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2018.06.24

再生療法、意図的再植にて抜歯を回避したYさんの初診から10年後

 もうすぐ7月。札幌はまだまだ夏を感じさせない涼しい毎日ですが皆様いかがお過ごしでしょうか、
なえぼ駅前歯科の大村です。
最近本当に忙しくなかなかブログを更新することができずにいましたが、今日は久しぶりの完全オフ、
朝から診療室に籠ってブログを作成中です(笑)。

本日は先週メインテナンスで来院されたYさんのお話をさせていただきます。
Yさんは平成20年、普段から歯のぐらつきを自覚しており、歯周病治療を希望しての来院でした。

初診時のレントゲン写真です。

山本美鈴様 初診時レントゲン

レントゲン所見から臼歯部を中心に歯根長の1/2以上の骨吸収と上下左右の大臼歯部には6~10mm以上
の深い歯周ポケットを認め、全体に歯周病が進行していました。
左上奥から2番目(向かって右上奥から2番目、歯周ポケット10mm以上)の歯は初診時すでに外側に全く骨が
残っていなかったため、内側の根のみを保存しました。同年11月に全顎治療が終了し、メインテナンスに
入りました。

2年ほど良好にメインテナンスしていたのですが、右上最後臼歯の遠心根分岐部にしみる症状が出始めました。
サホライド(知覚過敏薬)を塗って対応していたのですが、遠方からのメインテナンス来院であったこともあり、
症状が強く出た時に近隣の歯科医院を受診されたようで、次回メインテナンス来院時にはすでに冠が装着されて
いました。冠の状態をみて、正直「どうしてうちに来てくれなかったかな~」と思いましたが、Yさんを責めることの
ないよう対応しました

案の定1年も経たずにこの歯の頬側の歯肉が腫れたためレントゲン写真を撮影した時の状態です(中央上)。
不適切な根管治療、不適切な冠形態(遠心根分岐部が全くブラッッシングできないオーバーな形になっていました)
による歯周-歯内病変の悪化により、頬側遠心根(頬側2根はほとんど分岐していない)は完全に骨がない状態
になっていました。

現状を説明し、まずは根管治療を行い、根管治療終了後治癒期間を待って再生療法(エムドゲイン+移植骨
(自家骨+バイオオス))を行いました。オペ時歯肉弁を開けると、頬側遠心根根尖は露出していました。
再生療法6年後の現在の右上奥の状態です。
レントゲン所見において再生療法による骨の再生と浅い歯周ポケットは維持されています

右上最後臼歯の経過

                    右上最後臼歯の治療経過

保険診療ではできない治療もありますが、適切な根管治療、保存の難しい高度歯周病罹患歯に対する再生療法、
その後のブラッシングしやすい冠形態とメインテナンスの質。どれ一つ欠けてもこの歯の保存、維持は難しかった
のではないかなと思います(勿論、患者さんの良好なプラークコントロールが前提です)。

初診から10年後の現在です。

 初診から10年後の現在

現在の上下左右臼歯部の状態

現在Yさんは3ヵ月ごとのメインテナンス来院を継続され、ひとまず初診から10年、右上奥に再治療はありましたが、
メインテナンスから1歯も抜歯になることなく健康な口腔内を維持しています。

実は左上奥の歯も根管治療が奏功せず、意図的再植(根管内からのアプローチで改善しない場合、
歯根端切除術の適応外の歯に対し、一度抜歯し、口腔外で根尖部の処置を行う方法)を行っています。
再植時、根尖の感染部と上顎洞との間に骨の裏打ちがありませんでしたが、適切に処置すると歯はしっかりと
保存されていきます。

左上臼歯の治療経過

              左上臼歯(奥から2番目の歯)の治療経過

最近、歯科医師の知人が歯周治療を希望して当院に来院しました。
医者の不養生と言っておりましたが 、当院に来院する直前に2歯、根管治療の予後不良で抜歯したとのこと
(元々リーマー(根管治療の器具)の破折から根尖病変が大きくなり、前医では結局対応できず知人も同意の上
で抜歯したとのこと)。
当院の歯周治療を信頼しての来院でしたので嬉しい反面、抜歯する前にどうしてうちに来てくれなかったかな~と、
救えたのに と正直思いましたが、すでに抜歯されてしまっているので、そこはやんわり伝えるのみにとどめ、
現在歯周治療を進めているところです。

この「なえぼほのぼのブログ」のブログカテゴリー「破折歯保存」、「根管治療」に掲載した多くの治療例のように、
破折リーマーはまず除去を試み、また根管治療での対応が難しいケースは、歯根端切除術や意図的再植による
外科的歯内療法、更に外科処置においても予後不良となる典型例としての根尖部での歯根破折に対しては、
破折歯の接着保存治療がありますので、このブログを読んでいただいている方は、知人のように簡単に自分の歯を
あきらめずぜひセカンドオピニオンにご来院ください。

当院は現在あるいは生涯に渡り、自分の歯を失いたくないと思っておられる患者さんのご来院を心からお待ちしています。


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2018.03.18

「破折歯の保存治療にインプラントを併用した3症例」

 こんにちは、なえぼ駅前歯科の大村です。
春間近、5月の豊平川マラソン、6月の千歳国際マラソンに向けて少しずつ走り始めなければならない
今日この頃ですが、あいかわらず仕事が忙しく(と毎年言い訳しているな~ )、更に冬場の除雪で痛めた
腰の調子がなかなか良くならず、この2ヵ月ほど毎週昼休みを利用して当法人のステラはり・灸整骨院で、
はり、電気、マッサージの治療を受けています。

先日も昼休みに抜けて治療に行っていたところ、患者Ⅿさんが屋久島のお土産としてタンカンを持って来て
くださいました(不在にしていて申し訳ありません)。
タンカンという果物は私も初めて頂きましたが、関西に住んでいた頃食べたポンカンに味が似ていると思い
調べたところ(そう言えば北海道に来てからは食べていないな~)、ポンカンとネーブルオレンジの自然交配種
とのこと(納得  )。早速スタッフ、家族共々おいしくいただきました。そのお心遣いに感謝申し上げます。

私より10才年上のⅯさんとは、私が開業する前の勤務医時代から患者さんとして25年お付き合いをさせて
いただいています。開業後しばらくしてから、私の開業場所を前勤務先から聞いて来てくださいました。
担当して以来25年間1歯も抜歯になっていないのが私の密かな自慢でもあります(笑)。
聡明なⅯさんは登山サークルに所属されており健康にも抜かりはなく、今回の縄文杉ツアーもサークルのお仲間と
ご一緒、とお聞きしていました。往復10時間以上、距離にして22kmのアップダウンですからなかなかのものです。

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さて本日は「破折歯の保存治療にインプラントを併用した3症例」ということでお話させていただきます。
患者さんはいずれも女性、年齢は40代後半~60才と歯が失われていき始める年代で、この時期に受けた治療と
その後のメインテナンスの良否が、歳と共に歯がなくなっていくか維持されていくかの一つの分岐点になると考えて
います。

歯根破折を起こした歯には、割れるに至った様々な原因があります。
「フェルールがない(健全歯質が少ない)」「内側性修復物」という「歯」「歯冠修復物」という局所の原因以外にも、
「咬合力(咀嚼力、ブラキシズム)が強い」「欠損歯列の咬合支持歯」「歯列不正やガイドの喪失」「偏咀嚼」という
そもそもその歯に負担がかかっていたという問題が多く見受けられます。

その場合、割れた歯を適切に接着させるだけではなく、その原因を分析して適切に対応することが、破折歯の
長期維持につながっていきます。その対応の一つとしてインプラントをうまく利用することを考えています。

ちょっと話が専門的過ぎるのですが 、治療例をみていただきながらもう少し具体的にお話させていただきます。

(治療例1)
40代、女性
右下奥の割れた歯の治療相談ということで、札幌市内の開業医さんのご紹介で来院されました。

右下奥(向かって左側)にはブリッジが装着されており、〇印の最後臼歯で歯が割れていました。
ブリッジ手前の支台歯(△)には太い金属ポストが装着されていましたが、すでに脱離し虫歯になっており
フェルールもない状態でした。
また反対側の左上大臼歯が2歯欠損(×)したままになっており、右側でばかり噛んでいた(偏咀嚼の問題)
ことが破折の一因であると考えました。

症例1 初診時
       初診時右下         初診時左上

-以下補足解説-
歯冠修復物は、歯肉縁上に高さ1~2mm以上、厚さ1mm以上の健全な残存歯質をしっかり抱え込むことで
(フェルール効果)、冠の脱離や歯根破折を防止する効果があります。
フェルール=冠が残存歯質を抱え込む部分=タガ(をはめる)
フェルールのない歯は単にファイバーコアを装着するだけでは不十分で、歯冠長延長術という外科処置を
行うことでフェルールが確保されます。
 
 歯冠長延長術(術前、術後)
参考例ですが、左側はオペ前の状態でM部(近心側)の歯質は歯肉縁下4mmでしたが、右側のオペ後には
同じM部で健全な1mmの歯質を歯肉縁上に確保できています。
また歯根破折の大きな原因となっている失活歯の内側性修復物は、噛む力が歯に対してくさびとして働きますので
当院では最低限被覆しています(タガをはめる)。歯を少しでも削りたくないからということで、インレーで対応した結果
抜歯になってしまっては全くの本末転倒です(以上補足解説終了)。

さて話をまた元に戻しますが、割れていた最後臼歯は保存治療を行い(破折片は虫歯でほとんど使い物にならず、
除去した後、前述した歯冠長延長術にて対応)、手前の歯の太い金属ポストはファイバーコアに治療し直して
同じく歯冠長延長術を行いました。真ん中の欠損部はインプラントで対応すると共に、左側でもしっかり噛めるよう
左上奥にもソケットリフトによるインプラントを2本埋入しました。

症例1 インプラント埋入後
              インプラント埋入後

こうすることで右下奥の2本の歯の負担を軽減させ、歯根破折のリスクを極力低くできるようにしました。

(治療例2)
60才、女性
ネットをみて当院来院、左下奥の歯が割れており治療の相談をしたいとのことでした。
右下、左下ともそれぞれ大臼歯2歯が欠損しており、通常奥歯は左右計8歯で噛む力を支えているところを
半分の4歯で支えており(前述した欠損歯列の咬合支持歯という問題)、一番負担のかかりやすい最後臼歯
(割れた左側は失活歯でした。右側の最後臼歯は生活歯)に歯根破折を生じていました。
まずは割れている歯の接着保存治療を行い、

症例2 初診時
       初診時          接着再植後

症例2 接着再植術中

3ヵ月後に骨の改善を確認後、その奥に1本インプラントを更には反対側の右側にもインプラントを追加しました。

症例2 インプラント埋入後
 インプラント埋入後(破折歯は接着再植3ヵ月後)

その結果、左右の奥歯は初診時の4歯からインプラントオペ後は6歯で支えることができるようになり、歯根破折歯
を含めた残存歯への負担は軽減されました。

(治療例3)
50才、女性
日高からネットをみて当院来院
歯が割れて痛い、歯ぐきが腫れている、頻繁に仮歯が脱離するとのこと、歯根破折のみならず、いろいろな問題が
複合的に絡んでいました。

その主なものは、
①顎位の低下(噛み合わせが低くなっている)とそれに起因する前歯部の突き上げ、適切なガイドの喪失
②健全な残存歯質が少ない(フェルールがない)
③咬合力が強い(特に咀嚼力)
上記①~③はすべて仮歯の頻回脱離、歯根破折と関係
④歯が割れている(3歯)
⑤上顎は欠損歯列(初診時すでに5歯欠損、地元ではすぐ抜歯されてしまう)

全顎治療の詳細は割愛し、2歯が破折していた右下奥に絞って今回はお話をさせていただきます。

初診時ブリッジが装着されていましたが、支台となっている2歯はいずれも残存歯質が少なく歯根破折していました
(青の矢印部分)。

症例3 初診時
         初診時

コア除去時(左)、 術中(右)

どちらも接着保存治療を行い、真ん中の欠損部は治療例1と同様、インプラントで対応しました。

症例3 インプラント埋入後
  インプラント埋入後(補綴終了後)

向かって右側の歯の幅の広い骨欠損部には、再植時再生療法を併用しており、術後骨頂部は平坦に改善しています。

現在すべての歯を保存したうえで下顎は治療を終了。上顎はフェル-ルのない失活歯に対して根築1回法、歯冠長
延長術を行った後、適正な顎位、咬合を付与した最終的なブリッジの仮歯を装着し、ナイトガードによるブラキシズム
の診断と咬合力のコントロールを行っています。

治療例1~3のように、保存可能な歯は患者さんの希望を伺った上でできるだけ保存に努め、更に残存歯を守る
ためインプラント(ドナーとなる歯が存在する場合は歯牙移植も検討)を初診時欠損している部位に必要最小限活用
するというのが当院の治療の特長と言えると思います。

インプラントは適切に行いメインテナンスを継続すれば、長期に良好な結果を得ることができる治療と考えて
いますが、患者さんご自身の歯とインプラントの予知性(長期予後)を同等に比較することはできません。
患者さんとの長いお付き合いの中、その時々の年齢や全身状態、生活環境に応じて、患者さんの望む治療を
できるだけ実践していくことが大切なのではないかと考えています。

幸福






2018.02.19

移植床の①骨幅が足りない②骨の高さがないアドバンス歯牙移植2症例

 こんにちは、なえぼ駅前歯科の大村です。
平昌オリンピック、日本人選手活躍していますね~~。
一昨日は羽生、宇野両選手の金銀ダブル受賞!感動しました。
羽生選手の渾身の演技、最後のスピン堪えました~~。
宇野選手も最初の4回転ループこそ転倒しましたが、その後はしっかり決めてハビエル選手を逆転。

「すべての選手の演技を見ていて頭の中で勝ち負けの点数を計算していた」という宇野選手のコメント
には驚きで、勝つ選手はやはりハートが強く、ものが違うな~と感じました。
羽生選手の「人生をスケートに賭けてきて本当に良かった」というコメントには、思わずうるっときて
しまいました。本当におめでとうございます!(昨日は小平選手も金メダルを獲得しました~ 

今年は今のところこまめにブログを更新していますが 、先日ある先生から「歯牙移植を考えている
患者さんが来院されたのだけど、移植予定のところに骨がない(下顎の頬側に骨がない)が歯牙
移植の骨造成は可能ですか?」と質問を受けました。

移植できる歯があっても、移植予定の部位(移植床)に骨がないと、移植ができないかあるいは
行っても良好な予後が望めないのですが、様々なテクニックを駆使することで歯牙移植は可能と
なります。
と言うことで、前回のブログアップからまだ間もないのですが(この調子がいつまで続くか心配ですが )、
本日は当院の治療例を見ていただきながら、歯牙移植アドバンス編のお話をさせていただきます。

移植床の骨が不足している場合の歯牙移植は、以下①~④の方法が可能です。

①頬側に骨が不足していても前後の歯の頬側に骨があり、ボーンハウジング内に収まる
(両隣接歯の頬側の骨を結んだ枠の中に納まる)のであれば、GTR膜+骨移植を併用しての
 歯牙移植が可能。移植歯には歯根膜が存在するので却って骨の再生は得られやすい

②移植歯がやや大きいなどの理由で、ボーンハウジング内に収まりにくい場合は、移植歯の
 抜歯時、頬側の骨を付けたまま抜歯して移植する方法(生木骨折移植)も、ピエゾ(超音波
 切削器具)を用いて行うことが可能

③上顎臼歯部は骨の高さが足りない場合、上顎洞粘膜を挙上(ソケットリフト)させることで移植が
 可能

④上顎の場合は下顎と比べて骨が硬くないため、骨にスプリット(切れ目)を入れそこから骨幅を
 広げていく方法も可能

①、③、④はすでに症例数をこなしており、②も適応症例で且つその治療が最善であり、
また患者さんが治療を希望されれば行う準備は整っています(これまでは明らかに骨幅が足りない
場合、可能であれば分割してそれぞれ移植(あるいは条件の良い方のみ移植)という治療法を
選択したこともありましたが、むしろ移植ではなくインプラントをご提案していました)。

ということで本日は、
第一症例:骨の幅がない(頬側に骨がない)ケースの再生療法併用症例
第二症例:骨の高さがないケースのソケットリフト併用症例   をご覧いただきたいと思います。

(第一症例)
初診時50代の女性の方で、左下奥2本(×の歯)は虫歯と歯の破折で保存は困難な状態でした。
真ん中の歯も虫歯の進行が著しく、5本ブリッジ(支えは3歯)で対応したとしても負担のかかる
この歯の予後は厳しいと思われました。またブリッジで対応する場合、健全な犬歯と大臼歯を
削って被せる治療になります。

そこで真ん中の歯はブリッジとせず単冠で、向かって左は抜歯後、GBR(骨造成)を併用した
インプラント、そして向かって右の大臼歯部は抜歯後、左上智歯(親知らず)を移植しようと
考えました。

平成24年初診時の状態

しかしながら移植床部は元々感染が大きく、頬側に骨がない状態で(下の左下図、赤線の
ところが頬側の足りない骨部)、2根に分岐している左上智歯を移植すると分岐部は骨内に
収まらず、移植後根分岐部病変を有する歯となってしまいます。

移植床部のCT画像

そこで移植時、頬側の骨再生も併せて行うことを計画しました。

初診から5年後の現在

初診から5年後(移植4年後)、現在の左下奥です。
向かって左側はインプラント、真ん中はi-TFCファイバーコアとスーパーボンドを用いた
根築1回法、そして右側は左上智歯が移植されています。2根に分岐した移植歯の根分岐部
にはしっかりと骨が再生されています。

(第二症例)
このケースは矯正専門医からの依頼で、矯正治療により抜歯予定の右下奥を後継永久歯が
先天性に欠如している左上奥に移植できないかとのことでした。
永久歯の根未完成歯は適切な時期に歯牙移植を行うと、歯髄(歯の神経)は生きたまま歯冠
修復することなく天然歯として一生涯維持していくことも可能です。しかしながら根未完成な
右下永久歯の歯根長は9~10mmある一方、左上の移植床(乳歯抜歯後の移植予定部位)の
骨はCTで確認すると2mmしかありませんでした。

根未完成歯の歯牙移植

その場合、ソケットリフト(上顎洞粘膜を挙上する方法)を併用した歯牙移植を行うことで移植を
成功させることが可能です。

歯牙移植の術中と移植後1年

移植を依頼された先生のご要望にお応えすると共に、何より患者さんのお母さんがとても喜んで
くださったことは本当に嬉しく歯科医師冥利に尽きます。

歯科医師として「歯を救う、活かす」ための高度な外科治療の経験と実績を積んでいくことは、
時としてプレッシャーやストレスになることもあるかもしれませんが、うちでしかできない
患者さんにとって最善と思われる治療の引き出しを多く持ち、結果を出して喜んでいただける
ことが、この仕事に賭けて頑張れる何よりの原動力であることは間違いありません。

このブログをご覧になられて、もしセカンドオピニオンを希望される方がおられましたら、
ぜひ一度当院にご来院ください。ご希望をよく伺った上で、私の見立てで最善と思う治療の
お話をさせていただきます










2017.01.20

歯の移植、再植、破折歯接着保存、矯正、インプラント(スプリットクレスト)を用いたNさんのケース

毎日寒い日が続きますね(*´∀`*)
皆様いかがお過ごしでしょうか、なえぼ駅前歯科の大村です。
昨年は多くの方にご来院いただき、またいつも献身的に私をサポートしてくれるスタッフにも
助けられ、大変充実した一年を過ごすことができました。今年も当院に来院される患者様の
歯を1本でも多く守り、救うことができるよう研鑽に努めてまいりますので、どうぞよろしく
お願い致します。

さて今年最初のブログは、昨年当院に来院されたNさんのお話をさせていただきます。
Nさんは札幌から車で2時間弱の遠方から、当院HPをご覧になられて来院されました。
主訴は右下奥と左下奥の治療を希望とのことでした。

歯はできるだけ抜かずにブリッジでの治療を希望されていましたが、奥歯はすでに歯の
ないところも多く、また残っている歯も歯根破折や著しい虫歯、不適切な根管治療、
歯周病など、多くの問題を抱えていました。

図1.はNさんの初診時の右下、左下奥のレントゲンと口腔内写真です。

図1 初診時下顎左右残存歯の現状


口腔内(歯)の正確な現状把握、1歯ごとの診査、診断、処置方針と治療全体の見立ては
非常に大切で、いろいろなケースに対応できる多くの治療の引き出しを持ちつつ、その患者さん
にとってどのような治療が最善で、且つ患者さんの望む治療なのかを決める歯科医師としての
力量とバランス感覚が大いに問われるところです。

歯根破折を起こしている右下犬歯(向かって左側の3の歯)は感染も大きく保存は不可能な
状態で、上顎に移植のドナーとなり得る智歯がありましたが、3部の骨幅が狭いため同部には
収まりませんでした。
また右下小臼歯(向かって左側の5の歯)は歯周病もしくは歯根破折によると思われる骨の
吸収像があり、診断と処置方針が難しい状態でした。

図2は初診から4ヶ月後、右下にブリッジが装着された状態です。
何とかうまく処置を完了することができました。

右下ブリッジ装着時

       図2 右下ブリッジ装着時

次に左下ですが、左下大臼歯(向かって右側の7の歯)は歯根の1/2まで虫歯が進行しており
保存は難しい状態でしたが、矯正治療により歯を上に引っ張り上げることで保存することができました。

矯正治療前

虫歯を除去、矯正治療前の状態

また左下小臼歯(向かって右側の5の歯)は根尖病変を有していましたが、根管治療の器具が
根管内に折れ込んでいるため根管治療が難しい状態で、更に歯が割れており 
この歯は意図的再植術という外科処置で対応しました。
図3は術中、術後の写真です。

図3 意図的再植術の術中(左)、術後(右)

図3 意図的再植術の術中(左:根尖と破折線の
   感染部を除去、sealing後)、術後レントゲン(右)


図4は初診から4ヶ月後、左下にブリッジが装着された状態です。

左下ブリッジ装着時

        図4 左下ブリッジ装着時

意図的再植後、2ヶ月足らずでブリッジを装着しているため、まだ左下小臼歯根尖には骨吸収像を
認めますが、確実に原因を除去しておりますので必ず改善治癒してくるものと考えています。

右下は5番目までの2本の奥歯、左下は8番目までの5本の奥歯がブリッジにより回復されましたが、
当然のことながら噛みやすい側は左側に偏りますので、できるだけ左右均等に噛むことができて
負担が平均的に分散されるよう、右下6番目の位置にここに至ってようやくインプラントを埋入しました。

同部の骨幅は非常に狭く3mmしかないため、3.7mm(長さ10mm)のインプラントをうまく埋入
できるよう、スプリットクレストという骨を切って広げる方法により6mmまで骨幅を広げました。
下顎大臼歯部で骨密度が高く、幅も3mmと狭いうえに下顎管までの距離が12mmしかないため
難易度の高いケースでしたが、無事問題なく埋入することができました。
図5は術前のCTと術後のデンタルレントゲン写真です。

図5 術前のCT(左)と術後のデンタルレントゲン(右)
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スプリット(切れ目)が骨頂部(クレスト)とインプラントの前後に縦に入っているのがわかるかと思います。
初診から5ヶ月経過し、もうすぐインプラントに冠が装着されるとようやく自由診療が終了となります。

歯の移植、再植(破折リーマー除去、逆根充と破折歯接着修復)、矯正的挺出(著しい虫歯に罹患
した歯の救済処置)、インプラント(スプリットクレスト)を駆使し、何とかNさんが初診時に望んだ
治療を完了することができました。

今後は長いメインテナンス治療が始まります。長くトラブルなくメインテナンス出来てこそ、ようやく
治療の成功と言えますので、ここからが新たなスタートだと考え、末永くお付き合い下さいますよう
よろしくお願いします 






2016.11.14

意図的再植術により抜歯を回避したYさんのケース

 10月に降った雪もすっかり溶け、今日は日中10℃くらいまで気温も上がるとのこと、
気持ちの良い週明けを迎えましたが、皆様いかがお過ごしでしょうか、
なえぼ駅前歯科の大村です。
今週末の19日(土)にはいよいよ市民フォーラム「その歯、抜かないで」~割れた歯を救う
接着保存術~ が開催されます。

市民フォーラム告知(パンフレット)

これまでもこのブログで何度かお伝えしてきましたが、「割れた歯は抜歯」というのが
従来、歯科の常識とされてきました。しかしながら、我々PDM札幌のメンバーは、割れた歯も
救う手立てがある(破折歯接着保存治療)ということを一人でも多くの方に知っていただこうと、
2014年からこの市民フォーラムを始めました。

今回、11月の道新、読売においてもこの市民フォーラムは紹介されており、
更に東京の歯科医師からもぜひ聴講したいとのことで問い合わせがあり、
当日参加される予定です。この治療法を行える歯科医院は限られていますので、
ぜひこの機会にご自身の歯の万一の備えとして、あるいはご家族、ご友人が
歯が割れて困った時のために聴きに来ていただければと思います。

さて本日は、歯根に大きな根尖病変を有しているが、通常の根管治療では治せない
下顎大臼歯に矯正的挺出後、パワーエレベーター(インプラテックス社)を用いて
意図的再植術(一度抜歯を行い、口腔外で根の先の感染部を除去して元に戻す方法)
を行ったYさんのケースをご覧いただこうと思います。

Yさんは来院時、右下奥が噛むと痛いとのことでしたので、レントゲンで状態を確認させて
いただいたところ、右下奥(2本とも)に根尖病変を認めました(図1)

図1
                  図1

(矢印で示した黒い部分は感染により歯根周囲の骨が溶けてなくなっている状態)。
Yさんの話ではかなり以前に行った根管治療ということでしたが、根尖付近の根管内に
腐敗産物、感染歯質が取り残されていることが原因でこのように病変を生じていました。

一番奥の歯(親知らず)の遠心根(向かって左側の歯の左の根)は根の先まで開けて
何とかきれいにすることができましたが、近心根(右の根)は根管の途中がすでに閉鎖していて
全く先端部分に到達できず、一つ手前の歯に至っては2つの根とも途中で閉鎖しており、
先端の腐敗産物、感染歯質をきれいに取り除けず゚(゚´Д`゚)゚、最早根管治療で改善させることは
困難な状態でした。

こういう場合抜歯を避ける最終手段として、意図的再植術という外科処置での対応となりますが、
この歯は骨植が非常に良く、更に歯根も異常に長く(日本人の平均歯根長は11mm前後なのですが、
この歯は何と17mmもありました)、そのまま抜歯、再植を行うことは却って歯の寿命を縮めてしまうと
考えました。

そのため術前処置として、矯正的挺出(矯正力をかけて歯を引っ張っておくと、抜歯が容易になり、
抜歯による歯根膜へのダメージを少なくできる)を行い、術中は抜歯の際の、歯根膜の損傷による
将来的なトラブル(置換性吸収)をできるだけ避けることを主な目的として、エムドゲイン(再生材料)
の使用をご提案しました。

しかしながらYさんは保険給付内の保存治療で経過を見たいと希望されたため、ひとまずブリッジを
装着して治療を終了しました(図2)。

図2
                          図2

それからしばらくして歯ぐきが腫れたとのことで再び来院されました。
再度術前矯正を伴った意図的再植術をご提案したところ、今度は治療を希望されたため
処置を進めていきました(図3、矯正的挺出終了時、歯ぐきが腫れている)

図3
                 図3

抜歯、再植当日は、通常の再植用鉗子(再植、移植用の抜歯器具)に加えて、インプラテックス社で
取り扱っている「パワーエレベーター」という特殊な道具も用いて抜歯を行いました。
矯正力をかけたのでわずかに動揺もあったのですが、それでもなかなか抜歯されず 
歯根膜を傷つけないよう、何と30分以上もかかって、ようやく抜歯されました v(=^0^=)v

少々不謹慎なのですが、臨床経験30年の私でも抜けてきた瞬間は、まさによゐこ濱口の
「獲ったど~!」という心境で、

game_ph1.jpg

それくらい大物の大臼歯でした(^^;

根の先端部に付着してきた大きな嚢胞(赤丸で囲んだ部分)を除去、根尖の感染部分をカットし、
スーパーボンドという接着材で逆根充を行って、再び元に戻しました(図4)。

図4

                          図4

歯ぐきの腫れは処置後速やかに消失し、処置後4ヶ月と短い経過ながら、再初診時に比べると
明らかに骨が改善されてきているのがわかるかと思います(図5、図6)。

図5.
                図5

図6.
                                       図6

1本の歯を残すために全力を尽くし(最善と思う治療をご提案し)、結果を出す。
「保険診療だから」ということは決して失敗の言い訳にはならないと思いますので、
結果を出せる治療をご提案し、大切な1本の歯を守るため患者さんとよく話し合う
ということが大切であると私は考えています。
今回処置したYさんの右下奥が長くトラブルなく維持されていくことを願って止みません。

最後になりますが、前回のブログでも触れました日本歯科評論「臨床の行方」に掲載させて
いただいた「患者さんの望む歯科医療の実践」のまとめを一部抜粋し、本日の締めとさせて
いただきます。

「どういう治療をもって“患者さんのため”というかは議論が尽きないが、
患者さんの望むのは「歯を残す・守る」治療だということは、たしかである。
真のかかりつけ歯科医として「先生のおかげで歯が残っています」と患者さん
の信頼を得て、共に年齢を重ねていけたら幸せな歯科医師人生だと思う」

ダリア(感謝)