは33才という若さで義歯を装着しなければ
なりませんでした。
当時はインプラントをまだ行っていませんでしたが、仮に両歯を抜歯してインプラントにするにしても、上顎洞底までの
骨の高さがかなり不足していますので、右上奥にサイナースリフト(上顎洞底挙上術)による骨造成手術を行った後、
あらためて4本くらいのインプラントを埋入する手術を行わなければ、インプラントによるブリッジはできないケースです。
何とかうまくブリッジができないものかと考え、まずは埋伏している犬歯を抜歯し、その後、歯周外科処置にて
穿孔部の封鎖と破折部分の接着修復処置を行いました。両歯の保存処置には接着性、生体親和性、耐久性に優れた
スーパーボンドを使用しました。
初診から12年後の同部のレントゲン写真と口腔内写真です。


7年ぶりの再来で、さすがにブリッジは変色していましたが(保険の硬質レジンを使用)、破折線部は元々そこが
破折していたとは全くわからない程、深い歯周ポケットも生じることなく維持されていました。
Kさんは平成27年からしばらく来院されていませんが、破折歯の接着保存治療を行い保存に努めたことで、
33才から50才までの少なくとも17年間は右上を義歯にせず過ごすことができました。
平成10年の初診時、保存は不可能と切り捨てていたら、今頃もしかしたら義歯の鉤歯(バネがかかる歯)となる
右上奥歯や左上の前歯にも負担がかかって更なる抜歯を招いたかもしれません。
ところで、先日過去ブログ「破折リーマー(根管治療の器具)が問題となっていた2症例」
http://naebohonobono.blog.fc2.com/blog-entry-101.html に掲載した患者Yさんが7年ぶりに
来院されました。
嬉しかったな~。
破折リーマーを除去して保存に努めた歯は、処置後17年経過していますが無事でした。

当時20代だったYさんも40才になっていましたが、娘さんもすくすく成長され、あらためて母娘共々、プラーク
コントロールの大切さをお話させていただきました。今後は大切な娘さんの歯を虫歯にさせないよう、春、夏、冬
の休みごとに検診に来院されると共に、Yさんご自身も40代となり、これからのご自身の人生にとって大切な歯を
できるだけ守れるよう、検診にきていただけたらと思います。
Kさんもまた当院にご来院いただけることを心よりお待ちしています。
当院に来院される患者さんの歯が長期に渡って健康に維持されることで、口腔健康を通して患者さんの生活、
ひいては人生にささやかながら貢献できることを願って止みません
最後になりますが、次回のブログはつい先日治療終了となったKさんの治療例をアップ予定です。
Kさんは歯の破折を主訴に来院されました。
割れている歯に対して破折歯接着保存治療を行うと共に、歯を守るためにインプラントも行っています。
次回もぜひこの「なえぼほのぼのブログ」をご覧ください。

苗穂駅前 秋の一風景
皆様いかがお過ごしでしょうか、なえぼ駅前歯科の大村です。
もうご存知の方も多いと思いますが、苗穂駅が来月17日から300m程札幌側に移転します。
現在の苗穂駅舎は1935年(昭和10年)に建設されており、昭和の香りが漂う苗穂駅周辺の象徴とも言える
建造物でした。私が開業する前から駅移転の話はありましたので、ようやくという気持ちがある一方、
札幌駅の隣駅という恵まれた立地の中、昭和の風情が残された昔ながらの町並みは、それはそれで昭和男の私
からみれば趣のあるものでしたので一抹の寂しさも拭えません。
現苗穂駅も来年5月、平成から新元号への時代の流れと共に解体され姿を消すことになるようです。

秋晴れの苗穂駅
ちなみに当院も「なえぼ駅前歯科」ではなくなります(病院名は変わりませんが

駅南口(北3東11)からは2丁、距離にして200m程離れてしまいますが(時速4km計算で徒歩3分)、
引き続きご愛顧の程、よろしくお願い申し上げます

さて本日は、平成10年に当時33才で来院されたKさんの破折歯接着保存治療のお話をさせていただきます。
Kさんの治療は、当院HP、破折歯接着保存例(治療例3)にも掲載されていますが、初診時のレントゲン写真と
口腔内写真の赤矢印部分に、金属ポスト先端に至るU字型の歯根破折を認めました。
また青矢印のところには、埋伏している犬歯とそれに接している歯根部に外部吸収(穿孔)を認めました。
青矢印の先には穿孔部から増殖した歯肉が見えています。


この2本のうちどちらかでも残せないとブリッジ自体ができなくなり、Kさんは33才という若さで義歯を装着しなければ
なりませんでした。
当時はインプラントをまだ行っていませんでしたが、仮に両歯を抜歯してインプラントにするにしても、上顎洞底までの
骨の高さがかなり不足していますので、右上奥にサイナースリフト(上顎洞底挙上術)による骨造成手術を行った後、
あらためて4本くらいのインプラントを埋入する手術を行わなければ、インプラントによるブリッジはできないケースです。
何とかうまくブリッジができないものかと考え、まずは埋伏している犬歯を抜歯し、その後、歯周外科処置にて
穿孔部の封鎖と破折部分の接着修復処置を行いました。両歯の保存処置には接着性、生体親和性、耐久性に優れた
スーパーボンドを使用しました。
初診から12年後の同部のレントゲン写真と口腔内写真です。


7年ぶりの再来で、さすがにブリッジは変色していましたが(保険の硬質レジンを使用)、破折線部は元々そこが
破折していたとは全くわからない程、深い歯周ポケットも生じることなく維持されていました。
Kさんは平成27年からしばらく来院されていませんが、破折歯の接着保存治療を行い保存に努めたことで、
33才から50才までの少なくとも17年間は右上を義歯にせず過ごすことができました。
平成10年の初診時、保存は不可能と切り捨てていたら、今頃もしかしたら義歯の鉤歯(バネがかかる歯)となる
右上奥歯や左上の前歯にも負担がかかって更なる抜歯を招いたかもしれません。
ところで、先日過去ブログ「破折リーマー(根管治療の器具)が問題となっていた2症例」
http://naebohonobono.blog.fc2.com/blog-entry-101.html に掲載した患者Yさんが7年ぶりに
来院されました。
嬉しかったな~。
破折リーマーを除去して保存に努めた歯は、処置後17年経過していますが無事でした。

当時20代だったYさんも40才になっていましたが、娘さんもすくすく成長され、あらためて母娘共々、プラーク
コントロールの大切さをお話させていただきました。今後は大切な娘さんの歯を虫歯にさせないよう、春、夏、冬
の休みごとに検診に来院されると共に、Yさんご自身も40代となり、これからのご自身の人生にとって大切な歯を
できるだけ守れるよう、検診にきていただけたらと思います。
Kさんもまた当院にご来院いただけることを心よりお待ちしています。
当院に来院される患者さんの歯が長期に渡って健康に維持されることで、口腔健康を通して患者さんの生活、
ひいては人生にささやかながら貢献できることを願って止みません

最後になりますが、次回のブログはつい先日治療終了となったKさんの治療例をアップ予定です。
Kさんは歯の破折を主訴に来院されました。
割れている歯に対して破折歯接着保存治療を行うと共に、歯を守るためにインプラントも行っています。
次回もぜひこの「なえぼほのぼのブログ」をご覧ください。

苗穂駅前 秋の一風景
2018.10.08
破折歯接着保存治療歯の10年経過症例 Part1( I さんのケース)
台風一過、今日は秋晴れの清々しい天気ですが皆様いかがお過ごしでしょうか、なえぼ駅前歯科の大村です。
台風25号の影響で7日(日)に予定していた札幌マラソンが中止になってしまいました
娘がネットでたまたま見つけて前日に教えてくれたのですが、前々日までは全く知りませんでした(まあ、さすがに
走るのは難しかったと思いますが)。
私自身これまで大会中止を経験したことがありませんでしたので、今回ハーフ参加費の5140円は返金されないという
ことも初めて知りました(大会開催に向けた運営費等に充当されるようです)。
大会の申込規約には「地震・風水害・降雪・事件・事故・疾病等による開催縮小、中止、参加料返金の有無、その額、
通知方法等についてはその都度主催者が判断し、決定します」とあり、例えばコンサートが台風で中止になった場合、
チケットは払い戻しされますが、マラソンの場合はこれまで中止になった大会もほとんどが返金されていないようです。
今年は7月の広島学会参加の際にも西日本豪雨の直撃に遭いましたし、「台風、洪水、地震などの自然災害は避けようが
ないしな~」ということで、三連休の6日は外を12km、翌日の大会予定日にはジムで10km走って札幌マラソンの元を
取りました(笑)
さて、前回のブログでもお知らせした通り、平成12年に当時63才で来院された I さんと平成10年に当時33才で来院
されたKさんの破折歯接着保存治療に纏(まつ)わるお話を2回に渡ってさせていただきます。
私が前回のブログでもお話しした眞坂信夫先生と出会い、歯根破折歯の接着保存治療を積極的に行うようになった
のは平成22年頃ですが、実はそれ以前にもその歯を保存する価値が十分あると私自身が考えたケースに限って、
破折歯の接着保存治療を行っていました。 I さんの破折歯もまさにそのような歯でした。
I さんの初診時のレントゲン写真です。

上顎はすでに歯がなく総義歯、下顎は前歯と左下奥に1本だけ奥歯が残っており部分床義歯が装着されていました。
I さんの主訴は、
1.バネの部分の見た目が悪くよく噛めない(下顎)
2.装着感の良い軽い義歯(上顎)を入れたいとのことでした。
平成13年治療終了時の状態です。

下顎はコーヌス義歯というバネのない二重冠義歯、上顎は軽くて生体親和性の良いチタン金属床義歯を作製しました。
治療終了後調子は良く、I さん曰く「義歯のように見えない」「何でも食べられる」とのことでした。
しばらく経過は良好だったのですが、治療終了7年目、平成20年に右下犬歯が腫れたとのことで来院されました。
調子良く噛めていたことと引き換えに歯に負担をかけ続けたことが、結果として金属ポスト先端部での歯根破折を
引き起こしていました。

こういうタイプの下顎義歯(コーヌス義歯)はカメラの三脚と同じで足が一つなくなってしまうとバランスが悪くなります。
今回歯根破折を起こした右下犬歯を失ってしまうと、その後は左下の内冠が装着されている2本の歯に大きな負担が
かかります。即ち、右側で噛むと左下の2本の歯は右に揺さぶられるようになり、結果、左下にも歯根破折等のトラブルを
引き起こしやすくなります。I さんと相談の上、歯周外科処置による口腔内接着法という方法で右下犬歯の接着治療を
行うこととしました。
平成25年(治療終了12年後、接着保存治療5年後)の状態です。何事もなかったかのように問題なく経過しています。

「とにかくよく噛める」「ここで(破折した右下犬歯部)で食べると食事がおいしい」とのこと(ひえ~~、
)
「一度割れている歯なので、くれぐれも加減して優しく噛んでくださいね」とお話ししました
I さんは以前からパーキンソン病を患っており、年々歩行が難しくなりながらも遠く山の手から年に2回、時にはタクシーを
使ってメインテナンスに来院されていましたが、治療終了17年後の昨年の受診を最後に施設に入居されることになり、
大変残念なのですが当院でのメインテナンスを継続することが困難になってしまいました。
治療終了17年後、最後にお撮りしたレントゲン写真です。

今年5月に息子さんがメインテナンスで来院され、「母はお陰様で、歯も入れ歯も調子よく使えています」とのこと、
とても安心しました。長いメインテナンスの中で、上下義歯とも一度ずつ義歯の裏を貼り直してはいますが、下の前歯の
虫歯の治療以外は一箇所の再治療も歯の喪失もなく、64才から81才を I さんは過ごされました。
前回のブログでもお話ししたように、割れているから治療不可能ということでそのまま放置していたら、あるいは10年前の
時点で抜歯をしていたら、その後左側の歯にも負担がかかりトラブルの連鎖を引き起こした可能性は十分あると思います。
治療の難しい1本の歯の保存に努めることは、単にその歯を残すという価値のみならず、次の抜歯予備軍となる歯の
保存にも繋がります。
見栄えの良い、快適な、よく噛める義歯を長く維持することができたことで、I さんのかかりつけ歯科医として、
I さんのQOL(quality of life、生活の質)の向上に確実に貢献できたのではないかと思います。
開業当時に60代であった患者さんが、20年以上経って少しずつ通院できなくなってしまう状況はとても悲しいのですが、
お元気で通院していただけている間は、患者さんの最後のかかりつけ歯科医として責任を持ってメインテナンスし続け
たいと考えています
台風25号の影響で7日(日)に予定していた札幌マラソンが中止になってしまいました

娘がネットでたまたま見つけて前日に教えてくれたのですが、前々日までは全く知りませんでした(まあ、さすがに
走るのは難しかったと思いますが)。
私自身これまで大会中止を経験したことがありませんでしたので、今回ハーフ参加費の5140円は返金されないという
ことも初めて知りました(大会開催に向けた運営費等に充当されるようです)。
大会の申込規約には「地震・風水害・降雪・事件・事故・疾病等による開催縮小、中止、参加料返金の有無、その額、
通知方法等についてはその都度主催者が判断し、決定します」とあり、例えばコンサートが台風で中止になった場合、
チケットは払い戻しされますが、マラソンの場合はこれまで中止になった大会もほとんどが返金されていないようです。
今年は7月の広島学会参加の際にも西日本豪雨の直撃に遭いましたし、「台風、洪水、地震などの自然災害は避けようが
ないしな~」ということで、三連休の6日は外を12km、翌日の大会予定日にはジムで10km走って札幌マラソンの元を
取りました(笑)
さて、前回のブログでもお知らせした通り、平成12年に当時63才で来院された I さんと平成10年に当時33才で来院
されたKさんの破折歯接着保存治療に纏(まつ)わるお話を2回に渡ってさせていただきます。
私が前回のブログでもお話しした眞坂信夫先生と出会い、歯根破折歯の接着保存治療を積極的に行うようになった
のは平成22年頃ですが、実はそれ以前にもその歯を保存する価値が十分あると私自身が考えたケースに限って、
破折歯の接着保存治療を行っていました。 I さんの破折歯もまさにそのような歯でした。
I さんの初診時のレントゲン写真です。

上顎はすでに歯がなく総義歯、下顎は前歯と左下奥に1本だけ奥歯が残っており部分床義歯が装着されていました。
I さんの主訴は、
1.バネの部分の見た目が悪くよく噛めない(下顎)
2.装着感の良い軽い義歯(上顎)を入れたいとのことでした。
平成13年治療終了時の状態です。

下顎はコーヌス義歯というバネのない二重冠義歯、上顎は軽くて生体親和性の良いチタン金属床義歯を作製しました。
治療終了後調子は良く、I さん曰く「義歯のように見えない」「何でも食べられる」とのことでした。
しばらく経過は良好だったのですが、治療終了7年目、平成20年に右下犬歯が腫れたとのことで来院されました。
調子良く噛めていたことと引き換えに歯に負担をかけ続けたことが、結果として金属ポスト先端部での歯根破折を
引き起こしていました。

こういうタイプの下顎義歯(コーヌス義歯)はカメラの三脚と同じで足が一つなくなってしまうとバランスが悪くなります。
今回歯根破折を起こした右下犬歯を失ってしまうと、その後は左下の内冠が装着されている2本の歯に大きな負担が
かかります。即ち、右側で噛むと左下の2本の歯は右に揺さぶられるようになり、結果、左下にも歯根破折等のトラブルを
引き起こしやすくなります。I さんと相談の上、歯周外科処置による口腔内接着法という方法で右下犬歯の接着治療を
行うこととしました。
平成25年(治療終了12年後、接着保存治療5年後)の状態です。何事もなかったかのように問題なく経過しています。

「とにかくよく噛める」「ここで(破折した右下犬歯部)で食べると食事がおいしい」とのこと(ひえ~~、

「一度割れている歯なので、くれぐれも加減して優しく噛んでくださいね」とお話ししました

I さんは以前からパーキンソン病を患っており、年々歩行が難しくなりながらも遠く山の手から年に2回、時にはタクシーを
使ってメインテナンスに来院されていましたが、治療終了17年後の昨年の受診を最後に施設に入居されることになり、
大変残念なのですが当院でのメインテナンスを継続することが困難になってしまいました。
治療終了17年後、最後にお撮りしたレントゲン写真です。

今年5月に息子さんがメインテナンスで来院され、「母はお陰様で、歯も入れ歯も調子よく使えています」とのこと、
とても安心しました。長いメインテナンスの中で、上下義歯とも一度ずつ義歯の裏を貼り直してはいますが、下の前歯の
虫歯の治療以外は一箇所の再治療も歯の喪失もなく、64才から81才を I さんは過ごされました。
前回のブログでもお話ししたように、割れているから治療不可能ということでそのまま放置していたら、あるいは10年前の
時点で抜歯をしていたら、その後左側の歯にも負担がかかりトラブルの連鎖を引き起こした可能性は十分あると思います。
治療の難しい1本の歯の保存に努めることは、単にその歯を残すという価値のみならず、次の抜歯予備軍となる歯の
保存にも繋がります。
見栄えの良い、快適な、よく噛める義歯を長く維持することができたことで、I さんのかかりつけ歯科医として、
I さんのQOL(quality of life、生活の質)の向上に確実に貢献できたのではないかと思います。
開業当時に60代であった患者さんが、20年以上経って少しずつ通院できなくなってしまう状況はとても悲しいのですが、
お元気で通院していただけている間は、患者さんの最後のかかりつけ歯科医として責任を持ってメインテナンスし続け
たいと考えています
