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2019.01.05

複数歯に歯根破折を認めた咬合力の強い欠損歯列の一例

 新年あけましておめでとうございます11733913.gif 、なえぼ駅前歯科の大村です 21777023.gif

皆様、年末年始はいかがお過ごしでしたでしょうか。
正月も休まずお仕事をされていた方、また4日が仕事始めだった方も多くおられると思います。
私は、診療自体は7日からなのですが、年越しの残務が山積みで昨日から病院に出勤しています。

お正月に食べ過ぎた分、昨日からまた食事制限とジムでのランニングを開始、昨日はいきつけの
「ステラはり・灸整骨院」にも行ってきました。少しずつ正月のオフモードから仕事モードに切り替えているところです。
今年も「なえぼほのぼのブログ」で、皆様よろしくお付き合いください。

さて本日は、2019年新春最初の症例として、昨年暮れに2年がかりでようやく治療が終了したSさんのお話を
させていただきます。遠路日高から、自分の歯がどんどんなくなってしまうのではないかという切実な思いを持って
来院されたSさんのお気持ちを汲んで、4本の破折歯や予後の難しい残根上の失活歯をどうするか、時間をかけて
よく考えながら治療を進めた症例です。

正直なところ、10年前の臨床レベルでは同様の治療はできませんでした。これも患者さんとの巡り合わせであり、
ご縁なのではないかと思います。

こうやってブログを書くために、自分が行ってきた治療をカルテ等の資料を見ながら検証するという作業は、
大変手間のかかる作業ではあるのですが、時間をかけることであらためていろいろなことに気づかされます。

頭の中に患者さんお一人おひとりの口腔内、歯の状態や治療内容等がすべてインプットされていると思っていても、
実際に検証してみると間違って記憶していたり、思い込んでいたりすることもあります(Sさんのケースでも一つ
大きな思い込みがありました  、後述)。

また、まとめた治療内容を研究会や学会等で発表することで、気づかなかったことに気づかされたり、
客観的なあるいは別な視点からの貴重なご意見をいただくこともあり、それらはすべてその患者さんに、私自身に、
そして次の患者さんに活かされていきます。

Sさんは、2016年当時、「今年に入ってからあっちこっちが外れ、地元に通っていたがすぐ抜歯されてしまう」
とのことで、ネットで調べて当院に来院されました。
当院に来院される前、札幌市内の別な歯科医院に行かれたそうですが、治療が難しいと言われたとのことでした。
頻繁に仮歯が外れるのでまず何とかしてほしい、歯はできるだけ残してほしい、固定性のブリッジを希望とのことでした。

初診時のレントゲン写真です。

初診時のレントゲン写真

画面向かって左下の歯式の見方ですが、
右上 左上 で(向かって左上が実際のお口の中では右上)、前から順番に1、2、3番となっています。
右下 左下
1、2は前歯、3は犬歯、4、5は小臼歯、6、7は大臼歯です。
赤丸のところはレントゲン等の診査で、歯根破折もしくは歯根破折の疑いがある歯です。

次に初診時の口腔内ですが、噛み合わせが低くなっていることによる上の前歯の突き上げと咬合力(大まかに、
歯ぎしり、噛みしめ(これらはブラキシズム)の力、咀嚼力の総称)により、仮歯の破損、脱離を繰り返していました。

初診時の口腔内

また残存歯は失活歯(神経を取った歯)が多く、いずれも残存歯質が脆弱でフェルール(歯肉縁上の歯質)がなく、
歯根破折や穿孔を伴っている歯を多く認めました。

1歯ごとの状態

ひとまず仮歯の脱離が喫緊の問題であったため咬合挙上を行い、上顎前歯部の根管治療と高さが確保されたi-TFCファイバー
コアを装着しました。

治療の最初のステップ

                       治療のファーストステップ

歯根破折を起こしている歯は一般的には抜歯されるか、消極的な経過観察(持たせられるところまで持たせる)となりますが、
Sさんの場合、そのような治療を行うと、上顎は大掛かりなインプラントもしくは総義歯への道へと進みそうな状況でした。

歯根破折歯を抜歯した場合の治療の見立て(予測)

             歯根破折歯を抜歯した場合の治療の見立て(予測)

遠方からの来院、難易度の高い口腔内、歯をできるだけ残して固定性のブリッジでという患者さんのご希望に沿いつつ
結果を求められたら、札幌市内の別な歯科医院さんのように、治療は難しいとやんわり断られるのが普通だと思います
(むしろ良心的な歯科医院さんだと思います)。

さて、どのようにして治療を進めていったか。
治療の経過と結果、現在の状況は、次回の「なえぼほのぼのブログ」であらためてご報告させていただくこととし、本日は
ここまでとさせていただきます。

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2018.12.17

治療方針に悩んだ重度慢性歯周炎患者さんの治療例(再生療法、歯牙移植)

 札幌もすっかり寒くなりましたね。
皆様いかがお過ごしでしょうか、なえぼ駅前歯科の大村です。
12月8、9日の両日は仕事で東京に行っておりました。
9日(日)には東京に住む長男たちと丸の内ビルでランチを予定していたのですが、待ち合わせ時間まで1時間以上
時間があったので、皇居を散策してきました。ちょうど皇居敷地内の乾通りが一般開放されており、多くの人が皇居を
訪れていました。当日は10℃と東京としては寒かったようなのですが、札幌と比べると別世界!札幌の10月上旬の
気候でまだ紅葉が見られました。

乾門と乾通りの紅葉

京橋、日本橋、銀座方面はたまに仕事で行くことがあり八重洲口は利用するのですが、東京駅の顔とも言うべき丸の内側は
2012年10月の保存・復原工事が完了してからは初めてでした。一番下の娘がくまモンの大ファンで(笑)、いつも銀座の
くまモン館でお土産を買うのが我が家の恒例となっており、時間があれば上野美術館のフェルメール展や湯島天神にも
行きたかったのですが今回はお預けとなりました 

今年も残すところあと2週間。新年をきれいな歯で迎えていただくため、年末いつも以上に忙しくしていますが
(加えて週末は忘年会のはしごですが、笑)、本日は2016年に冠が外れたとのことで来院されたNさんのお話をさせて
いただきます。

下はNさんの初診時の状態です。

患者Nさんの初診時の状態
                          Nさんの初診時の状態

詳しく診査を行った結果、右下奥(向かって左下奥)のブリッジが外れているだけではなく、上の左右5番の歯(いずれも延長
ブリッジの支台歯)が歯根破折、左下奥のインプラントが重度のインプラント周囲炎に罹患していました。更に右上奥(6番)も
ブリッジを外してみると3つの根がバラバラに割れてしまっており、一部の根には破折線も認めました。

Nさんは固定性のブリッジを希望していましたが、上の支えが足りないためインプラントによる増員を考えました。

上顎のブリッジの設計は?
インプラントによるブリッジ設計①です(〇、△のところがインプラント予定部位)。インプラントは左右臼歯部に4本埋入。

インプラントによるブリッジ設計第一案
次にインプラントによるブリッジ設計②を考えてみました。この案だとインプラントは右上奥の2本で済みます。

インプラントによるブリッジ設計第二案
しかしながら前歯部だけのブリッジだと、いずれの場合も右上犬歯(3番)の負担が大きいと思われ、万一この歯が
歯根破折で抜歯となった場合、2番も抜歯となって更に2~3本(計4~5本のインプラント)の追加が必要になりますが、
そのインプラント自体が前歯の骨の幅がかなりないため埋入が難しく、万一の時の次の一手はインプラントでリカバリー
が困難という事態が想像されました。

私も歯を守るため欠損部分にインプラント治療を勧めることがありますが、Nさんの場合はインプラントをうまく活用する
ことが難しいケースと判断しました。

右上6の治療経過

左下5の治療経過

現在初診から2年経過し、治療は終了しています。
初診時重度であった歯周炎もきれいに改善し、健康な歯周組織を取り戻しています。

治療終了時レントゲン写真

                      治療終了時レントゲン写真

結局、インプラントを使って上の受け止める側を増員するのではなく、歯牙移植を応用し、上下左右で受け止める側の
バランスを整え、上顎はすべての残存歯を連結固定しました。

治療終了時口腔内

                      治療終了時口腔内写真

また受け止める側を強化するだけでなく、加える側、咬合力のコントロールも併せて行っています。
Nさんの歯周病原性細菌に関しては、前回、前々回のブログでお話ししたPCR細菌検査を行った結果、
Aa菌、Pg菌とも感染しておらず、他のred complex(Pg菌に次ぐ歯周病原性の強い細菌と位置付けられている菌)
2菌種も數が少なく、結局除菌療法は行いませんでした。

これまで歯周病治療を受けたことがないとは言っても、プラークに対する感受性が高くなければ50代でここまで
歯周病は進行しません。仮に細菌に問題がないとすれば、体質とか遺伝によるものなのか、上顎は欠損歯列である
ため咬合性外傷の影響を受けて進行が早かったのか、疑問は尽きませんが、今後も注意深くメインテナンスを継続
していかなければならないことを再認識しました。

炎症と咬合力のコントロールを地道に継続し、Nさんには10年、15年とトラブルなく、良い状態を維持していって
ほしいと願っています。Nさん、今後も末永く当院に来院してくださいね 





  

  

  

 



Posted at 09:42 | 歯周治療 | COM(0) | TB(0) |
2018.11.17

歯周病治療におけるPCR細菌検査と除菌療法 Part2

 皆様いかがお過ごしでしょうか、なえぼ駅前歯科の大村です。
今年は例年になく初雪が遅く、札幌において観測史上最も遅い初雪は1890年11月20日ということですので、
128年ぶりの記録更新となるかもしれませんね。厳しい残暑もなく、また今のところそれ程寒くもありません
ので、例年になく長い秋を過ごせているのは何よりです。

本日、自院の診療は休みなのですが、午前中、他院さんでインプラントのオペとスタッフさん向けの勉強会を行い、
午後からは日本臨床歯周病学会北海道支部研修会に参加する予定です。

その前に苗穂新駅舎が本日オープンということで頑張って早起きし、こちらに来てみました~~(笑)

苗穂新駅舎(南口)

             苗穂新駅舎(南口)

私と同じように早朝から写真を撮る人も(笑)


苗穂新駅舎構内

             苗穂新駅舎構内

テレビ局の取材で構内はごった返し、カメラに写らないようスルーしながら改札口へと移動


なえぼ駅前歯科電飾広告

             なえぼ駅前歯科電飾広告

長田広告のデザイナーさんがかわいらしく作ってくれました!何とか新駅舎オープンに間に合いました


苗穂新駅舎南口に隣接した東西に25階建てのタワーマンションが来年3月から着工予定とのことですので、
少しずつ苗穂駅周辺も変わってくることと思います(これまでは良くも悪くも高層建築物がなく(笑)、辺りをぐるりと
見渡せたのですが)。

さて、本日は前回に引き続き、歯周病治療におけるPCR細菌検査と除菌療法についてお話しさせていただきます。
今日の話は前回のブログからお読みいただかないと、内容をご理解いただくことが難しいと思われますので、
お手数ですがまずは http://naebohonobono.blog.fc2.com/blog-entry-126.html をご一読いただけたら幸いです。

前回ご紹介した、平成18年当時、42才のSさん(侵襲性歯周炎と診断)と平成14年当時、36才のWさん(慢性歯周炎)は、
お二人とも10年近い未来院を経て当院に再来院されました。

お二人とも30代後半~40代前半の男性で、初診時、中等度~重度の歯周炎に罹患していたこと、喫煙者、
歯周病治療(歯周動的治療)は一旦終了した後未来院になっていること、未来院期間中のプラークコントロールは
不十分という条件が似たケースでありながら、その後の経過は大きく違っています。

当時、より罹患度が高く、進行しやすいと考えていたSさんの方は、10年後の再来時、虫歯で保存不可能となった
上顎前歯と右下智歯を除き、すべての残存歯が保存可能な状態で維持されていました。
再来院から2年8ヵ月経過した現在も、歯周組織は良好に維持されています。

患者Sさんの初診時

                          平成18年初診時

初診時全顎的に重度の歯周炎で、42才という年齢からも侵襲性歯周炎と考え、PCR細菌検査を行いました。

PCR細菌検査

その結果、Aa菌、Pg菌ともに感染を認めたため、アモキシシリン+メトロニダゾールにて除菌を行いましたが
(その直後から未来院)、最後まで内服薬を飲み切られたかどうか定かではありませんでした。
歯周基本治療が終了し、歯周動的治療も概ね終了した時点から(歯周基本治療で改善しており、歯周外科処置は考えて
いなかった)未来院となりました。

患者Sさんの10年後の再来時

                    平成28年再来時

う蝕の進行により、上顎前歯部と右下智歯は保存不可能となっていましたが、それ以外の残存歯はびっくりする程、
10年前の状態を維持していました。
Sさんに当時の除菌の話をお聞きしたところ、「先生の指示通り、薬はすべて飲み切りました」とのこと。
あらためてPCR細菌検査を行ったところ、Aa菌、Pg菌とも除菌されていました。

再検査(除菌後)

患者Sさん治療終了時

患者Sさん治療終了時(正面観)

         平成30年現在の状態

上顎はすべての残存歯をブリッジで連結固定し、左下奥に1本インプラントをお入れしてメインテナンス継続中。

「親から受け継いだ遺伝(体質)だと思っていたら、実は親からの菌の感染だった」
の例えではありませんが、Sさんの侵襲性歯周炎の病態はこれまでの経過から細菌学的要因が強かった可能性が
高いと推測されました。

ひとつだけ誤解のないようお伝えしておきたいのですが  、歯周病治療の基本はあくまで「歯肉縁上、縁下の
プラークコントロールの徹底」と「質の高いメインテナンスの継続」だと言うことです。

Sさんの場合、歯肉縁下の起炎物質(歯石など)の徹底除去が平成18年時に一度達成されていたこと、併せて
細菌学的要因が大きかったこと(未来院前にAa菌、Pg菌の除菌が達成されていたこと)、再来時、喫煙をやめて
おられたこと、咬合力が強くない(リスク因子としての外傷性咬合がない)ことなどが複合的に重なった結果として、
たまたま進行していなかったにすぎません(歯周病は薬で治る?とか、メインテナンスがなくても進行しない?と
くれぐれも誤解のないようにお願いします  )。

一方、Wさんの方は、36才時に27歯あった残存歯ですが、15年経った現在、7歯がすでに抜歯もしくは自然脱落し、
残っている歯もかなり厳しい状態になっています。

患者Wさんの治療終了時

                      平成14年治療終了時


 患者Wさんの再来時(H22年)

            平成22年再来時(8年ぶりの来院、その後再度未来院)


患者Wさん平成30年8月歯周治療開始時

                   平成30年8月歯周病治療開始時

喫煙、ストレス、噛みしめ等のリスク因子が歯周病の進行を助長したことに疑いの余地はありませんが、それにしても
歯周病の進行が早く、あらためて30代以降の重度慢性歯周炎と侵襲性歯周炎の線引きは難しいと感じています。

詳しく話をお聞きしたところ、家族内集積があるとのことでしたので、Aa菌、Pg菌の2菌種に関してPCR細菌検査を
行ったところ、Aa菌の感染はなく、Pg菌のみを認めました。

ところで歯周炎の進行に強く関与していると考えられている細菌は、同定されているもので10~20種類ありますが、
BML社のPCR細菌検査ではその中でも重要と思われている6菌種を調べることが可能です。

当院では6菌種すべてを調べる場合、Aa菌とred complexと呼ばれる3菌種(Pg菌はここに属している)の計4菌種、
もしくはAa菌、Pg菌の2菌種を調べる場合があります。歯周病原性の強い細菌として、特に問題とされているAa菌、Pg菌
なのですが、実は菌株によって病原性に差があることがわかっています。

例えばAa菌の罹患率は日本では低いのですが、海外では10~25%という報告があります(病原性の強くないAa菌に
多く罹患している)。またPg菌の罹患率は何と日本では40%くらいなのですが、そのうち重症化する症例は限られています。

日本でPg菌の罹患率が高いことから、BML社では細菌外膜のfimA線毛の遺伝子型(菌株)まで調べることができ、
6種類のうちⅡ型がもっとも病原性が強いことがすでにわかっています。次いでⅣ型、Ⅰ型と言われているのですが、
WさんはⅡ型ではなくⅠ型でした。

だんだん迷路にはまりこんできましたね(スイマセン)。
結論を簡単にお話しすると、Wさんの場合、遺伝的要因がおそらくまずあって、そこにⅠ型のPg菌が関与している
可能性がある。またリスク因子としての喫煙、外傷性咬合(噛みしめ)、ストレスが歯周炎の進行に複雑に絡み合っていると
考えられます。

歯周病は細菌と宿主の相互作用により発症する多因子性疾患

Wさんに除菌療法が有効かどうかは意見が分かれるところです。

私が侵襲性歯周炎もしくは重度慢性歯周炎と診断した患者さんに対してPCR細菌検査を行い、① Aa菌が検出されたり、
②Pg菌の対総菌数比率が大きかったり、③Pg菌のfimA遺伝子型がⅡ型(もしくはⅣ型)であった場合(Ⅰ型は?)、
内服による除菌療法を積極的に行うようになったのは、母娘でAa菌に感染していた患者さんの長期経過の違いが
きっかけでした。

ここで詳細は述べませんが、20才代で重度の歯周炎に罹患していた娘さんは、Aa菌(+)、Pg菌(-)で除菌療法を
行った結果、長期予後が極めて良好である一方、40才代で重度の歯周炎に罹患していた母親は、Aa菌(+)、Pg菌(+)
(後にこのPg菌はⅡ型であることが判明)の両菌に感染しており、そのため内服による除菌を勧めたにもかかわらず、
患者さんが消極的であったため抗生剤の局所投与のみでメインテナンスし続けた結果、6ヵ月以内のメインテナンスを
継続したにもかかわらずメインテナンスし切れず、20年間で4歯の喪失を余儀なくされました。

この苦い経験を通して現在は、PCR細菌検査の結果、①~③の場合、積極的に内服による除菌を勧めています。
私自身はFMD(Full Mouth Disinfection)や歯周ポケット内の局所投与では、歯肉深くに侵入している歯周病原性
細菌の徹底除菌は困難であり、歯周ポケット外からの再感染の可能性も否定できないと考えています。

ここまで長い話に最後までお付き合いいただきありがとうございました。
次回はPCR細菌検査、除菌療法に絡めてPart3ということで、重度歯周炎患者の治療例をみていただく予定です。
次回もまたお付き合いくださることを願っています 
Posted at 08:29 | 歯周治療 | COM(0) | TB(0) |
2018.11.06

歯周病治療におけるPCR細菌検査と除菌療法 Part1

  皆様いかがお過ごしでしょうか、なえぼ駅前歯科の大村です。
今年も残すところあと2ヵ月弱、1年間全力で診療に取り組んできましたが、昨年同様、今年も充実した1年を過ごすことが
できたのは、ひとえに常日頃、私を献身的に支えてくれるスタッフのお陰と本当に感謝しています。
 
本日、今年最後のランチ会を南3条西9丁目にあるフレンチビストロのお店  ヴァンセット ケイ(Vingt-Sept.K)
http://www.vingtseptk.com/)で行いました。

ヴァンセット ケイ

皆の笑顔は私の喜びでもありますので、これからも健康管理には気をつけつつ、「スタッフの満足なくして患者満足は
あり得ない」を院長として肝に命じながら、共に成長していけたらと思っています。

早速ですが、今日は前回のブログでも予告した、歯周病治療におけるPCR細菌検査と除菌療法のお話をさせていただきます。
すでにご存知の方も多いと思いますが、歯周病は歯と歯肉の境目(歯肉溝)に付着したプラーク(歯垢)中の細菌が原因です。
プラーク中には700種類と言われる細菌が存在していますが、その中でも10~20種類の歯周病原性の強い細菌の存在が
明らかになっており、一般的に歯周病治療は「歯肉縁上、縁下のプラークコントロール」をいかに徹底できるかが成功の鍵と
なります。

しかしながら、多くの歯周炎患者(ほとんどの患者さんは40才くらいから徐々に進行していく慢性歯周炎)の中には、全身的
には健康であるにもかかわらず、10代、20代から歯周炎を発症し急速に進行していく、いわゆる侵襲性歯周炎と思われる
患者さんがおられます。

歯周病の分類

侵襲性歯周炎患者の特徴として、家族内集積が見られることが多く、歯周病原性の高いAa菌、Pq菌による感染(細菌学的
要因)や宿主の防御機構の低下、免疫応答の異常(遺伝的要因)、あるいはその両者の複合が指摘されています。


歯周病は細菌と宿主の相互作用により発症する多因子性疾患


             歯周病は細菌と宿主の相互作用により発症する多因子性疾患


このようなごく一部の特殊な歯周炎患者に対しては、プラーク細菌の量をコントロールするのみならず(わずかなプラーク
の付着でも問題となり得る可能性があるため)、質のコントロール、即ち細菌叢を変える(歯周病原性の強いプラーク細菌を
除菌する)ことで、より良い歯周組織の治癒と長期維持が可能になるのではないかと考え、日本の一般臨床医が歯周病原性
細菌のPCR細菌検査を初めて行えるようになった(BML社に委託できるようになった)2000年当初から、当院では主に
侵襲性歯周炎と思われる患者さんに対し、細菌検査と除菌療法を行ってきました。

今日ご紹介する患者さんは平成18年当時、42才のSさんと、同じく平成14年当時、36才のWさんで、お二人とも10年近い
未来院を経て当院に再来院されました。

当時、Sさんは侵襲性歯周炎、Wさんは慢性歯周炎と考えており、Sさんの方が罹患度も高く、進行性もあると考えていました。
同年代の男性、喫煙者、歯周病治療(歯周動的治療)は一旦終了していること、未来院期間中のプラークコントロールは
不十分という共通する条件が多いにもかかわらず、その後の経過は大きく違っています。

それは何故なのか?
侵襲性歯周炎のSさんの病態(原因や発症機序)はどのように考えられるか(歯周病原性の強い細菌の感染が原因?体質?)、
30代以降の侵襲性歯周炎と慢性重度歯周炎の線引きは難しいという話は、次回Part2でさせていただきます 


患者Sさんの初診時
           患者 Sさんの初診時  ×は保存困難なため抜歯、△は部分的に抜根


Sさんは歯周基本治療を終了(概ね歯周動的治療も終了)したあたりで、職場が苗穂から移動となり来院が途絶えました。
初診時の年齢と罹患度の高さから侵襲性歯周炎と考えていましたので、PCR細菌検査を行ったところ、予想していたAa菌、
Pg菌共に感染していることが判明したため、来院が途絶える直前に、アモキシシリン+メトロニダゾールにて除菌療法を
行っていました。

しかしながら、服用中に確か吐き気か下痢の症状が出たとのことでお電話をいただき、結局そのまま?来院が途絶えて
しまったため、最後まで飲み切られたかどうか定かではありませんでした(1週間連続投与を行い、その間、歯周ポケット内
のMIC90(90%の最小発育阻止濃度)を維持することが必須ですので、途中で服用し忘れてしまったり、自己判断で中止
してしまうと効果が発揮できなくなります)。

患者Sさんの10年後の再来時


10年後に突然、前歯が取れたとのお電話があり、驚きと嬉しさの反面、「ああ、やっぱりかなり歯周病が進行してしまった
んだな~」と想像(上の前歯は歯周病の進行で自然脱落したと考えた)。
しかしながら再来時のレントゲンを10年前(初診時)のレントゲンとよく比較しながら診てみると、上顎前歯部と右下
智歯は歯周病ではなくう蝕の進行により保存困難となっており(上顎前歯部は嚢胞も大きくなっていた)、他のすべての
歯の歯周病は・・・!!

その後、2年8ヵ月経過した現在の状態は次回のPart2でご覧いただきます 

一方、Wさんの方ですが、下は平成14年に全顎治療を終了した時のレントゲン写真です。

患者Wさんの治療終了時

当時Wさんは36才でしたので、歯周病に対する罹患度は高く、赤矢印の部位には5~6mmの歯周ポケットも残存して
いたため、引き続き注意しながらメインテナンスしていこうと考えていましたが、何回かメインテナンス来院された後、未来院
となりました。

患者Wさんの再来時(H22年)


8年ぶり、44才時のWさんのレントゲン写真です。36才当時の罹患度から想像していたより歯周病はかなり進行していました。
またそれ程欠損がない(3歯欠損、27歯残存)にもかかわらず、全体に垂直性の骨吸収像を示しており、噛みしめ等の
ブラキシズム、喫煙、仕事のストレスがリスク因子となっているのではないかと考えました。

再来時口腔内写真(H22.4)

再度歯周病治療のモチベーション、ブラッシング指導を行い、全顎を6回に分けて、私自身が浸麻、スケーリング・ルートプレー
ニングを行いました。しかしながら元々痛みにとても弱いWさんは、このあたりで一度お休みしたいということになってしまい、
結局そのまま中断となってしまいました。

そこから更に6年後、H28年にWさんから再びご予約のお電話がありました。

患者Wさんの再来時(H28年)

6年の間、道東に転勤となり、転勤先で5本(×の部位)の抜歯処置を受けたとのことでした・・・

当初は慢性歯周炎と診断していたWさんの14年間の経過における歯周病の進行の速さ、またあらためて問診をお取りすると
実は家族内集積があること、Sさんとの経過の違いなど、歯周病を専門に行っている歯科医師にとっては興味深いものが
あります。

痛みにとても弱く、ご自分の歯に対するあきらめも相俟って、再来院後も治療に積極的になれない状態が2年近く続きました。
その間、Wさんの気持ちに寄り添いながら応急処置にて対応してきましたが、右上奥歯の2本が相次いで自然脱落
今年8月からようやく少しずつ歯周病治療を再開しており、先日WさんもPCR細菌検査を行いました。

さて、ここまで話がかなり長くなってしまいました。
専門的過ぎる話に最後までお付き合いいただきありがとうございます 
この続きは次回のPart2であらためてお話しさせていただくこととし、本日はここまでとさせていただきます。




Posted at 16:55 | 歯周治療 | COM(0) | TB(0) |
2018.10.29

破折歯の接着保存治療にインプラントを併用したケース( K さんの治療例)

 10月も残すところわずかとなりましたが皆様いかがお過ごしでしょうか、なえぼ駅前歯科の大村です。
この時期は紅葉が見どころで、先週は平岡樹芸センターにモミジを、昨日は北13条門から入った北大の銀杏並木を
見てきました。11月に入り紅葉が散り始めると、北海道も短い秋に終わりを告げ、初雪の便りと共に冬の到来となります。
もうすぐ長くて寒い冬ですね~(笑)。

本日は前回のブログでもお伝えした、左下奥の歯が割れているので治療の相談をしたいと、昨年来院されたKさんの
お話をさせていただきます。主訴である左下奥のレントゲン写真です。

初診時左下奥

         初診時の左下奥

歯根は完全に割れて感染が進行しており、歯根周囲に骨吸収を起こしていました。右下、左下ともそれぞれ大臼歯2歯が
すでに喪失しており、通常奥歯は左右計8歯で噛む力を支えるところ、Kさんの場合は4歯で支えていましたので、
一番負担のかかりやすい最後臼歯で歯根破折を起こしたものと思われました。

まずは割れた歯の接着保存治療を行い、

症例2 接着再植術中

接着再植後

          接着再植後

破折歯周囲の骨が改善してきていることを確認した後その奥に1本、更に右下奥にも1本インプラントを追加しました。

インプラント植立後

          右下奥、左下奥にインプラント埋入後

こうすることでこれまで奥歯は左右4歯で支えていたところ、6歯で支えることができるようになり(一番負担がかかる
最後臼歯はインプラント)、結果、歯根破折歯を含めた残存歯の負担は軽減されます。

ここまでの治療を終了後、あらためて全顎のレントゲン撮影と歯周組織検査を行ったところ、左上奥の小臼歯に
金属ポスト先端に至る7mmの深い歯周ポケットを認めました。

初診時の左上5

冠を外したところ、全体にフェルール(歯肉縁上の健全歯質)がなく、近心側(向かって左側)においては歯肉縁下
4mmに及ぶ深い歯の欠損とその下に破折線も認めました。

左上5土台除去後

       冠除去後の左上奥

そのためまずは矯正治療による歯の挺出を4mm行い、その後近心側のみ生物学的幅径を確保するため、2mm程度の
骨切除(歯冠長延長術)を行いました。部分的に骨切除を併用することで、できるだけ骨支持量が少なくならないように
しました。

左上5矯正的挺出+歯冠長延長術

術後(ファイバーコアセット済)の状態です。初診時と比較し、歯肉縁上に健全歯質がしっかり確保されています。

矯正的挺出+歯冠長延長術後

 矯正的挺出+歯冠長延長術後の左上奥

またKさんの右上奥の大臼歯には重度の歯周病(すべてⅢ度の根分岐部病変)が認められました。
初診時の右上6

外側の根(頬側2根)と内側の根(口蓋根)の間で歯周病が進行しているだけでなく、外側の根の外側や根と根の間に
おいても骨支持が少ないことから、頬側2根の予後は不良ということで抜歯してインプラントを選択する先生もおられる
ことと思います。

しかしながらKさんはできるだけ長く歯を残していきたいというご希望がありましたので、少しでも付着の獲得と骨の再生
を期待して、歯周外科処置時に再生材料(エムドゲイン)を使用しました。頬側遠心根は根尖近くまで歯根が露出して
いましたので、歯周外科処置後に更に歯ぐきの退縮が進んで根尖が露出しないよう結合組織移植も併用しました。
術前と術後3ヵ月の状態です。

右上奥の現在

治療終了時の上下左右臼歯部のレントゲン写真です。

治療終了後の上下左右臼歯部

                 治療終了時の上下左右臼歯部

左上奥は矯正治療終了から2ヵ月半ですので、まだ根尖の引っぱり上げた部分(赤矢印)に骨ができていません。
右上奥も歯周外科処置後3ヵ月半ですので、ここから少しでも骨が再生されることを期待してメインテナンスを継続して
いきたいと考えています。

私も決してやみくもに歯を残そうとは考えておりませんし 、自分の中での歯の保存の限界は勿論あります。
HPやこのブログをご覧になって、一縷の希望を持って来院して下さった患者さんに「残念ですが保存は難しいです」と
お話しすることもたまにあります
しかしながら予後が難しいと思われる歯に対して、最善と考える治療を行い保存に努めますと、当初は長く持たないと
思われていた条件の厳しい歯であっても、5年、10年、15年と思った以上に長く持つということを経験しています。

治療が難しく、たぶん予後が悪かろうということで安易に抜歯してしまったり、その歯を本気で残すためにベストを
尽くさない治療では、本当の意味での保存の限界を知ることも、もっとこうしておけば良かったという反省から学んだ
ことを、次の患者さんに活かすこともできないと思います。

どういう治療をもって“患者さんのため”というかは議論が尽きませんが、患者さんの主訴に耳を傾け想いを汲み、
できるだけ患者さんの望む治療を行った上で、長期維持という結果を出せるよう、これからもスタッフと共に
「患者さんの望む歯科医療の実践」に取り組んでいきたいと思います。

平岡樹芸センター紅葉(モミジ)の絨毯
    平岡樹芸センターの紅葉(モミジ)の絨毯

次回からは最近治療を終了した重度歯周炎患者さんの治療例を何ケースか見ていただこうと考えています。
また侵襲性歯周炎、重度慢性歯周炎患者に対するPCR細菌検査、除菌療法に関しても、2000年から臨床に
取り入れてきた中で、現在当院ではどのように考え実践しているのか、少し踏み込んだお話しをさせていただきます
のでご期待ください