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2018.11.17

歯周病治療におけるPCR細菌検査と除菌療法 Part2

 皆様いかがお過ごしでしょうか、なえぼ駅前歯科の大村です。
今年は例年になく初雪が遅く、札幌において観測史上最も遅い初雪は1890年11月20日ということですので、
128年ぶりの記録更新となるかもしれませんね。厳しい残暑もなく、また今のところそれ程寒くもありません
ので、例年になく長い秋を過ごせているのは何よりです。

本日、自院の診療は休みなのですが、午前中、他院さんでインプラントのオペとスタッフさん向けの勉強会を行い、
午後からは日本臨床歯周病学会北海道支部研修会に参加する予定です。

その前に苗穂新駅舎が本日オープンということで頑張って早起きし、こちらに来てみました~~(笑)

苗穂新駅舎(南口)

             苗穂新駅舎(南口)

私と同じように早朝から写真を撮る人も(笑)


苗穂新駅舎構内

             苗穂新駅舎構内

テレビ局の取材で構内はごった返し、カメラに写らないようスルーしながら改札口へと移動


なえぼ駅前歯科電飾広告

             なえぼ駅前歯科電飾広告

長田広告のデザイナーさんがかわいらしく作ってくれました!何とか新駅舎オープンに間に合いました


苗穂新駅舎南口に隣接した東西に25階建てのタワーマンションが来年3月から着工予定とのことですので、
少しずつ苗穂駅周辺も変わってくることと思います(これまでは良くも悪くも高層建築物がなく(笑)、辺りをぐるりと
見渡せたのですが)。

さて、本日は前回に引き続き、歯周病治療におけるPCR細菌検査と除菌療法についてお話しさせていただきます。
今日の話は前回のブログからお読みいただかないと、内容をご理解いただくことが難しいと思われますので、
お手数ですがまずは http://naebohonobono.blog.fc2.com/blog-entry-126.html をご一読いただけたら幸いです。

前回ご紹介した、平成18年当時、42才のSさん(侵襲性歯周炎と診断)と平成14年当時、36才のWさん(慢性歯周炎)は、
お二人とも10年近い未来院を経て当院に再来院されました。

お二人とも30代後半~40代前半の男性で、初診時、中等度~重度の歯周炎に罹患していたこと、喫煙者、
歯周病治療(歯周動的治療)は一旦終了した後未来院になっていること、未来院期間中のプラークコントロールは
不十分という条件が似たケースでありながら、その後の経過は大きく違っています。

当時、より罹患度が高く、進行しやすいと考えていたSさんの方は、10年後の再来時、虫歯で保存不可能となった
上顎前歯と右下智歯を除き、すべての残存歯が保存可能な状態で維持されていました。
再来院から2年8ヵ月経過した現在も、歯周組織は良好に維持されています。

患者Sさんの初診時

                          平成18年初診時

初診時全顎的に重度の歯周炎で、42才という年齢からも侵襲性歯周炎と考え、PCR細菌検査を行いました。

PCR細菌検査

その結果、Aa菌、Pg菌ともに感染を認めたため、アモキシシリン+メトロニダゾールにて除菌を行いましたが
(その直後から未来院)、最後まで内服薬を飲み切られたかどうか定かではありませんでした。
歯周基本治療が終了し、歯周動的治療も概ね終了した時点から(歯周基本治療で改善しており、歯周外科処置は考えて
いなかった)未来院となりました。

患者Sさんの10年後の再来時

                    平成28年再来時

う蝕の進行により、上顎前歯部と右下智歯は保存不可能となっていましたが、それ以外の残存歯はびっくりする程、
10年前の状態を維持していました。
Sさんに当時の除菌の話をお聞きしたところ、「先生の指示通り、薬はすべて飲み切りました」とのこと。
あらためてPCR細菌検査を行ったところ、Aa菌、Pg菌とも除菌されていました。

再検査(除菌後)

患者Sさん現在

                    平成30年現在の状態

上顎はすべての残存歯をブリッジで連結固定し、左下奥に1本インプラントをお入れしてメインテナンス継続中。

「親から受け継いだ遺伝(体質)だと思っていたら、実は親からの菌の感染だった」
の例えではありませんが、Sさんの侵襲性歯周炎の病態はこれまでの経過から細菌学的要因が強かった可能性が
高いと推測されました。

ひとつだけ誤解のないようお伝えしておきたいのですが  、歯周病治療の基本はあくまで「歯肉縁上、縁下の
プラークコントロールの徹底」と「質の高いメインテナンスの継続」だと言うことです。

Sさんの場合、歯肉縁下の起炎物質(歯石など)の徹底除去が平成18年時に一度達成されていたこと、併せて
細菌学的要因が大きかったこと(未来院前にAa菌、Pg菌の除菌が達成されていたこと)、再来時、喫煙をやめて
おられたこと、咬合力が強くない(リスク因子としての外傷性咬合がない)ことなどが複合的に重なった結果として、
たまたま進行していなかったにすぎません(歯周病は薬で治る?とか、メインテナンスがなくても進行しない?と
くれぐれも誤解のないようにお願いします  )。

一方、Wさんの方は、36才時に27歯あった残存歯ですが、15年経った現在、7歯がすでに抜歯もしくは自然脱落し、
残っている歯もかなり厳しい状態になっています。

患者Wさんの治療終了時

                      平成14年治療終了時


 患者Wさんの再来時(H22年)

            平成22年再来時(8年ぶりの来院、その後再度未来院)


患者Wさん平成30年8月歯周治療開始時

                   平成30年8月歯周病治療開始時

喫煙、ストレス、噛みしめ等のリスク因子が歯周病の進行を助長したことに疑いの余地はありませんが、それにしても
歯周病の進行が早く、あらためて30代以降の重度慢性歯周炎と侵襲性歯周炎の線引きは難しいと感じています。

詳しく話をお聞きしたところ、家族内集積があるとのことでしたので、Aa菌、Pg菌の2菌種に関してPCR細菌検査を
行ったところ、Aa菌の感染はなく、Pg菌のみを認めました。

ところで歯周炎の進行に強く関与していると考えられている細菌は、同定されているもので10~20種類ありますが、
BML社のPCR細菌検査ではその中でも重要と思われている6菌種を調べることが可能です。

当院では6菌種すべてを調べる場合、Aa菌とred complexと呼ばれる3菌種(Pg菌はここに属している)の計4菌種、
もしくはAa菌、Pg菌の2菌種を調べる場合があります。歯周病原性の強い細菌として、特に問題とされているAa菌、Pg菌
なのですが、実は菌株によって病原性に差があることがわかっています。

例えばAa菌の罹患率は日本では低いのですが、海外では10~25%という報告があります(病原性の強くないAa菌に
多く罹患している)。またPg菌の罹患率は何と日本では40%くらいなのですが、そのうち重症化する症例は限られています。

日本でPg菌の罹患率が高いことから、BML社では細菌外膜のfimA線毛の遺伝子型(菌株)まで調べることができ、
6種類のうちⅡ型がもっとも病原性が強いことがすでにわかっています。次いでⅣ型、Ⅰ型と言われているのですが、
WさんはⅡ型ではなくⅠ型でした。

だんだん迷路にはまりこんできましたね(スイマセン)。
結論を簡単にお話しすると、Wさんの場合、遺伝的要因がおそらくまずあって、そこにⅠ型のPg菌が関与している
可能性がある。またリスク因子としての喫煙、外傷性咬合(噛みしめ)、ストレスが歯周炎の進行に複雑に絡み合っていると
考えられます。

歯周病は細菌と宿主の相互作用により発症する多因子性疾患

Wさんに除菌療法が有効かどうかは意見が分かれるところです。

私が侵襲性歯周炎もしくは重度慢性歯周炎と診断した患者さんに対してPCR細菌検査を行い、① Aa菌が検出されたり、
②Pg菌の対総菌数比率が大きかったり、③Pg菌のfimA遺伝子型がⅡ型(もしくはⅣ型)であった場合(Ⅰ型は?)、
内服による除菌療法を積極的に行うようになったのは、母娘でAa菌に感染していた患者さんの長期経過の違いが
きっかけでした。

ここで詳細は述べませんが、20才代で重度の歯周炎に罹患していた娘さんは、Aa菌(+)、Pg菌(-)で除菌療法を
行った結果、長期予後が極めて良好である一方、40才代で重度の歯周炎に罹患していた母親は、Aa菌(+)、Pg菌(+)
(後にこのPg菌はⅡ型であることが判明)の両菌に感染しており、そのため内服による除菌を勧めたにもかかわらず、
患者さんが消極的であったため抗生剤の局所投与のみでメインテナンスし続けた結果、6ヵ月以内のメインテナンスを
継続したにもかかわらずメインテナンスし切れず、20年間で4歯の喪失を余儀なくされました。

この苦い経験を通して現在は、PCR細菌検査の結果、①~③の場合、積極的に内服による除菌を勧めています。
私自身はFMD(Full Mouth Disinfection)や歯周ポケット内の局所投与では、歯肉深くに侵入している歯周病原性
細菌の徹底除菌は困難であり、歯周ポケット外からの再感染の可能性も否定できないと考えています。

ここまで長い話に最後までお付き合いいただきありがとうございました。
次回はPCR細菌検査、除菌療法に絡めてPart3ということで、重度歯周炎患者の治療例をみていただく予定です。
次回もまたお付き合いくださることを願っています 
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Posted at 08:29 | 歯周治療 | COM(0) | TB(0) |
2018.11.06

歯周病治療におけるPCR細菌検査と除菌療法 Part1

  皆様いかがお過ごしでしょうか、なえぼ駅前歯科の大村です。
今年も残すところあと2ヵ月弱、1年間全力で診療に取り組んできましたが、昨年同様、今年も充実した1年を過ごすことが
できたのは、ひとえに常日頃、私を献身的に支えてくれるスタッフのお陰と本当に感謝しています。
 
本日、今年最後のランチ会を南3条西9丁目にあるフレンチビストロのお店  ヴァンセット ケイ(Vingt-Sept.K)
http://www.vingtseptk.com/)で行いました。

ヴァンセット ケイ

皆の笑顔は私の喜びでもありますので、これからも健康管理には気をつけつつ、「スタッフの満足なくして患者満足は
あり得ない」を院長として肝に命じながら、共に成長していけたらと思っています。

早速ですが、今日は前回のブログでも予告した、歯周病治療におけるPCR細菌検査と除菌療法のお話をさせていただきます。
すでにご存知の方も多いと思いますが、歯周病は歯と歯肉の境目(歯肉溝)に付着したプラーク(歯垢)中の細菌が原因です。
プラーク中には700種類と言われる細菌が存在していますが、その中でも10~20種類の歯周病原性の強い細菌の存在が
明らかになっており、一般的に歯周病治療は「歯肉縁上、縁下のプラークコントロール」をいかに徹底できるかが成功の鍵と
なります。

しかしながら、多くの歯周炎患者(ほとんどの患者さんは40才くらいから徐々に進行していく慢性歯周炎)の中には、全身的
には健康であるにもかかわらず、10代、20代から歯周炎を発症し急速に進行していく、いわゆる侵襲性歯周炎と思われる
患者さんがおられます。

歯周病の分類

侵襲性歯周炎患者の特徴として、家族内集積が見られることが多く、歯周病原性の高いAa菌、Pq菌による感染(細菌学的
要因)や宿主の防御機構の低下、免疫応答の異常(遺伝的要因)、あるいはその両者の複合が指摘されています。


歯周病は細菌と宿主の相互作用により発症する多因子性疾患


             歯周病は細菌と宿主の相互作用により発症する多因子性疾患


このようなごく一部の特殊な歯周炎患者に対しては、プラーク細菌の量をコントロールするのみならず(わずかなプラーク
の付着でも問題となり得る可能性があるため)、質のコントロール、即ち細菌叢を変える(歯周病原性の強いプラーク細菌を
除菌する)ことで、より良い歯周組織の治癒と長期維持が可能になるのではないかと考え、日本の一般臨床医が歯周病原性
細菌のPCR細菌検査を初めて行えるようになった(BML社に委託できるようになった)2000年当初から、当院では主に
侵襲性歯周炎と思われる患者さんに対し、細菌検査と除菌療法を行ってきました。

今日ご紹介する患者さんは平成18年当時、42才のSさんと、同じく平成14年当時、36才のWさんで、お二人とも10年近い
未来院を経て当院に再来院されました。

当時、Sさんは侵襲性歯周炎、Wさんは慢性歯周炎と考えており、Sさんの方が罹患度も高く、進行性もあると考えていました。
同年代の男性、喫煙者、歯周病治療(歯周動的治療)は一旦終了していること、未来院期間中のプラークコントロールは
不十分という共通する条件が多いにもかかわらず、その後の経過は大きく違っています。

それは何故なのか?
侵襲性歯周炎のSさんの病態(原因や発症機序)はどのように考えられるか(歯周病原性の強い細菌の感染が原因?体質?)、
30代以降の侵襲性歯周炎と慢性重度歯周炎の線引きは難しいという話は、次回Part2でさせていただきます 


患者Sさんの初診時
           患者 Sさんの初診時  ×は保存困難なため抜歯、△は部分的に抜根


Sさんは歯周基本治療を終了(概ね歯周動的治療も終了)したあたりで、職場が苗穂から移動となり来院が途絶えました。
初診時の年齢と罹患度の高さから侵襲性歯周炎と考えていましたので、PCR細菌検査を行ったところ、予想していたAa菌、
Pg菌共に感染していることが判明したため、来院が途絶える直前に、アモキシシリン+メトロニダゾールにて除菌療法を
行っていました。

しかしながら、服用中に確か吐き気か下痢の症状が出たとのことでお電話をいただき、結局そのまま?来院が途絶えて
しまったため、最後まで飲み切られたかどうか定かではありませんでした(1週間連続投与を行い、その間、歯周ポケット内
のMIC90(90%の最小発育阻止濃度)を維持することが必須ですので、途中で服用し忘れてしまったり、自己判断で中止
してしまうと効果が発揮できなくなります)。

患者Sさんの10年後の再来時


10年後に突然、前歯が取れたとのお電話があり、驚きと嬉しさの反面、「ああ、やっぱりかなり歯周病が進行してしまった
んだな~」と想像(上の前歯は歯周病の進行で自然脱落したと考えた)。
しかしながら再来時のレントゲンを10年前(初診時)のレントゲンとよく比較しながら診てみると、上顎前歯部と右下
智歯は歯周病ではなくう蝕の進行により保存困難となっており(上顎前歯部は嚢胞も大きくなっていた)、他のすべての
歯の歯周病は・・・!!

その後、2年8ヵ月経過した現在の状態は次回のPart2でご覧いただきます 

一方、Wさんの方ですが、下は平成14年に全顎治療を終了した時のレントゲン写真です。

患者Wさんの治療終了時

当時Wさんは36才でしたので、歯周病に対する罹患度は高く、赤矢印の部位には5~6mmの歯周ポケットも残存して
いたため、引き続き注意しながらメインテナンスしていこうと考えていましたが、何回かメインテナンス来院された後、未来院
となりました。

患者Wさんの再来時(H22年)


8年ぶり、44才時のWさんのレントゲン写真です。36才当時の罹患度から想像していたより歯周病はかなり進行していました。
またそれ程欠損がない(3歯欠損、27歯残存)にもかかわらず、全体に垂直性の骨吸収像を示しており、噛みしめ等の
ブラキシズム、喫煙、仕事のストレスがリスク因子となっているのではないかと考えました。

再来時口腔内写真(H22.4)

再度歯周病治療のモチベーション、ブラッシング指導を行い、全顎を6回に分けて、私自身が浸麻、スケーリング・ルートプレー
ニングを行いました。しかしながら元々痛みにとても弱いWさんは、このあたりで一度お休みしたいということになってしまい、
結局そのまま中断となってしまいました。

そこから更に6年後、H28年にWさんから再びご予約のお電話がありました。

患者Wさんの再来時(H28年)

6年の間、道東に転勤となり、転勤先で5本(×の部位)の抜歯処置を受けたとのことでした・・・

当初は慢性歯周炎と診断していたWさんの14年間の経過における歯周病の進行の速さ、またあらためて問診をお取りすると
実は家族内集積があること、Sさんとの経過の違いなど、歯周病を専門に行っている歯科医師にとっては興味深いものが
あります。

痛みにとても弱く、ご自分の歯に対するあきらめも相俟って、再来院後も治療に積極的になれない状態が2年近く続きました。
その間、Wさんの気持ちに寄り添いながら応急処置にて対応してきましたが、右上奥歯の2本が相次いで自然脱落
今年8月からようやく少しずつ歯周病治療を再開しており、先日WさんもPCR細菌検査を行いました。

さて、ここまで話がかなり長くなってしまいました。
専門的過ぎる話に最後までお付き合いいただきありがとうございます 
この続きは次回のPart2であらためてお話しさせていただくこととし、本日はここまでとさせていただきます。




Posted at 16:55 | 歯周治療 | COM(0) | TB(0) |
2018.10.29

破折歯の接着保存治療にインプラントを併用したケース( K さんの治療例)

 10月も残すところわずかとなりましたが皆様いかがお過ごしでしょうか、なえぼ駅前歯科の大村です。
この時期は紅葉が見どころで、先週は平岡樹芸センターにモミジを、昨日は北13条門から入った北大の銀杏並木を
見てきました。11月に入り紅葉が散り始めると、北海道も短い秋に終わりを告げ、初雪の便りと共に冬の到来となります。
もうすぐ長くて寒い冬ですね~(笑)。

本日は前回のブログでもお伝えした、左下奥の歯が割れているので治療の相談をしたいと、昨年来院されたKさんの
お話をさせていただきます。主訴である左下奥のレントゲン写真です。

初診時左下奥

         初診時の左下奥

歯根は完全に割れて感染が進行しており、歯根周囲に骨吸収を起こしていました。右下、左下ともそれぞれ大臼歯2歯が
すでに喪失しており、通常奥歯は左右計8歯で噛む力を支えるところ、Kさんの場合は4歯で支えていましたので、
一番負担のかかりやすい最後臼歯で歯根破折を起こしたものと思われました。

まずは割れた歯の接着保存治療を行い、

症例2 接着再植術中

接着再植後

          接着再植後

破折歯周囲の骨が改善してきていることを確認した後その奥に1本、更に右下奥にも1本インプラントを追加しました。

インプラント植立後

          右下奥、左下奥にインプラント埋入後

こうすることでこれまで奥歯は左右4歯で支えていたところ、6歯で支えることができるようになり(一番負担がかかる
最後臼歯はインプラント)、結果、歯根破折歯を含めた残存歯の負担は軽減されます。

ここまでの治療を終了後、あらためて全顎のレントゲン撮影と歯周組織検査を行ったところ、左上奥の小臼歯に
金属ポスト先端に至る7mmの深い歯周ポケットを認めました。

初診時の左上5

冠を外したところ、全体にフェルール(歯肉縁上の健全歯質)がなく、近心側(向かって左側)においては歯肉縁下
4mmに及ぶ深い歯の欠損とその下に破折線も認めました。

左上5土台除去後

       冠除去後の左上奥

そのためまずは矯正治療による歯の挺出を4mm行い、その後近心側のみ生物学的幅径を確保するため、2mm程度の
骨切除(歯冠長延長術)を行いました。部分的に骨切除を併用することで、できるだけ骨支持量が少なくならないように
しました。

左上5矯正的挺出+歯冠長延長術

術後(ファイバーコアセット済)の状態です。初診時と比較し、歯肉縁上に健全歯質がしっかり確保されています。

矯正的挺出+歯冠長延長術後

 矯正的挺出+歯冠長延長術後の左上奥

またKさんの右上奥の大臼歯には重度の歯周病(すべてⅢ度の根分岐部病変)が認められました。
初診時の右上6

外側の根(頬側2根)と内側の根(口蓋根)の間で歯周病が進行しているだけでなく、外側の根の外側や根と根の間に
おいても骨支持が少ないことから、頬側2根の予後は不良ということで抜歯してインプラントを選択する先生もおられる
ことと思います。

しかしながらKさんはできるだけ長く歯を残していきたいというご希望がありましたので、少しでも付着の獲得と骨の再生
を期待して、歯周外科処置時に再生材料(エムドゲイン)を使用しました。頬側遠心根は根尖近くまで歯根が露出して
いましたので、歯周外科処置後に更に歯ぐきの退縮が進んで根尖が露出しないよう結合組織移植も併用しました。
術前と術後3ヵ月の状態です。

右上奥の現在

治療終了時の上下左右臼歯部のレントゲン写真です。

治療終了後の上下左右臼歯部

                 治療終了時の上下左右臼歯部

左上奥は矯正治療終了から2ヵ月半ですので、まだ根尖の引っぱり上げた部分(赤矢印)に骨ができていません。
右上奥も歯周外科処置後3ヵ月半ですので、ここから少しでも骨が再生されることを期待してメインテナンスを継続して
いきたいと考えています。

私も決してやみくもに歯を残そうとは考えておりませんし 、自分の中での歯の保存の限界は勿論あります。
HPやこのブログをご覧になって、一縷の希望を持って来院して下さった患者さんに「残念ですが保存は難しいです」と
お話しすることもたまにあります
しかしながら予後が難しいと思われる歯に対して、最善と考える治療を行い保存に努めますと、当初は長く持たないと
思われていた条件の厳しい歯であっても、5年、10年、15年と思った以上に長く持つということを経験しています。

治療が難しく、たぶん予後が悪かろうということで安易に抜歯してしまったり、その歯を本気で残すためにベストを
尽くさない治療では、本当の意味での保存の限界を知ることも、もっとこうしておけば良かったという反省から学んだ
ことを、次の患者さんに活かすこともできないと思います。

どういう治療をもって“患者さんのため”というかは議論が尽きませんが、患者さんの主訴に耳を傾け想いを汲み、
できるだけ患者さんの望む治療を行った上で、長期維持という結果を出せるよう、これからもスタッフと共に
「患者さんの望む歯科医療の実践」に取り組んでいきたいと思います。

平岡樹芸センター紅葉(モミジ)の絨毯
    平岡樹芸センターの紅葉(モミジ)の絨毯

次回からは最近治療を終了した重度歯周炎患者さんの治療例を何ケースか見ていただこうと考えています。
また侵襲性歯周炎、重度慢性歯周炎患者に対するPCR細菌検査、除菌療法に関しても、2000年から臨床に
取り入れてきた中で、現在当院ではどのように考え実践しているのか、少し踏み込んだお話しをさせていただきます
のでご期待ください 

2018.10.20

破折歯接着保存治療歯の10年経過症例Part2( K さんのケース)

 今日は秋晴れの良い天気ですね。
皆様いかがお過ごしでしょうか、なえぼ駅前歯科の大村です。

もうご存知の方も多いと思いますが、苗穂駅が来月17日から300m程札幌側に移転します。
現在の苗穂駅舎は1935年(昭和10年)に建設されており、昭和の香りが漂う苗穂駅周辺の象徴とも言える
建造物でした。私が開業する前から駅移転の話はありましたので、ようやくという気持ちがある一方、
札幌駅の隣駅という恵まれた立地の中、昭和の風情が残された昔ながらの町並みは、それはそれで昭和男の私
からみれば趣のあるものでしたので一抹の寂しさも拭えません。
現苗穂駅も来年5月、平成から新元号への時代の流れと共に解体され姿を消すことになるようです。

秋晴れの苗穂駅
            秋晴れの苗穂駅
 
ちなみに当院も「なえぼ駅前歯科」ではなくなります(病院名は変わりませんが  )。
駅南口(北3東11)からは2丁、距離にして200m程離れてしまいますが(時速4km計算で徒歩3分)、
引き続きご愛顧の程、よろしくお願い申し上げます 

さて本日は、平成10年に当時33才で来院されたKさんの破折歯接着保存治療のお話をさせていただきます。
Kさんの治療は、当院HP、破折歯接着保存例(治療例3)にも掲載されていますが、初診時のレントゲン写真と
口腔内写真の赤矢印部分に、金属ポスト先端に至るU字型の歯根破折を認めました。
また青矢印のところには、埋伏している犬歯とそれに接している歯根部に外部吸収(穿孔)を認めました。
青矢印の先には穿孔部から増殖した歯肉が見えています。

初診時レントゲン写真

初診時の口腔内写真

この2本のうちどちらかでも残せないとブリッジ自体ができなくなり、Kさんは33才という若さで義歯を装着しなければ
なりませんでした。

当時はインプラントをまだ行っていませんでしたが、仮に両歯を抜歯してインプラントにするにしても、上顎洞底までの
骨の高さがかなり不足していますので、右上奥にサイナースリフト(上顎洞底挙上術)による骨造成手術を行った後、
あらためて4本くらいのインプラントを埋入する手術を行わなければ、インプラントによるブリッジはできないケースです。

何とかうまくブリッジができないものかと考え、まずは埋伏している犬歯を抜歯し、その後、歯周外科処置にて
穿孔部の封鎖と破折部分の接着修復処置を行いました。両歯の保存処置には接着性、生体親和性、耐久性に優れた
スーパーボンドを使用しました。

初診から12年後の同部のレントゲン写真と口腔内写真です。

初診から12年後のレントゲン写真

初診から12年後の口腔内写真

7年ぶりの再来で、さすがにブリッジは変色していましたが(保険の硬質レジンを使用)、破折線部は元々そこが
破折していたとは全くわからない程、深い歯周ポケットも生じることなく維持されていました。

Kさんは平成27年からしばらく来院されていませんが、破折歯の接着保存治療を行い保存に努めたことで、
33才から50才までの少なくとも17年間は右上を義歯にせず過ごすことができました。
平成10年の初診時、保存は不可能と切り捨てていたら、今頃もしかしたら義歯の鉤歯(バネがかかる歯)となる
右上奥歯や左上の前歯にも負担がかかって更なる抜歯を招いたかもしれません。

ところで、先日過去ブログ「破折リーマー(根管治療の器具)が問題となっていた2症例」 
http://naebohonobono.blog.fc2.com/blog-entry-101.html に掲載した患者Yさんが7年ぶりに
来院されました。
嬉しかったな~。
破折リーマーを除去して保存に努めた歯は、処置後17年経過していますが無事でした。

破折リーマー除去後17年の現在

当時20代だったYさんも40才になっていましたが、娘さんもすくすく成長され、あらためて母娘共々、プラーク
コントロールの大切さをお話させていただきました。今後は大切な娘さんの歯を虫歯にさせないよう、春、夏、冬
の休みごとに検診に来院されると共に、Yさんご自身も40代となり、これからのご自身の人生にとって大切な歯を
できるだけ守れるよう、検診にきていただけたらと思います。

Kさんもまた当院にご来院いただけることを心よりお待ちしています。
当院に来院される患者さんの歯が長期に渡って健康に維持されることで、口腔健康を通して患者さんの生活、
ひいては人生にささやかながら貢献できることを願って止みません 

最後になりますが、次回のブログはつい先日治療終了となったKさんの治療例をアップ予定です。
Kさんは歯の破折を主訴に来院されました。
割れている歯に対して破折歯接着保存治療を行うと共に、歯を守るためにインプラントも行っています。
次回もぜひこの「なえぼほのぼのブログ」をご覧ください。

苗穂駅前 秋の一風景
         苗穂駅前 秋の一風景



2018.10.08

破折歯接着保存治療歯の10年経過症例 Part1( I さんのケース)

台風一過、今日は秋晴れの清々しい天気ですが皆様いかがお過ごしでしょうか、なえぼ駅前歯科の大村です。
台風25号の影響で7日(日)に予定していた札幌マラソンが中止になってしまいました 
娘がネットでたまたま見つけて前日に教えてくれたのですが、前々日までは全く知りませんでした(まあ、さすがに
走るのは難しかったと思いますが)。

私自身これまで大会中止を経験したことがありませんでしたので、今回ハーフ参加費の5140円は返金されないという
ことも初めて知りました(大会開催に向けた運営費等に充当されるようです)。
大会の申込規約には「地震・風水害・降雪・事件・事故・疾病等による開催縮小、中止、参加料返金の有無、その額、
通知方法等についてはその都度主催者が判断し、決定します」とあり、例えばコンサートが台風で中止になった場合、
チケットは払い戻しされますが、マラソンの場合はこれまで中止になった大会もほとんどが返金されていないようです。

今年は7月の広島学会参加の際にも西日本豪雨の直撃に遭いましたし、「台風、洪水、地震などの自然災害は避けようが
ないしな~」ということで、三連休の6日は外を12km、翌日の大会予定日にはジムで10km走って札幌マラソンの元を
取りました(笑)

さて、前回のブログでもお知らせした通り、平成12年に当時63才で来院された I さんと平成10年に当時33才で来院
されたKさんの破折歯接着保存治療に纏(まつ)わるお話を2回に渡ってさせていただきます。

私が前回のブログでもお話しした眞坂信夫先生と出会い、歯根破折歯の接着保存治療を積極的に行うようになった
のは平成22年頃ですが、実はそれ以前にもその歯を保存する価値が十分あると私自身が考えたケースに限って、
破折歯の接着保存治療を行っていました。 I さんの破折歯もまさにそのような歯でした。

I さんの初診時のレントゲン写真です。

平成12年初診時

上顎はすでに歯がなく総義歯、下顎は前歯と左下奥に1本だけ奥歯が残っており部分床義歯が装着されていました。
I さんの主訴は、
1.バネの部分の見た目が悪くよく噛めない(下顎)
2.装着感の良い軽い義歯(上顎)を入れたいとのことでした。

平成13年治療終了時の状態です。

平成13年治療終了時

下顎はコーヌス義歯というバネのない二重冠義歯、上顎は軽くて生体親和性の良いチタン金属床義歯を作製しました。
治療終了後調子は良く、I さん曰く「義歯のように見えない」「何でも食べられる」とのことでした。

しばらく経過は良好だったのですが、治療終了7年目、平成20年に右下犬歯が腫れたとのことで来院されました。
調子良く噛めていたことと引き換えに歯に負担をかけ続けたことが、結果として金属ポスト先端部での歯根破折を
引き起こしていました。

 平成20年右下犬歯の状態

こういうタイプの下顎義歯(コーヌス義歯)はカメラの三脚と同じで足が一つなくなってしまうとバランスが悪くなります。
今回歯根破折を起こした右下犬歯を失ってしまうと、その後は左下の内冠が装着されている2本の歯に大きな負担が
かかります。即ち、右側で噛むと左下の2本の歯は右に揺さぶられるようになり、結果、左下にも歯根破折等のトラブルを
引き起こしやすくなります。I さんと相談の上、歯周外科処置による口腔内接着法という方法で右下犬歯の接着治療を
行うこととしました。

平成25年(治療終了12年後、接着保存治療5年後)の状態です。何事もなかったかのように問題なく経過しています。

平成20年の状態

「とにかくよく噛める」「ここで(破折した右下犬歯部)で食べると食事がおいしい」とのこと(ひえ~~、  )
「一度割れている歯なので、くれぐれも加減して優しく噛んでくださいね」とお話ししました

I さんは以前からパーキンソン病を患っており、年々歩行が難しくなりながらも遠く山の手から年に2回、時にはタクシーを
使ってメインテナンスに来院されていましたが、治療終了17年後の昨年の受診を最後に施設に入居されることになり、
大変残念なのですが当院でのメインテナンスを継続することが困難になってしまいました。
治療終了17年後、最後にお撮りしたレントゲン写真です。

治療終了17年後

今年5月に息子さんがメインテナンスで来院され、「母はお陰様で、歯も入れ歯も調子よく使えています」とのこと、
とても安心しました。長いメインテナンスの中で、上下義歯とも一度ずつ義歯の裏を貼り直してはいますが、下の前歯の
虫歯の治療以外は一箇所の再治療も歯の喪失もなく、64才から81才を I さんは過ごされました。

前回のブログでもお話ししたように、割れているから治療不可能ということでそのまま放置していたら、あるいは10年前の
時点で抜歯をしていたら、その後左側の歯にも負担がかかりトラブルの連鎖を引き起こした可能性は十分あると思います。

治療の難しい1本の歯の保存に努めることは、単にその歯を残すという価値のみならず、次の抜歯予備軍となる歯の
保存にも繋がります。

見栄えの良い、快適な、よく噛める義歯を長く維持することができたことで、I さんのかかりつけ歯科医として、
I さんのQOL(quality of life、生活の質)の向上に確実に貢献できたのではないかと思います。

開業当時に60代であった患者さんが、20年以上経って少しずつ通院できなくなってしまう状況はとても悲しいのですが、
お元気で通院していただけている間は、患者さんの最後のかかりつけ歯科医として責任を持ってメインテナンスし続け
たいと考えています