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2019.03.31

7本のインプラントにより咬合の再構築を行ったKさんのケース(後編)

 こんにちは、明日からいよいよ4月ですね。
本州では桜の開花が聞かれますが皆様いかがお過ごしでしょうか、なえぼ駅前歯科の大村です。

ここ札幌も10日程前までは、日中は10℃を越える暖かさでしたので、てっきりこのまま春になると思っていたのですが、
その後の思いがけないなごり雪のため寒さが少し逆戻りしてしまい、4月の新入学シーズンを迎えて路肩にはまだ雪が
見られます。昨年11月に苗穂駅が当院から250m程札幌駅寄りに移転したため、現在直結している旧駅はひっそりと
した佇まいを呈していますが、そろそろ取り壊しが始まる予定で、明日発表される新元号に歩調を合わせるかのように、
跡地を含め周辺の再開発が進んでいくものと思われます。

さて、本日は前回のブログからの続きで、「7本のインプラントにより咬合の再構築を行ったKさんのケース(後編)」をお話し
したいと思います。Kさんは2016年11月、右下の前歯がグラグラして痛いとのことで、当院の患者さんからのご紹介で
来院されました。

Kさんの初診時のレントゲン写真と口腔内写真です(詳しくは前回の「なえぼほのぼのブログ」の前編をご一読ください)。

初診時口腔内
腫れてグラグラしていた右下前歯(犬歯)

写真左下は初診時腫れてグラグラしていた右下犬歯、上は2回目の来院時(右下犬歯は自然脱落)

右下犬歯はすでに根尖までぐるりと骨がなく、隣の前歯もその影響を受けて歯根長の3/4くらいまで骨吸収していました。
また左上大臼歯( 左上6、7)も進行した歯周病により、根分岐部でほぼ根尖近くまで骨が吸収しており、更に左下小臼歯
(左下 5)は歯根破折を起こしていました。

従って治療後の歯の残存状態は以下のレントゲンの状況が予想されました。

治療後に予想される歯の残存状態

9歯の欠損が予想されましたがKさんは入れ歯を希望されませんでしたので、まずは残っているご自身の歯の歯周治療を
しっかり行った上で、9歯の欠損部分を7本のインプラントにより再構築していく治療計画を立てました。

下は初診から4ヵ月後、歯周基本治療終了時の口腔内です。

歯周基本治療終了時の口腔内

初診時の写真と比較し、歯肉の炎症もプラークの付着もかなり改善してきております。
ここから臼歯部の噛めるところを確保しつつ、Kさんの多忙なお仕事に合わせた歯周外科処置とインプラント治療のタイム
スケジュールを立てていきました。

自然脱落した右下犬歯と進行した根分岐部病変を認めた左上6、7の抜歯後は同部に骨造成が必要であり、また右上7、6部
には前回のブログに書きましたように上顎洞瘻も認めましたので、埋入時、ドリリングにより洞瘻の粘膜を巻き込まないような
埋入位置、埋入方法を考えました。

治療終了時のレントゲン写真です。

治療終了時

左上6の予定していたドリリング部は、ちょうど既存骨主体の硬い骨と主にGBRにより造った骨の境にあり、ドリリング時、
軟らかい造成骨の方に流れていきやすかったこと、加えて左上5(手前の歯)に近い位置は10mmの長さのインプラントを
埋入するには骨の高さが少し足りず、ソケットリフトが必要であったことから、結果として考えていた位置より2mmほど遠心に
埋入となってしまい、最終補綴がカンチレバー(延長ブリッジ)になってしまったことは大きな反省点です。

ソケットリフトを行ってでももう少し手前の歯に近い位置に6部のインプラントを埋入できていれば、右側と同じ連結冠にする
ことができ、7部のインプラントもよりブラッシングがしやすい手前の位置に埋入できたと思います(幸い現状でも同部のブラッ
シングはしっかりできていますが )。

治療終了後年明けの2月、Kさんが来院された時に撮らせていただいた口腔内写真です。

2019.2 メインテナンス時

年末から年始にかけて多忙を極めていたのかもしれませんが、ファインダー越しに歯肉を見ると明らかに以前よりブラッシング
が落ちており、プラークの付着と歯肉の発赤、腫脹を認めました 

Kさんのタイムスケジュールを重視しながら治療を進めてきたことも良し悪しで、その日に確実に行わなければならない処置
内容(術式等の技術的なハード部分)にとらわれ過ぎて、一番大切な患者さん自身の日常生活、プラークコントロールやモチ
ベーションというソフト面を見逃していたことに、ファインダーを通して初めて気づかされました。

もう少し余裕を持って、今日行う処置部位にばかり気持ちを向けずに、患者さんという人、口腔内全体、歯肉を俯瞰して、
どこかで足りない現状に気づいて立ち止まり、落ち着いてゆっくり、患者さんと共に長期的な口腔健康の維持について考える
時間が必要であったと反省させられました(今日は反省することばかりですね)。

ブログではお馴染みの歯科衛生士 I さん(現在Kさんの担当)と話し合い、Kさんの2ヵ月先のお約束をお電話にて1ヵ月後に
取り直した上で、その日に合わせて以前の歯肉の状態が良かった頃の口腔内写真と2月の口腔内写真を比べて見てもらえる
よう資料を準備し、当日Kさんに口腔内の現状説明を行いました。

先日、現状説明2週間後に来院された際には、プラークの付着量も少し減り(まだまだ不十分ではありますが)、歯肉の赤みも
改善されつつありました。 I さんから優しいブラッシング指導とKさんのブラッシングが更に良くなるようなモチベーションを
行って 、次回は2週間後にお約束を取ったようです。Kさんにこちらの熱意がうまく伝わることを願っています。

ブラッシングの威力

歯周病は、コントロールされていない糖尿病のような治癒能力に問題を生じる全身疾患さえなければ(喫煙もあまり本数が
多いと、歯周組織の治癒を阻害しますし、再発しやすくなりますが)、プラークコントロールを徹底することで、長期に治癒、
安定が可能な慢性疾患です。

当院では歯周基本治療を重視し、確定処置として歯周外科処置を行った上で、歯肉縁下の起炎物質の徹底除去とプラーク
コントロールしやすい歯周環境を整備していますが、それは歯周病が治ったということではなく、獲得した口腔健康を長期に
維持、増進していく主体は患者さんであり、我々はそれをお手伝いするサポーターにすぎません(適切にサポートするため
には勿論、専門的な知識や技術が必要なのですが)。

歯周病のような生活習慣病は、医科における外科処置のように外科処置をしたら治るというわけではなく、歯周治療の本質は
1年、2年かけて行う動的治療よりも、むしろその後の長いメインナンス治療にあるのです(動的治療の質、メインテナンス治療
の質は、将来的に患者さんの歯が現状を維持して残っていくかどうかを大きく左右します)。

またインプラント周囲組織は天然歯と比べて歯根膜がないことから、歯肉とは接触しているだけであり(付着部分のバリアー
が弱い)、血液供給の面でも創傷治癒や免疫には不利な構造となっており、更には歯と違い一旦インプラント周囲炎に罹患
すると治療が難しいという現状もありますので、インプラントはより注意深いメインテナンスの継続が必要になってきます。

また話が長くなってきました。こういう話はつい熱くなってしまいます
今回行った治療が再治療となることなく、歯もインプラントも長期に良好な状態で維持されていくことを願って止みません。
Kさん、今後も末永く大切なメインテナンスにご来院ください。お待ちしています。

上野恩賜公園の桜




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2019.02.26

7本のインプラントにより咬合の再構築を行ったKさんのケース(前編)

 3月まであともう少しですね。
皆様いかがお過ごしでしょうか、なえぼ駅前歯科の大村です。
最近札幌も春を感じさせる穏やかな日が多くなり雪解けが進んできました。春が待ち遠しい今日この頃です。

ところで先週21日の夜は、病院でいつものように仕事をしていたところ突然大きな揺れが~~
本当にびっくりしました。
震度4程度だったと思うのですが、札幌にきて40年、昨年の震度5弱を経験するまでは、 2003年の釧路沖で発生した
地震(M8.0)による震度4が過去最大でしたので、大きな揺れは本当に恐怖です。
今回は昨年9月に起きた北海道胆振東部地震(北海道で初めて震度7を記録)の余震とのことですが、もう半年近く経っている
のにまだ予断を許さないのでしょうかね~。

さて皆様、今、北海道胆振東部地震に関連してCCSが密かに話題になっていることをご存知でしょうか?
CCSって何?と思われる方もおられると思いますが、私も実は今回初めて知りました。
CCSとはCarbon dioxide Capture and Storageの略であり、二酸化炭素(CO2)の回収、貯留を意味しています。
即ち、CCSは工場や発電所などから発生するCO2を大気放散する前に回収し、地中貯留に適した地層まで運び、長期間に
わたり安定的に貯留する技術で、CO2の早期大規模削減が期待できる地球温暖化対策の切り札なのです(日本CCS調査
株式会社HPより)。

実は、今回の震源地の近くに苫小牧CCS(2016年4月から開始)があり、以前から一部の研究者の間では、苫小牧近くで
地震が起きる可能性が懸念されていたことを知りました。                                                     
米国スタンフォード大学でも2012年にCCSは地震発生につながる可能性が高いという論文を出しており、国内で最初の
実証実験場となった新潟県長岡市においても、圧入開始から1年を過ぎた2004年10月、新潟県中越地震(M6.8)が発生。
その後2007年7月にも新潟県中越沖地震(M6.8)が発生しており、震源地はいずれも長岡市の実験場から約20kmと
近い場所でした(圧入期間は2003年~2005年にかけての18ヵ月)。

苫小牧市においても圧入開始から2年5ヵ月で北海道胆振東部地震が発生し(震源地から30km)、その後中止していた
実験を2月19日から開始したばかりの21日に再び今回の地震ですので、ますます信憑性がありますよね。

地震は怖~い

ちなみにこれまで日本において、新潟県長岡市、秋田県湯沢市(旧雄勝町)、福島県いわき市、北海道苫小牧市、北九州市で
CCSの圧入実験が行われているようで、最後の北九州市以外はすべて地震が起きています。東北大震災の後、いわき市での
圧入が中止されたことはこれまでほとんど報道されておりません。その後、実験場は苫小牧市に移り、今回、一部の研究者の
予言通り、北海道胆振東部地震が起こりました。

北九州市でも現在本格事業が進行中とのこと、一部の噂で次の地震は北九州市と言われているとのことです。
もしかしたらCCSは日本のような地震国(地震が多い国ランキングで世界第二位)には不向きなのかもしれません。

勿論、科学的な調査も行われており、昨年の北海道胆振東部地震においても、日本CCS調査株式会社では「地震の震源は
貯留地点より水平距離で約31km離れた胆振地方中東部の深度37kmで発生しております(深さを考慮した直線距離で
約47km)。実際の二酸化炭素が圧入された地層と地震の震源が位置する地層とは連続性がなく、二酸化炭素の圧入による
影響が本地震の震源まで及んだとは考えられません」と発表していますが、実際のところどうなのでしょうか。

地球温暖化防止に向けて、このCCS調査株式会社の事業は経産省お墨付きの国家的プロジェクトですので、願わくば原発の
安全神話が間違いであったような轍は二度と踏まないでいただきたいものです。CCSと地震との関連性に関しては、今後の
続報が待たれるところです。

さて、話がようやく本題にきました(前置きが長くてすいません)。
今回は2016年11月、右下の前歯がグラグラして痛いとのことで、当院の患者さんからのご紹介で来院されたKさんの
治療経過を2回にわけてお話しさせていただきます。

Kさんの初診時のレントゲン写真と主訴であった右下犬歯の状態です。
2016.11 初診時

腫れてグラグラしていた右下前歯(犬歯)

適切な歯周治療がなされないまま隣接歯と固定されており、レントゲンをお撮りしたところすでに根尖までぐるりと
骨がなくなっていました
固定している隣接歯にまでその影響が波及しており、右下前歯(2番)も歯根長の3/4くらいまで骨吸収していました
(写真上のレントゲン参照)。

ひとまず固定を除去、グラグラの犬歯の歯冠部をカット(自然挺出)して、犬歯部分を人工歯にて補修しました。
Kさんには犬歯の現状を説明し、自然脱落してくる可能性が高いことをお伝えした上で、歯肉がかなり腫れていました
ので抗生剤の投薬を行いました。

次回来院時に撮影した口腔内の状態です。右下犬歯は予想した通り自然脱落していました。

初診時口腔内

歯肉の腫れが強く、プラークの付着も多く見られ、左上(向かって右上)の犬歯、小臼歯歯頚部に見られる楔状欠損(右上小臼歯
歯頚部にも見られます)、犬歯切縁部の咬耗、右下犬歯の自然脱落、左下5の歯根破折、左上大臼歯部の根分岐部病変の
状態を考えますと、プラークによる歯周病の進行に咬合力(咬合性外傷)がリスク因子として影響している口腔内と思われました。

左上下臼歯部の口腔内と左上大臼歯部のCTです。

初診時、左上下臼歯部の状態

左下5は歯根破折を起こしており(初診時のレントゲンで根尖に至る歯周ポケットを認める)、頬側歯肉の赤矢印部分に瘻孔
(膿の排出路)を認めました。

左上6、7の状態

また初診時デンタルレントゲン写真で根分岐部病変が進行していた左上大臼歯部をCTで詳しく診たところ、ほとんど根の先端
部に骨支持が残っていないことがわかりました。

従って治療後の歯の残存状態は以下のレントゲンの状況が予想されました。

治療後に予想される歯の残存状態

9歯の欠損が予想されましたがKさんは入れ歯を希望されませんでしたので、まずは残っているご自身の歯の歯周治療を
しっかり行った上で、9歯の欠損部分を7本のインプラントにより再構築していく治療計画を立てました(Kさんの場合は、
左下5の歯根破折歯を接着保存して6、7にインプラントではなく、抜歯して5、7にインプラントによるブリッジを考えました)。

これまで歯周治療のご経験がなく、ブラッシングもササっとしか磨いてこられなかったKさんですが、担当衛生士の働きかけ
により、ブラッシング時間も長くかけられるようになりました。
初診から4ヵ月後、歯周基本治療終了時の口腔内です。
初診時の写真と比較し、歯肉の炎症もプラークの付着もかなり改善してきております。

歯周基本治療終了時の口腔内

ここからようやく歯周外科処置とインプラント治療を行うこととしました。
この時点で左上下の奥歯はまだ抜歯処置を行っておらず、臼歯部の噛めるところを確保しながら、Kさんのお仕事の
スケジュールに合わせて綿密にインプラントの治療計画を立てていきました。自然脱落した右下犬歯部には骨がありません
でしたので、ここはまずGBRにて確実に骨造成を行った後、インプラントの埋入をと考えました(根分岐部病変がかなり
進行していた左上6、7部にも骨造成が必要でした)。

更にインプラントの埋入を予定していた右上7、6間に上顎洞瘻(骨の中央部に上顎洞と交通している骨欠損部を認める)が
あることがわかり、これも埋入時にはやっかいな存在となりました。

上顎洞瘻
右上7、6欠損中央部に見られた上顎洞瘻

ちなみにこの上顎洞瘻ですが、私の親友で某大学歯科口腔外科教授のAくんの話では、元々Kさんに生まれつき存在していた
というより、同部の大臼歯を抜歯した際、上顎洞底の粘膜が引っ張られた可能性があるのではないかということでした。
単純抜歯でこういうことも起こり得るのか~と(おそらくKさんの右上大臼歯は左上のように歯根が長く、一部の歯根が上顎洞
粘膜と接していたのではないかと推測)あらためて思いました。

自院の患者さんの口腔外科的な専門性を要する治療等に関しては、何人かの口腔外科の専門医とタイアップしており、
診断や処置方針に悩む時、口腔内写真やレントゲン写真をメールに添えて相談することもあります。特にAくんの存在は大きく、
教授職で多忙にもかかわらず、何かと細かな相談をさせてもらっています(細かくこだわるのは、患者さんに対して自己のできる
ことは最善を尽くすというのが担当医としての責務だと考えているからです)。

ちなみに先週、堀ちえみさんが11時間に渡る舌ガン(ステージ4)のオペを無事終了したというニュースが流れました。
頚部リンパ節と舌の60%を切除し、大腿皮弁による再建手術を行ったとのこと、東大もしくは順天堂大学での手術という話も
ありますが、30年も診療をしておりますと稀に悪性腫瘍を疑う粘膜病変に遭遇することがあります(口腔癌は癌全体から
みると4%程度と少ないのですが)。

前癌病変としての舌の白板症、歯肉の紅板症(私が遭遇したケースは完全に癌化していました)、舌、硬口蓋、下顎歯肉の
扁平上皮癌、肺癌の顎骨転移。また前日飲みすぎたら翌日下あごが腫れたとのことで来院され、歯とは全く関係がなかった
ので顎下型ラヌーラ(ガマ腫)もしくは側頚嚢胞を疑って口腔外科を紹介したところ、悪性リンパ腫であったこともありました。

堀ちえみさんも夏頃、小さな口内炎を自覚し、9月にはかかりつけの歯科医院さんを受診したにもかかわらず、担当歯科医師は
口内炎を疑わず薬を出した挙句、なかなか治らないということでその後レーザー治療まで行い、結果、初発症状から半年、
舌ガンは放置されてしまいました。どうして口腔外科の専門病院をもっと早く紹介できなかったのか、その責任は重いと思い
ます。

また話がそれて長くなってしましました
今日はここまでとさせていただき、次回この続きをお話ししたいと思います。ご期待ください




















2018.08.13

インプラント治療を希望して来院されたSさんの治療例

 今日からお盆に入りましたがここ札幌は大雨となっています。
皆様いかがお過ごしでしょうか、なえぼ駅前歯科の大村です。
私も明日は道南の方へ墓参りに行きますが、皆様も安全運転で事故のないようお気をつけください。

本日は一昨年の暮れに、市内の歯科医院さんからのご紹介で当院に来院されたSさんのお話をさせて
いただきます。前回のブログでも書きましたが、Sさんは以前受けた歯科治療において怖い思いをされたとのことで、
30才くらいから10年以上お口の中に問題があってもずっと放置されていました。

下顎左右臼歯部はすでに歯が喪失あるいは虫歯により保存が困難な状態であるため、今回ご紹介下さった
歯科医院さんで当院でのインプラント治療を勧められたとのことでした。

Sさんの初診時のレントゲン写真です。

初診時レントゲン写真(改) 

右下奥(向かって左下奥)のブリッジの奥の歯はほとんどない状態で片持ち梁になっており、左下奥も虫歯で
残根状態でした(マルで囲んだ部分)。
また左上の歯(〇)もブリッジから外れて虫歯になっており、残存歯根長は8~9mmしか残っておらず厳しい状態
でした。
Sさんは入れ歯ではなく固定性のブリッジを希望されていましたが、右下奥は長く感染した状態で歯を放置して
いたため、インプラントを埋入するために必要な骨の高さも幅も不足していました。

まずはインプラント以外の歯の治療を進めていき、左上奥の残根は歯根長も8~9mmと保存の限界でしたが、
この歯を保存することでブリッジの支えを補強できると考え、矯正的挺出を行い保存に努めました。

左上4矯正的挺出

初診から7ヵ月後の状態です。保存予定の歯の治療はすべて終了しています。

 保存予定歯の治療終了時

ここからまずは右下奥にGBR(骨造成)、次いで左下奥の抜歯即時インプラント埋入を行っていきました。
右下奥はGBR後8ヵ月骨の造成を待ち、今月ようやくインプラントの埋入を行いました。

初診時、現在(治療途中)の口腔内写真と下顎左右臼歯部のインプラントの状態です。

初診時及び現在の口腔内

ここから3ヵ月待って右下奥に冠を装着するまでの間、右上下前歯のホワイトニングを行う予定です。
GBRにより右下奥に骨が造成される8ヵ月の待機期間を含め、初診から2年近くかかってはいますが、
初診時に比べると歯も歯ぐきもきれいになっているのがわかるかと思います。

医療系のお仕事をされているSさんですが、私の治療に全幅の信頼を寄せて下さっていますので、当たり前
のことではありますが、決して抜かりのないようひとつ一つの処置をよく考え、丁寧に積み重ねてきました。

特に経年的に残存歯がインプラントに置き換わっていくことのないよう、歯を守るためにインプラントをうまく活用
しようと考えると、インプラントの外科の技術は勿論、欠損歯列の見立て(補綴的な知識)や咬合力のコントロール、
歯根破折、歯周病の治療における知識、技術も持ち合わせておくべきで、まさに歯科医師としての総合力が
問われると考えています。

まだ40代のSさんがこれまでのようにお口の中にコンプレックスを持つことなく、人前でも大きく笑って会話が
でき、おいしものを無理なく何でも食べられるよう、今後10年、20年と長期維持を目指し、スタッフと一緒に
サポートしていきたいと思いますので、Sさん、今後も長くお付き合いくださいね。よろしくお願いします
2015.09.28

3.5本の歯根破折歯に対し、3本のインプラントで対応したTさんのケース

 皆様いかがお過ごしですか、なえぼ駅前歯科の大村です。
昨日は中秋の名月きれいでしたね。私は家族で室蘭に行き、室蘭温泉ゆららの露天風呂から
港の景色を眺めて一日ゆったり、のんびりと過ごしました。

ところで先週のシルバーウィークはどのように過ごされましたか (*´∀`*)。
私は家族とニセコに行ったり(ビュープラザ→ソガダイニング→ミルク工房→綺羅の湯は我が家
の定番コースです)、映画を見たり、また久しぶりにテニスもしました。
勿論ランニングもしましたが、食欲の秋、おいしいものもいっぱい食べてしまいました(^^;
しばし仕事は忘れて5日間、完全OFFで過ごしました。

しばらくブログを更新しない間にいろいろなことがありました。
8月30日(日)に行われた北海道マラソンは頚椎ヘルニアが完治せず、だましだまし練習をして
臨んだのですが、やはり夏マラソンは甘くはなく、ゴールまで残り10kmを切った32~33キロ
地点であえなくバスに収容されてしまいました。

北海道マラソン出発前(T先生と)
 
      北海道マラソンスタート前(T先生とツーショット)

しかしながら初参加でいろいろな要領は掴んだので、来年は完走できるよう再チャレンジする
つもりです。今年から2万人近い参加人数となり、私のFブロック(早い人からA →B →・・・・→F
の順にスタートとなります)は、スタートの号砲が鳴ってスタートラインに行くまでに10分近く
かかりました(*゜д゜*)。

その後もしばらくダラダラと走らざるを得ず、関門通過制限時間はそのロスタイムを計算に
入れなければならないこともわかりました。それにしても沿道の応援はすごいですね、
感激しました。また給水、氷やスイカなどの補給食も至れり尽くせりで、そのお陰で30km過ぎ
まで粘ることができました。来年に向けて今年こそは冬場のランニング、ウェイト維持をと思う
次第です(*´∀`*)

話は変わりますが、現在英国で行われているラグビーW杯において、先日、日本代表が
南アフリカ代表に劇的な逆転勝ちを収めたことは皆さんご記憶に新しいことと思います。
10年、20年前は、50点差、100点差をつけられて負けていたことを知っているだけに、
感激はひとしおです。実は私の母校である函館ラ・サール高校も4度目の挑戦(3年連続で
決勝戦敗退)で、北海道の強豪札幌山の手の16連覇を阻みついに花園への切符を
手にしました!我々の時代は函館大有斗が強く、函館支部大会では50点くらい差を
つけられて負けていたものです。

体格、パワー、技術では劣っていても、良き指導者の元、日々真摯に鍛錬し、スピード、スタミナ
に磨きをかけ、気迫と相手の弱点を研究し頭を使ったプレーで歴史を変えてくれました゚(゚´Д`゚)゚
日本代表にはぜひサモア、アメリカを撃破してもらい、決勝トーナメント出場を果たして
もらいたいと思います。また母校のラガーマンも憧れの花園ラグビー場で悔いのないよう、
自分達の持てる力をしっかり発揮して頑張ってほしいと思います。

かなり前置きが長くなってしまいましたが(^^; 、本日は10年前に当院に来院され、
その後5年間来院がなく、平成23年、歯根破折を起こして来院されたTさん(50才代後半)
のお話をさせていただきます。Tさんは今回すべて歯根破折が原因で、計3.5本が抜歯と
なってしまいました。

平成23年再初診時
              
            平成23年再初診時レントゲン写真(矢印が歯根破折を起こしていた歯)

今回歯根破折を起こした小臼歯(3本)と下顎第一大臼歯の近心根(2根のうちの1根、0.5本)は
いずれも歯根破折のリスクが高い部位であり、Tさんの場合はそれに加えてもともとの噛み合わせの
関係で、犬歯ガイドがなく(歯を噛んだ状態から横に動かした時に犬歯で噛まない状態)、小臼歯に
負担がかかりやすかったことが歯根破折の原因となりました。

今なら、i-TFCファイバーコア(保険外治療)をもっと積極的にご提案したと思います(矯正治療は
はなから希望されませんでした)。ちなみにi-TFCファイバーコアは当院に導入してから5年経っており、
これまで何百本と難しい歯に入れていますが、今のところ歯根破折や脱離のトラブルは1ケースも
ありません

10年前、Tさんはすべて保険診療での治療を希望されましたので、私も保険でできる精一杯の
治療を行って治療終了としました(10年前の上は初診時、下は治療終了時のレントゲン写真)。

 初診時

                         10年前の初診時レントゲン写真

治療終了時
                                 
                             同治療終了時

赤矢印の小臼歯(今回歯根破折を起こした歯の一つ)は噛み合せの面に白い詰め物がされただけ
になっており、1歯前の犬歯部に歯がない(犬歯ガイドがない)ことと相俟って、同部に楔の咬合力が
かかり歯根破折を起こすリスクを説明し、部分的に被せる治療を勧めたのですが、Tさんは削ることに
抵抗があったのか治療を受けたがらず、結局この歯だけは治療をしませんでした。

ところでTさんの場合、インプラントのご提案を承諾されたため、破折歯の接着保存治療は行って
いません。歯が割れた大きな原因が前述したように犬歯ガイドがない噛み合わせにあり、
割れた歯を仮にうまく残せたとしても、今後もその歯に負担がかかる状況を大きく変えることが
できません。そのため強固なインプラントで対応することにしました。

但し、強固なインプラントと噛み合う歯が失活(神経を取っている)歯である場合は、噛み合う歯の
歯根破折に注意しなければなりません。そのためできるだけ特定の弱い歯に負担がかからないよう、
噛み合せのバランスには細心の注意を払い、冠、ブリッジを作製しました。

またCT撮影を行ったところ、インプラント埋入部位は3箇所とも骨のボリュームが思った以上に
足りず、結局すべてGBR単独で骨造成を行った後、インプラント埋入となりました。

埋入後3年が経過した現在の状態です。
上の左右のインプラントは、隣接する失活歯にできるだけ負担がかからないよう、インプラントでガイド
させるようにしました(前歯部は切端咬合に近く十分ガイドしていません)。

3年経過した現在のインプラントの状態

                     3年経過したインプラント部のレントゲン写真

現在メインテナンス治療を継続中ですが、Tさんは今回のインプラントを機会にタバコをやめられ
ました。インプラントの予後にとって良いのみならず、全身の健康にとっても非常に良いことですが、
よく決断、実行されたと思います 

唯一の心配は夜間の歯ぎしりが少しあると思われることで、ナイトガードの装着をお勧めしている
のですが、今のところは使用を拒んでおられます(^^;。
しかしながら禁煙と同様、本当に自分の歯、インプラントを守るために必要だと思えば、
装着していただけると思っていますので、今後も長く良好にお付き合いをさせていただく中で、
粘り強く対応していけたら(笑) と考えています。
Tさん、よろしくお願いします(^_-)-☆


2014.01.26

インプラント治療に矯正治療を併用したケース(Part1)

 例年になく降雪量の多い日が続く今日この頃ですが、皆様いかがお過ごしでしょうか。
なえぼ駅前歯科の大村です。さて今年のブログ第一話は、インプラント治療に矯正治療を
併用した患者Iさんのお話をさせていただきます。
今年もなえぼ ほのぼのブログ、よろしくお付き合い下さい。

振り返ってみますと、これまで一度もインプラント治療の紹介はしていなかったようで、
ブログでは初登場ですが、今年はいろいろなインプラント治療例をアップしたいと思います。

私の場合、まずは重度歯周病罹患歯の再生療法や破折歯の接着再植法など、できるだけ
歯を残す治療や歯牙移植によるご自分の歯を有効に活用する治療をご提案することが
多いのですが、本日ご紹介するケースはさすがに保存治療は困難で、インプラント治療を
ご提案したケースです。

冬の富士
             冬の富士

 歯を喪失してしまうにはそれなりの理由があります。
例えば、ある特定の部位、歯の詰め物が取れやすい、冠が脱離する、歯が割れてしまうなど。
これらのトラブルは、単に治療技術の問題だけではないことも多く、この原因をしっかり
分析し対策を講じないと、結果、トラブルの連鎖から更なる歯の喪失を起こしてしまう
ことになります。

その原因はさまざまですが、一つは本ケースのように上下の歯並びの悪さや噛み合わせの
不具合があげられます。即ち、すべての歯にバランス良く噛む力がかからず、
ある特定の歯に大きな負担がかかってしまっているケースです。
本日お話させていただく患者 I さんは、この歯並びの悪さ、噛み合わせの不具合が
歯の喪失に大きく関与していました。
そのためインプラント治療と並行して矯正治療も行っています。
 
 患者 I さんは今から14年前、当院に来院されました。
主訴は右上前歯の冠が脱離したとのことでした。
歯根が短く保存は困難と思われたのですが、何とか残せないかとのご希望があり、
矯正治療にて歯を引っ張った(矯正的挺出)後、冠を被せました

初診時、矯正的挺出中
矯正的挺出中の当該歯

非常に短い根であったため、定期的な噛み合わせ(咬合)のチェックと調整は
必須とお伝えし、しばらくは定期的に来院されていたのですが、
その後来院が途絶えてしまい 平成22年、5年ぶりに再び冠脱離で来院されました。
来院された際には、咬合調整してあった冠は、下の前歯に大きく突き上げられる状態に
なってしまっており、調整後、一旦は I さんのご希望通り付け直したのですが、

初診から11年後、抜歯前
抜歯前の当該歯

再来時にすでにひびが入っていたため短期間で再度脱落し、現状を再度お伝えしたところ
インプラントでの治療をご希望されました。

抜歯後の冠と歯
抜歯した歯と冠

非常に短い歯根であり、5年間メインテナンスにも来院されていませんでしたが
11年間保存、維持することができました。

インプラントオペ時

インプラントオペ終了時の写真です。埋入部位の骨を拡げながらできるだけご自分の
骨を温存しつつ、GBRによる骨の再生処置も併用しました。
歯のないところの向かって左側の下の前歯が歯列不正により、前に出ているのがわかると
思います。この歯によって突き上げられた噛み合せになっていたことが、結局この歯と
噛み合っている上の前歯を失う原因となりました。

オペ2週間後、抜糸時

オペ後2週間、抜糸時の状態です。
歯ぐきはきれいに治癒しているのがわかると思います。

ブラケット装着時

ここから上下の矯正治療を行いました。

オペ後 7ヶ月
 埋入後7ヶ月

セラミック 装着後
インプラントにセラミックが装着された状態

セラミック装着時の写真ですが、歯列不正を改善したことにより、下顎前歯の歯ぐきの
ラインが術前に比べるときれいに揃っていることがわかると思います。
矯正治療を行うことで、以前のようにインプラントのところにだけ噛む力が集中する
ことなく、全体にバランス良く噛むことができるようになっています。

保険診療では両隣のきれいな前歯を削って被せるブリッジの治療しかできません。
また下の前歯の歯列不正がそのまま放置されますので、今度は装着されたブリッジに
トラブルを生じ、長期的には冒頭で述べたトラブルの連鎖から更なる歯の喪失を起こして
しまうことが想像されます。

I さんはまだまだお若く、これから50年くらいご自分の歯を大切にして長く付き合って
いかなければなりません。インプラントはご自分の歯と同様、あるいはそれ以上に
メインテナンスが非常に大切です。今後も末永く当院にメインテナンス来院され、
ご自分の歯もインプラントも大切にケアしていただきたいと思います